古物商のポール・フィッツサイモンズ氏は2019年、装飾を凝らした木製の鳥を競売で75ポンド(約1万1000円)で落札したとき、王族に関係のある品に違いないと直感した。だが、それが誰なのかは分からなかった。
そこで同氏は「探偵」として調査を開始。その結果、もともとの所有者は英国王ヘンリー8世によって斬首刑に処されたチューダー朝の王妃アン・ブーリンだったとの結論に至った。今やこの希少な遺物の価値は20万ポンド前後に上るとみられている。
フィッツサイモンズ氏はイングランド南西部デボンの出身。木製の鳥はハンプトンコート宮殿にあったブーリンの居室に飾ってあった可能性が高く、フィッツサイモンズ氏は同宮殿に長期貸し出しを行うことを計画している。同氏によると、うれしい発見にこぎ着けたのは、この鳥とそれを描いたハンプトンコート宮殿にある線描画とを突き合わせた後のこと。鳥と線描画とを対照して分析した結果、同氏の直感が裏付けられた。
フィッツサイモンズ氏はCNNの取材に、「アン・ブーリンはおそらく全ての時代を通じて最も有名な女性であり、本当に素晴らしい発見といえる」「ヘンリー8世は彼女のあらゆる痕跡を消そうと手を尽くした。彼女の紋章はすべて宮殿から撤去され、後には何も残らなかった」と説明。「これは実に華麗な作品だ。保存状態は完璧で、本来の金箔(きんぱく)や塗装がすべて残っている」と言い添えた。
ヘンリー8世はブーリンと結婚するため、1533年に最初の妻キャサリンと離婚したことで知られる。これがきっかけでカトリック教会とは異なる英国教会が誕生した。しかし3年後、ヘンリー8世は不倫や近親相姦、謀略の罪でブーリンの死刑を命じた。
ヘンリー8世とアン・ブーリンの初対面の様子を描いた19世紀の絵画/Heritage Images/Hulton Fine Art Collection/Getty Images
フィッツサイモンズ氏は、ブーリンの鳥の高価さは注目に値するが、自分にとって最も重要なのはそれを「あるべき場所に戻す」ことだと語る。
「ぜひハンプトンコート宮殿に戻すべきだと思う」「大変な価値の品ではあるが、価値の問題ではない」(フィッツサイモンズ氏)。なお、ハンプトンコート宮殿はヘンリー8世のお気に入りの住まいだった。
ハンプトンコート宮殿を管理する慈善団体、歴史的王宮協会の主任学芸員トレイシー・ボーマン氏もCNNの取材に、ブーリンの木製のハヤブサが見つかり感動していると語った。
「この発見は大変な重要性を持つ。ヘンリー8世は1536年のブーリン処刑後、宮殿から彼女の痕跡をすべて消すことを望んだため、ブーリンに関係する遺物は極めて珍しい」(ボーマン氏)
ヘンリー8世の2人目の妻、アン・ブーリン/Hulton Archive/Getty Images
ボーマン氏のこの鳥について、「アン王妃即位に備えてハンプトンコート宮殿の大広間に彫られた他の作品に非常によく似ており、全体の装飾計画の一部をなしていた可能性が高い」「彫刻術はみごとであり、修復作業の結果、高いステータスの品であったことを示唆する美しい金箔が現れた」と説明。
「アンの支持者のおかげで破壊を免れた可能性が高い」との見方も示し、「今日に至るまで500年近くも残っているのは驚きだ」と語った。
ボーマン氏によると、今回の発見がブーリンの熱心なファンの興奮を誘うのは確実だ。
「ヘンリー8世のすべての妃の中で、アン・ブーリンは圧倒的な人気を誇っており、今回の発見は大きな関心を集めるだろう」(ボーマン氏)
ボーマン氏の近刊「Crown & Sceptre(原題)」では英王室の包括的な歴史を提示する予定。ブーリンの人生から残された遺物のことを知るのが間に合い、同書に盛り込めるようになって「大変うれしい」と語っている。