(CNN) 米ニューヨーク・ブルックリンのアートディレクター、ザック・ギルヤードさんは高校3年生の時、初めてタトゥーを入れた。10代の若者がみんなやっていたことで、両親にも話さなかったが、その動機は意外に思えるかもしれない。ギルヤードさんの父親や兄姉たちはみんなタトゥーをたくさん入れていたのに対し、ギルヤードさんは母親と同じく、入れるつもりが全くなかった。ところが2006年に思いつきで足首にタトゥーを彫った。走るという意味を込め、足に羽が生えたデザイン。それを家族の前では隠し続けた。
ギルヤードさんは電話インタビューで、タトゥーを入れたのは「あまり自分らしくなかった」と振り返った。「その頃は自分で状況をコントロールできない時期だったので、自ら何か消せないことをしているのだという、ちょっとしたスリルがなんとなく気に入った」
それから12年間でさらにいくつかのタトゥーを入れた後、ギルヤードさんは突然、逆戻りしようと決めた。左腕全体に黒いインクで伝統的な絵柄を散りばめたタトゥーを彫り始め、まず肩にヒョウの頭を入れた直後のことだった。狙い通りに大きく大胆なデザインだったが、それを見てギルヤードさんは不安に襲われた。
「私はタトゥーを入れるたびに、これでよかったのかと少し後悔した。1~2週間くよくよした後は、入れてよかったという気持ちになったものだ」と、ギルヤードさんは言う。ところが、この時は収まらなかった。「それがたぶん1カ月ほど続いたので焦ってしまい、完全なパニックに陥った。理由は説明できなかったが、ただいらないと思い、その時点で自分自身に消そうと告げた」

ニューヨーク在住のザック・ギルヤードさんはヒョウの頭を入れた直後に伝統的な絵柄を彫る計画をとりやめた。除去後、タトゥーはほぼ消え、わずかに輪郭が残る程度になった/Courtesy Zach Gilyard
米シンクタンク、ピュー研究所が2023年、米国内の8500人近くを調査した研究によると、自分が入れたタトゥーのうち少なくとも一つについて後悔している人は全体の約4分の1を占める。22年にトルコで実施された小規模な調査でも、同様の結果が出た。だがタトゥー除去の信頼性が上がり、広く提供されるようになったのは、比較的最近のことだ(これは筆者も証言できる。10代の頃に自分で手彫りしたタトゥーを08年にレーザーで除去したが、大変な苦痛だった)。
著名人がタトゥーを除去して話題になることも多い。アンジェリーナ・ジョリーが03年にビリー・ボブ・ソーントンと離婚した後、ソーントンの名前を消したのはよく知られている。メーガン・フォックスはマリリン・モンローを描いたタトゥーを除去した。ファレル・ウィリアムスは08年、ファッション誌ヴォーグ英国版とのインタビューで、皮膚細胞の培養を含む実験的な除去方法を試していると話した。最近ではピート・デービッドソンが2月のバレンタインデーにアパレルブランド「リフォーメーション」の広告キャンペーンで、タトゥーの消えた胸を披露した。200ほどあったタトゥーの除去を進めているとされるが、広告の後にフリーカメラマンが撮影した写真では、薄くなったインクがまだたくさん残っていることが明らかになった。
ギルヤードさんの場合は何百個ものタトゥーを消したわけではないが、数個の除去に5年以上の月日と数千ドルの費用がかかった。ヒョウの頭はしっかり刻まれてしつこかったものの、今ではほぼ消え、肌のしみに重なってぼんやり残るだけとなった。もっと小さいほかの絵柄はさらに薄くなり、自分でもほとんど分からないという。
「結果は人によって、またタトゥーごとに違う」と語るのは、ブルックリンで治療院「ゴッサム・タトゥー・リムーバル」を開業し、ギルヤードさんの除去治療にあたっているレーザー技師兼タトゥーアーティストのティム・ゴアゲン氏だ。

ブルックリンの治療院「ゴッサム・タトゥー・リムーバル」で治療を受ける前のギルヤードさんのタトゥー/Courtesy Zach Gilyard

「ゴッサム・タトゥー・リムーバル」での治療後/Courtesy Zach Gilyard
ゴアゲン氏は1回の治療につき100~450ドル(約1万5000~6万4000円)の料金を設定している。全米チェーンの「リム―バリー」が公式サイトに載せている料金は、1回100~615ドル。本人の望む結果が出るまでに何回の治療が必要になるか、予測するのは難しい。ゴアゲン氏によれば、隠せる程度に薄くなればいいというケースや、完全に消したいというケースなど、人それぞれだという。
「若気の至り」を修正

