香港(CNN) 中国軍は1日、二つに破れた巻物が台湾海峡を越えて再会を果たすまでを描いたアニメーションを公開した。そこから透けて見えるのは、民主主義統治を行う台湾との「統一」という中国の長年の夢だ。
アニメーションは中華人民共和国の建国記念日にあたる国慶節に合わせて中国人民解放軍(PLA)東部戦区が公開したもので、国外に眠る中国の歴史遺産をめぐる国家主義的な感情に乗じた最新のショートムービーだ。
中国共産党は、人口2400万人を抱える台湾を自国領だと主張しているものの、実効支配したことは一度もない。必要であれば武力を行使してでも台湾と中国本土の「統一」を果たすと誓って久しい。
東部戦区はそうした脅迫のまさに中心的存在だ。巨大な中国軍でも台湾海峡での活動を統括する東部戦区は、台湾への精密攻撃を想定したシミュレーションなど軍事演習を定期的に行っている。
台北の国立故宮博物院に展示されている「富春山居図」=2011年6月/Patrick lin/AFP/Getty Images
アニメーションでは、半分に分かれた有名な山水画「富春山居図」の象徴として、2匹の妖精が登場する。
宋の水墨画家、黄公望が14世紀に描いたこの絵巻物は、1650年の火事で損傷して二つに分裂し、片方は台北の国立故宮博物院に、もう片方は中国・杭州の浙江省博物館に収蔵されている。
その結果、絵巻物はずいぶん前から台中分断の具体的象徴と見られていた。
アニメーションでは、台湾の妖精が「12年前に自分を訪ねてきた」杭州の妖精に会いに行こうと決心する。台湾の妖精が追憶するこの出来事は、2011年に台中共同企画の展覧会で中国が台湾に巻物の半分を貸与し、一つの作品として展示したことにちなんでいる。束の間ながら、双方に温かい絆が生まれた時期だった。
「富春山居図」を眺める来館者=2011年6月、台北の国立故宮博物院/Patrick lin/AFP/Getty Images
台北から杭州へ向かう途中、妖精は中国軍の軍用機や軍艦とすれ違い、その威力に圧倒されて「カッコいい!」と歓声を上げる。
台湾の妖精は浙江省博物館で片割れと再開を果たす。2匹の妖精は杭州で開催のアジア大会へ足を運び、ちょうど開会式で台湾チームが「中華台北」と紹介されるのを目にする。
中国は長年にわたり、国際社会で台湾をのけ者にしてきた。結果として台湾は、世界保健機関(WHO)などの国際組織に加盟できずにいる。加盟が認められたとしても、名称は「中華台北」だ。オリンピックをはじめとする各種スポーツ大会でも同様で、大勢の台湾人から反感を買っている。
アニメーションは、2匹の妖精が一つの絵巻物として合体して幕を閉じる。
杭州アジア大会の台湾選手団の入場シーン=9月23日/Shi Tang/Getty Images
近年、中国政府は台湾に軍事的圧力を強め、中国の習近平(シーチンピン)国家主席も「台湾統一」は「必ず達成しなければならない」と宣言している。
好戦的な色合いを増す習氏の発言や、台湾周辺での中国軍の演習の急増、中国と同じように長年ウクライナに脅しをかけていたロシアが侵攻に踏み切ったことなどが相まって、いつか中国も台湾で同じことをするのではないかとの恐れが現実味を帯びている。
中国政府は先月、対岸の協力関係を強化するとのうたい文句で、台湾と中国沿岸の福建省の「融合発展」計画を発表した。その一方で、台湾周辺に戦艦を派遣して軍事力を誇示している。
来年1月には台湾総統選を控えるという微妙な時期にも差しかかっている。生活費や賃金水準の低迷など生活上の問題と並び、台湾の外交政策と対中関係も選挙の主な争点だ。
「大英博物館からの脱走」
中国軍によれば、アニメーションのヒントになったのは最近インターネット上で話題の拡散動画「大英博物館からの脱出」だという。中国の翡翠(ひすい)の茶器に命が吹き込まれ、ロンドンから中国に戻る旅に出るというシリーズ動画だ。
この動画は中国のソーシャルメディアで大人気となり、閲覧回数は数億回にものぼる。動画共有アプリ「TikTok(ティックトック)」の中国国内版「抖音(ドウイン)」で公開された第1話には、これまでに1000万人件以上の「いいね」を獲得している。
動画が公開されたのは今年8月で、ちょうど大英博物館の窃盗事件が世界中で話題になったのと同じ時期だ。盗まれた2000点の収蔵品には古代ギリシャや古代ローマの遺物もあり、博物館の館長は辞職に追い込まれ、現在も警察の捜査が続いている。
シリーズ動画と実際の窃盗事件に中国国営メディアも飛びついて、時には国家主義色をにじませながら、大英博物館に眠る中国の文化遺産の返還を訴えた。
中国では文化財が持ち去られた過去が今なお大きなしこりとして残り、現代の中国では大勢の人々が遺物返還の願望とともにさまざまな感情を抱いている。
他の国々同様、中国も植民地時代に略奪された過去がある。とくにひどかったのが、1860年に英仏連合軍が北京の頤和園(いわえん)を破壊した後と、その後数十年にわたる日本統治下の時代だ。
1949年の国共内戦で、蒋介石率いる国民革命軍が毛沢東率いる共産党軍に破れると、国民革命軍は中国の国宝の一部を新たな拠点の台北に持ち運んだ。台湾の故宮博物院が世界でも有数の中国の文化遺産や芸術作品を収蔵しているのはこのためだ。
国営英字紙グローバルタイムズは、シリーズ動画「大英博物館からの脱出」が「国民の琴線に触れ、胸の奥に眠る愛国感情を反映している」という記事を掲載した。別の論説記事では、「汚く罪深い手法」で「略奪」した中国の遺物を展示している大英博物館を非難している。
同じような感情は、「大英博物館からの脱出」を閲覧した抖音ユーザーにも広がっている。あるユーザーは1日、「国慶節に改めて動画を見直したら、こらえきれなくなってむせび泣いた! いつか偉大なる中国が、尊厳をかけて国宝を取り戻してくれると信じている」と投稿した。