インド・ムンバイの信号機が変わろうとしている。
1200万人以上の人口を抱えるインドの金融都市ムンバイは、男女平等の実現に向け、一部の信号機を交換する。新しい信号機には一般的な男性の絵柄ではなく、女性の絵柄(ドレスの形で女性と識別できる)が描かれる。
このプロジェクトは、ムンバイのあるマハラシュトラ州の観光・環境担当相、アディティア・タークレー氏の主導で実施されている「カルチャー・スパイン(文化の背骨)」と呼ばれる広範な都市イニシアチブの一環だ。
タークレー氏が所属する政党、シヴ・セーナーの地元のリーダー、サダ・サルヴァンカル氏は、この動きについて「女性へのエンパワーメント(女性に社会や家庭で自ら意思決定し行動する力を与えること)への重要な一歩」とツイートした。
2012年に首都ニューデリーで女学生が集団強姦され、殺害される事件が発生した後、インドの一部の都市では、都市計画が女性の生活にどのような影響を与えるかが話題になっている。暗い通りや人里離れたバス停、見通しの悪い曲がり角は、女性が夜間に1人で安全に出歩くのを困難にする一方、公共交通機関は嫌がらせや暴行の温床となる可能性がある。集団強姦事件の後、ニューデリー当局は、これらの安全上の懸念の一部に対処するために数多くの改革を実施した。
男女平等を強調する手段として信号機を利用したのはムンバイだけではない。ドイツの多くの都市では、かなり前から交差点に男女の絵柄が描かれた信号機を採用している。オーストリアの首都ウィーンも15年に信号機に同性カップルの絵柄を追加した。
スイスのジュネーブは、19年2月に男性の絵柄が描かれている市内の道路標識の半分を女性の絵柄に変更し、さらに妊婦、手をつないでいる2人の女性、アフロヘアの女性といったさまざまな絵柄を導入すると発表した。
インド・ムンバイに登場した女性の姿を扱った信号機/Aaditya Thackeray/Twitter
しかし、このような取り組みは批判にさらされることもある。例えば、17年にオーストラリアのメルボルンが信号機に女性の絵柄を追加した時、一部の住民は、従来のズボン姿の人物は男性で、ドレスを着ている人物は女性とみなすのは時代に逆行しており、異性愛を標準とみなす考え方だと主張した。また他の人々からも、信号の交換に使われた費用をより具体的な方法で男女不平等に対処するために使った方が良かったのではないかとの声が上がった。
インドは長い間、国内にはびこる根深い性差別に悩まされてきた。今も多くの家族が娘よりも息子を望むため、インドは世界で男女比が最もゆがんだ国のひとつとなっており、出生時の男女比は女児100人に対し男児107人だ。
2018年の調査によると、インドで、男女差別に関連するネグレクト(育児怠慢)で死亡する5歳未満の女児は毎年約23万9000人に上り、10年間で240万人の女児が死亡している。またインド政府は、2012年の集団強姦事件の後、変化を起こすと約束したが、女性に対する性的暴力・暴行は今も続いている。
ツイッターのユーザーは、「真のエンパワーメントは、女性の尊厳が法で保護されて初めて実現する」とし、さらに「単に女性のシルエットを信号機に張り付けるだけでは実現できない」と付け加えた。