ロサンゼルス在住のサシャ・ゴールドバスナザリアンさんは妊娠に伴い、タトゥー除去を休んでいるが、あまり再開したいとは思っていないという/Austin Steele/CNN
なぜタトゥーを入れたいのかという理由は人によって違うが、タトゥーを消したい理由も人それぞれであることが多い。米ロサンゼルス在住のサシャ・ゴールドバスナザリアンさんは、今の夫と出会ってからレーザー治療を始める決心をした。2人ともユダヤ教徒だが、夫のほうが保守的なイラン人家庭の出身だ。
ユダヤ教では律法の解釈や、ナチス・ドイツによるホロコースト(ユダヤ人大虐殺)を連想させるとの理由から、タトゥーが長年タブー視されてきた。だが現在の考え方は多少変化している。「初めて会った時、彼は私がユダヤ人だとは信じなかった。タトゥーを入れていたから」と、ゴールドバスナザリアンさんは笑って振り返る。「タトゥーのあるユダヤ人なんて会ったことがない、という感じだった」
夫からはやがて、特に目立つタトゥーを除去するための費用を出そうと申し出があった。ゴールドバスナザリアンさんによれば、高校、大学時代に「若気の至り」で刻んだタトゥーだ。足首の星は、しろうとの友人にタトゥーマシンで入れてもらった。背中の上部には蹄鉄(ていてつ)と星の絵柄。手首のイニシャル「UWS」は、出身地のニューヨーク・アッパーウェストサイドを示す(筆者はゴールドバスナザリアンさんの幼なじみで、ギルヤードさんの元同僚でもある)。

ゴールドバスナザリアンさんは三つのタトゥーについて複数回レーザー治療を受けたが、あまり成果は得られていない/Austin Steele/CNN
ゴールドバスナザリアンさんは申し出を受け入れた。理由のひとつは、タトゥーが消えかけたりぼやけたりしていて、質問を受けることも多かったから。もうひとつは交際中、正式な場に出るからと化粧で隠すのが面倒になってきたからだった。だが当時は、除去するのにどれだけ時間がかかるか予想もしていなかった。除去治療は1回数分間だが、タトゥーを入れた時よりずっと痛いということも。
「(治療は)すぐ終わるけれど、とても痛い。そのうえ自分の皮膚が少し焼けるにおいがして、気持ちが悪かった」と、ゴールドバスナザリアンさんは話す。何年かの間、治療に通ったり中断したりしていたが、妊娠中は治療院の方針で長期間休まざるを得なかった。子どもが生まれた今も、急いで戻ろうとは思っていない。「正直言って、まだ何回も治療を受ける必要があるけれど、痛いからという理由で先延ばしにしている」という。
新たなスタートに向けて

ジェイン・フーさんは指に入れていた一番小さなタトゥーを除去したところ/Laura Oliverio/CNN
シンガポールのファイナンシャル・コンサルタント、ジェイン・フーさんは2~3カ月前、タトゥーの約7割を除去する治療に踏み出してから、もっと過酷な回復過程をたどっている。消すのは両腕全体を覆う「フルスリーブ」のうち一方と、胸部に彫った絵柄、腹部の大きな絵柄など。インスタグラム上のフォロワー1万4600人に向け、傷口やら体液やら、大変な経験のすべてを記録している。患部が赤くなったりひりひりしたり、腫れたりするのはよくある症状だが、水ぶくれができることもある。フーさんは最初の2回の治療でどちらも水ぶくれになった。
フーさんはCNNとの電話インタビューで「私は常にタトゥーを入れたい気持ちを自覚していたが、若い頃はまともなタトゥーを彫るお金などあったためしがなかった。だから将来の見た目がどうなるかを考えず、何でも彫りたいものを体に彫った」と話した。どうして今、除去しているのかについては「新たな出発をしたい。自分の肌を取り戻したい」と語った。
フーさんは何年にも及ぶ治療を始めるにあたり、このメッセージをSNSのフォロワーにも伝えたいと考えている。除去治療を報告するインフルエンサーは、フーさんが初めてではない。クリニックと提携して宣伝や結果の紹介を始めた人もいる。だがSNS上の映像には、治療そのものしか映っていない場合が多い。インクの色がすぐ薄くなるものの、短時間(約15~20分)の一時的効果にすぎず、その後元に戻ってしまう「フロスティング」という現象によって、誤った印象を与えてしまう恐れもある。
フーさんの動画では、治療から数時間後、数日後までの経過が紹介される。この間に大きな、ひどい水ぶくれができ、それがかさぶたになって激しいかゆみに襲われたため、抗ヒスタミン剤を処方された。

フーさんは左腕を覆うタトゥーすべてを除去したい考えだ。右の写真は本人のインスタグラムから。フーさんは毎回の治療の様子を記録している/Laura Oliverio/CNN
「初めて治療を受けた時は腕が2倍の大きさに腫れあがった」と、フーさんは振り返る。「そんなことは予想もしていなかった」
回復初期の2~3日は人との接触を最低限に抑えるため、ずっと屋内で過ごした。「家から出るのはとにかく一大事」「身の回りに細心の注意を払い、体を清潔に保つ必要がある」と説明する。
フーさんは今後も、治療過程を記録にとどめる構えだ。「現実に目を向けることが重要」だからだという。フィットネスや旅行など、自分の生活のさまざまな面を記録することには慣れているので、投稿の中で「突然タトゥーがなくなる」のは「異様」だろうとも考えた。
これに対してギルヤードさんはより慎重な道を選び、除去の過程をほとんど公表していない。両親にもまた内緒にしていた。ただ両親は結局、薄くなったタトゥーに気付いた。
ギルヤードさんは「父がある日ついに私のタトゥーを目にして、なぜ老人のタトゥーのように見えるのかと聞いてきた」「母はただいくらかかったのかと尋ね、全部がお金の無駄だと言った」と笑い、「ただ、一部が消えることは喜んでいるはず」との見方を示した。
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原文タイトル:‘I want to reclaim my skin’: Why these people are removing their tattoos(抄訳)