(CNN) 正体不明のストリートアーティスト、バンクシーによる壁画作品がこのほど、描かれた建物の解体に伴って破壊された。壁画が最初に姿を現したのは、英国が欧州連合(EU)からの離脱を国民投票で決定して間もない時期だった。
壁画には100万ポンド(約1億8600万円)前後の価値があるとされていた。その存在は英国の沿岸部の町ドーバーで、2017年に初めて確認された。この前年、英国は物議を醸した国民投票によってEUからの離脱を決めていた。
壁画は作業員1人が青いEU旗に描かれた12個の黄色い星の1つを削り取る様子を描写している。
その後、同作品はEUへの玄関口として知られるドーバーを訪れる観光客にとってのランドマークになったが19年、一夜にして消失。画面全体が白く塗りつぶされた。
復元の可能性が模索されたにもかかわらず、今では建物自体がより広範な再建計画の一環として解体されてしまった。
「ザ・ベンチ」と名付けられたこの新たな開発計画は、文化的な施設と複数の住宅を組み合わせたものになる予定。地元の自治体が明らかにした。
CNNに宛てた声明でドーバー市議会の広報担当者は、「建物の解体を承認する前、また専門家から保存に関する助言を受けた上で、市議会はバンクシー作品について、相当のコストをかけなければ保存は実現できないと判断した。コストは地元の納税者が負担することになる。たとえ技術的に保存が可能だとしても、それが実情だ」と述べた。
壁画は2019年に白く塗りつぶされたが、これに先駆け部分的な保存を試みる取り組みがなされていた/Luke MacGregor/Bloomberg/Getty Images
オンライン上で公開した詳細な計画説明の中で、市議会は壁画の塗りつぶしへの関与を否定した。
それでも上記の広報担当者は、市議会の請負業者が「バンクシー作品について何らかの形での保存が可能かどうか確認を試みている」と明らかにした。
その上でこの件については「確かなことが言えない」と指摘。「作品が上から塗られ、状態が良くないことを考慮するとそうなる」と述べた。ただ請負業者は星と作業員、梯子(はしご)の部分をうまく取り除くことができたとも付け加えた。
追加のコストは全額解体業者が負担する。このため保存に成功すれば、作品は同社の資産と見なされることになる。
CNNに宛てた声明で解体業者の広報担当者は、回収した壁画の一部を現在「査定中」だとした。
その上で「地元住民が楽しめるように、作品の救済に全力を挙げている」と言い添えた。
バンクシーは神出鬼没のアーティストで、その素性は特定できていない。今回の建物の解体について、本人から公のコメントは出ていない。
バンクシー作品の市場価値は近年うなぎ上りだが、本人は公共の空間での描画を続けている。それらの作品は保存が難しいのに加え、盗難や汚損を誘発してもいる。
バンクシーが描いた最も有名な壁画の一つ「スパイ・ブース」は、録音機材を持ったスパイ風の男3人が公衆電話を取り囲む姿を描いたものだが、16年に破壊された。
また今年2月、廃棄された本物の冷蔵庫を部分的に組み合わせた壁画がイングランド南東端の町マーゲイトに現れたが、バンクシーが自らの作品だと確認したところものの数時間でこの冷蔵庫は持ち去られてしまった。
18年には、バンクシー本人が自身の作品の1つを破壊したことが話題を集めた。女の子と赤い風船が描かれたこの絵画作品は、オークションを通じ140万ドル(現在のレートで約2億円)で落札された直後、シュレッダーにかけられた。