（ＣＮＮ） 「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・シャオリン（Ｏｎｃｅ Ｕｐｏｎ ａ Ｔｉｍｅ ｉｎ Ｓｈａｏｌｉｎ）」は、そのタイトル通りミステリアスな作品だ。伝説の米ヒップホップグループ、ウータン・クランが６年の歳月をかけて秘密裏にレコーディングしたこのアルバムは、これまでＣＤが一つしか制作されておらず、フルで聴いたことがある人はほんの一握りだ。
今月、オーストラリアのタスマニア島にある博物館に行けば、運が良い一部の人たちがこのアルバムを聴くことができるという。
ミュージアム・オブ・オールド・アンド・ニュー・アート（ＭＯＮＡ）は、ヒップホップの歴史に残る貴重なＣＤが、６月１５日から２４日まで展示されると発表した。
アルバムは１週間近くにわたり開催される展示会の一環として公開され、キュレートされたプライベートリスニングセッション用の無料チケットが限定数用意されている。
ＭＯＮＡのジャロッド・ローリンズ学芸部長は、アルバムの展示について、「物質的な状況を超越した神秘的な特性を持つ」希少な品々を探求するＭＯＮＡの「ネームドロッピング（Ｎａｍｅｄｒｏｐｐｉｎｇ）」展の一環であると語った。
「『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・シャオリン』は単なるアルバムではない。ステータス、そして超越的なネームドロッピング（有名人の名前をあたかも知人であるかのように語ること）とは何かについて考えたとき、今回の展示会に出品しなければならないと考えた」とローリンズ氏は声明で述べた。
ＭＯＮＡによると、アルバム自体は２１０３年まで商業的に利用できないという法的契約に縛られているが、プライベートなリスニングパーティーでは再生することができるという。
ウータン・クランは、２０１４年３月に「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・シャオリン」を制作し、最高額入札者に販売すると発表した。アルバムは手彫りの箱に収められ、歌詞とその裏話が書かれた羊皮紙の革装本が付いていた。
ウータンのメンバーであるロバート・“ＲＺＡ”・ディグス氏は１４年、米経済誌フォーブスに対し、アルバムを１枚だけリリースすることで、「（現代）音楽史上、誰もやったことのないような芸術作品を世に送り出したかった」と語っている。ＲＺＡ氏は、このアルバムはデジタル時代における芸術としての音楽の価値が低下していることへの抗議として作られたとも、インタビューで述べている。
ウータン・クランは１９９０年代に米ニューヨーク・スタテン島出身のラップグループとして誕生した/Bob Berg/Getty Images
それ以来、このアルバムはリリースと同じくらい特異な歴史を歩んできた。
１５年、悪名高い「ファーマブロ」ことマーティン・シュクレリ氏が、アルバムを約２００万ドルで落札し、当時世界で最も高価な音楽アルバムとなった。
だが、米連邦当局はシュクレリ氏からアルバムを押収した。シュクレリ氏は０９年から１４年の間に投資家から１０００万ドル以上をだまし取ったとして、１７年に証券詐欺と共謀の罪で有罪判決を受けた。
シュクレリ氏は、バイオテクノロジー企業レトロフィンの最高経営責任者（ＣＥＯ）を務めていた時代に関連した有罪判決を受ける前の１５年、「全米で最も嫌われている男」と呼ばれていた。製薬会社チューリング・ファーマシューティカルズのＣＥＯだった当時、エイズ患者が使用する医薬品の価格を１錠１３．５０ドルから７５０ドルに引き上げたのだ。
２１年、米司法省は買い手を明かさずにアルバムを売却した。司法省は当時、アルバムの売却金は１８年３月の判決でシュクレリ氏に下された約７４０万ドルの没収命令の残金に充てられると述べていた。
アルバムの貴重な中身の様子/Jon Lynn/Wu-Tang Clan/Pleasr/Museum of Old and New Art
自らを「分散型自律組織」と名乗るデジタルアート集団「ＰｌｅａｓｒＤＡＯ」は、ＮＦＴ（非代替性トークン）デジタルアートをいち早く採用した集団だが、同年にビデオ内で、暗号通貨を使ってこのアルバムを購入したことを認めた。
ＰｌｅａｓｒＤＡＯはアルバムの購入に費やした金額を明らかにしていないが、米紙ニューヨーク・タイムズは、４００万ドル相当で取引されたと報じている。
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