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艾未未氏、亡命先から中国共産党とIOCを批判

芸術家の艾未未(アイウェイウェイ)氏

芸術家の艾未未(アイウェイウェイ)氏/Chris J. Ratcliffe/Bloomberg/Getty Images

中国・北京で冬季五輪が開催される中、芸術家の艾未未(アイウェイウェイ)氏は改めて中国共産党を批判するだけでなく、国際オリンピック委員会(IOC)にも批判の矛先を向けている。艾氏は、IOCはビジネスを優先し、権威主義者らに寄り添い、中国選手らの安全を無視していると主張する。

世界的に有名な中国の反体制派で人権活動家の艾氏は、2021年から自らの意志で亡命生活を送るポルトガルで、CNNのクリスティアン・アマンプール記者とのインタビューに応じた。艾氏は、かつて中国で国家権力の転覆を扇動したとして81日間拘束された経験があり、中国に戻ると危険と考え、約7年間、欧州で亡命生活を送っている。

艾氏は、母国である中国を離れる数年前、「鳥の巣」の愛称で知られる北京国家体育場の設計顧問を務めたことで知られる。国家体育場は、2月4日の夜に行われた北京冬季五輪の開会式の会場にもなった。

複雑に織り合わせた鉄骨の構造物に包まれたこのオープンルーフのスタジアムは、08年の北京夏季五輪の主要会場のひとつとして使用された。スイスの建築設計事務所ヘルツォーク&ド・ムーロンの協力を得て建設されたこのスタジアムは、完成に5年を要し、新しい近代中国を象徴する建物として設計された。

しかし、艾氏はこのスタジアムの建設プロジェクトから距離を置き、開会式の前に、中国による五輪の開催を批判した。艾氏はそれが、艾氏自身が感じた中国での生活の過酷な現実に対するプロパガンダの手段と考えていた。

艾氏は2月4日に放送されたアマンプール氏とのインタビューで「残念ながら、建築家は(自分が設計した)建物の使い道は決められない」と述べ、さらに「国家体育場の使われ方だけでなく、中国が過去数十年間たどってきた方向にも深く失望している」と付け加えた。

艾氏は、最近出版された自伝「1000 Years of Joys and Sorrows(原題)」の中で、中国の陶器をモチーフにした北京国家体育場のデザインに言及している。艾氏は著書の中で「このデザインを通して、自由は実現可能であるというメッセージを伝えたかった」とし、さらに「(このデザインには)民主主義、透明性、公平性に関する何か根本的なものが込められている」と述べている。

「不当な扱いを受けている全ての人々を守らなくてはならない。それこそが、より良い未来を築くための唯一の方法だ」

また当時、いずれ中国が民主的かつ自由で、透明性のある国になると心から信じていたかとの問いに対し、艾氏は「無論、そのころまではそう信じていたが、今は疑念を抱いている」と述べ、中国はいろいろな意味で「後退」してしまったと付け加えた。

艾氏は、今年の北京冬季五輪についても公然と批判してきたが、中国は今回の冬季五輪の開催に至るまでの間、新疆での人権侵害疑惑から、厳格な新型コロナウイルス対策、さらに中国の女子テニス選手でオリンピックにも3度出場している彭帥(ポンショワイ)さんの安否に対する世界的な懸念など、さまざまな問題で国際社会の厳しい監視の目にさらされてきた。彭さんは、中国共産党の元幹部から性行為を強要されたと訴えた後、2週間以上公の場から姿を消した

中国政府は、人権侵害に関する数々の疑惑を否定し、さらに彭さんの安否に対する懸念についても「悪質な憶測」と一蹴した。一方、IOCは艾氏の告発への直接の回答は避けたが、CNNへの声明の中で、人権は五輪憲章とIOCの倫理規定のどちらにも記されており、IOCは人権を認め、支持すると述べた。またオリンピックには多種多様な人々が参加するため、IOCは世界のさまざまな政治問題について中立的な立場を維持しなくてはならない、としている。

しかし艾氏は、今までIOCが中立だったことは一度もないとIOCの主張に異議を唱える。艾氏はアマンプール氏とのインタビューで、「IOCは常に権威主義者や企業に寄り添っている」とし、さらに「08年の北京夏季五輪以来、IOCは中国政府のプロパガンダに協力しており、今回(の冬季五輪で)はさらに連携を強めている。IOCは(中国の)一流選手らの安全や幸福など気にしていない」と反論した。

艾氏は、選手らに五輪出場をボイコットするよう呼び掛けてはいないが、「オリンピックや競技で重要なのは公平性だ。だからこそ、人間の精神の代表者である選手らは、当然、人権や言論の自由といった極めて重要な問題を擁護すべきだ」と述べ、選手らの正義感、公平感に訴えかけた。

「鳥の巣」の愛称で知られる北京国家体育場/Goh Chai Hin/AFP/Getty Images
「鳥の巣」の愛称で知られる北京国家体育場/Goh Chai Hin/AFP/Getty Images

「どこの国の市民でもない」

艾氏は、自身初の自伝を執筆した理由について、艾氏の言う、中国で暮らすことの「ばかげた」現実を若者に知ってもらうためだったと語った。

艾氏はアマンプール氏に、「息子と同世代の若者が、息子の父、祖父が実際にどのような仕打ちを受けたかを理解できるよう、書き残しておく必要がある」と述べた。

詩人だった艾氏の父も艾氏の幼少期に国家権力の転覆を図った罪に問われ、投獄された後、新疆の強制収容所に送られた。艾氏も後に新疆にいる父に合流したが、中国は現在も新疆でウイグルなどのイスラム教徒の少数民族に対しジェノサイド(集団殺害)を行っていると米国から非難されている。

艾氏は、最終的に中国では芸術家として安心して暮らせないため、15年に中国を離れたという。艾氏のコンセプチュアルな作品の多くは、中国で賛否が分かれると考えられている。出土した遺物を使って中国の過去や現在の問題に取り組む作品が多く、例えば、明や清の時代の全壊した家屋の残骸や、08年の四川大地震で崩壊した学校から回収された鉄の棒を使って彫刻を作成している。また1995年に艾氏が漢王朝時代のつぼを故意に落として壊す様子を撮影した3枚続きの写真も有名だ。

艾氏は、自主的に亡命生活を続ける理由について、「中国は完全に共産党一党の支配下にあり、共産党は何でもできる」と述べ、さらに次のように続けた。「共産党は、誰かを消し去ることもできるし、弁護士をつけずに裁判にかけることもできる。また、長期間投獄することも可能だ。誰も国家権力に異を唱えることはできない。それが現実だ。よって安心感、普通の生活を望むなら、(中国から)脱出するしかない」

艾氏は、中国以外の国々に対しても批判的で、特に西側諸国の難民の扱いを強く批判している。

艾氏はアマンプール氏に「私はこの世界の市民だ。そういう言い方ができればの話だが、実際はどの国の市民でもない」と述べ、さらに次のように続けた。「よって、どこででも不正を発見すれば、常にその不正は(他の国にも)関係していると考える。アフガニスタンやシリアで何が起ころうとも、それは中国に関係しているし、米国にも関係している。我々は人類、人権を一体として理解する必要がある。不当な扱いを受けている全ての人々を守らなくてはならない。それこそが、より良い未来を築くための唯一の方法だ」

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