東南アジアはごみ問題を抱えている。世界銀行によると、プラスチックごみによる河川、海洋の汚染が最もひどい10カ国の半数が東南アジアの国だという。さらにマレーシアやベトナムなどは、自国のごみに加え、先進国の消費者によって生み出されたごみの主要な輸入国でもある。
そのため、今年のシンガポール・デザイン・ウィーク(SDW)の主要テーマが「リサイクル(再利用)」「リユース(再使用)」「リパーパス(別の用途での再利用)」だったのも当然かもしれない。
SDWは9月に10日間の日程で開催され、国内外のデザイナーたちが、環境上の脅威に取り組んだり、その脅威を緩和する上でデザインが果たしうる役割を探ったりした。東南アジアの若いクリエーターたちの作品にスポットライトを当てたFINDデザイン・フェア・アジアには、特に革新的なアップサイクル(創造的再利用)製品の多くが出展された。
「Emerge」と題されたこの展示会には幅広い作品が出展されたが、キュレーターのスージー・アネッタ氏は、「ごみを宝物に」という強力なテーマに気付いた。
デザイン誌「デザイン・アンソロジー」の創刊者兼編集者でもあるアネッタ氏は、「デザイナーたちがどんな材料を使用しているか、またその材料をどこから入手したかの2点について、非常に多様性に富んでいる」とし、「ポストコンシューマー(消費者が使用済みの)材料やポストインダストリアル(市場に出る前の製造過程で発生した)材料もあれば、農業から発生した材料もある」と付け加えた。
アネッタ氏は「デザイナーは生まれつき好奇心旺盛で、問題解決能力も備えている」とし、さらに次のように付け加えた。「彼らは何が問題かをよく認識しており、たとえささいなことでも、自分なりの方法で問題解決に取り組む必要があることを自覚している。そして、我々は皆、これら(のアイデア)が拡張可能であることを期待しているだろう」
今回は、SDWで特に目を引いた製品、プロトタイプを7つ紹介する。
牛糞で作った家電
Design Fair Asia/Marc Tan
牛糞(ぎゅうふん)は天然の材料かもしれないが、水の汚染や、メタン、アンモニアといったガスの排出の原因でもある。デザイナーのアディ・ヌグラハ氏は、インドネシアの西ジャワ州における畜産業の環境への影響に対処するため、牛糞を加工し、耐久性のある家電製品を作る方法を開発した。
バンドン工科大学の教員兼研究者でもあるヌグラハ氏が率いるチームは、まず牛糞を水洗いし、臭いを取り除く。そして型の中でプラスチック片、木工用ボンドと混ぜ合わせ、弱火で硬くなるまで乾燥させる。
同プロジェクトは、これまでに印象的なランプやスツール、さらには家庭用スピーカーまで作った。製造工程はシンプルで、ほとんどエネルギーを消費しないため、この地域の村人もすぐにこれらの製品の製造に参加し、収入を得られるようになるかもしれない。
洗濯機用ホースで作ったランプ
I Am Not David Lee studio
シンガポールのアーティスト兼デザイナーのデビッド・リー氏は、洗濯機用のホースを使って魅力的なフロアランプ、電気スタンド、シーリングライトを作っている。作り方は、柔軟性のあるホースの中にLEDストリップライトを挿入し、独特な形に折り曲げるだけだ。その結果完成する彫刻のような形のライト(トップ画像も参照)は、リー氏が「走り書き」と表現する形を取ることが多い。この照明をシーリングライトに巻き付けると、ライトがまるで部屋に浮いているように見える。
「醜いホース」と呼ばれるこのランプシリーズは、今はまだ開発中の試作品だ。
プラスチックごみで作った家具
National Design Center
インドネシア・バリ島で人気のビーチクラブ・ホテル、ポテトヘッドのオーナーたちは、自分たちがバリ島の汚染の加害者であり被害者でもあることに気付き、6年におよぶ「廃棄物ゼロ」の取り組みを開始した。同社は、オランダの建築設計事務所OMAなど、さまざまなアーティストやデザイナーと協力して、事業の各部分を見直し、フットプリント(環境に与える負荷)を減らすためのプロセスや製品を共同開発した。
SDWの一環として開催された展示会「N*thing is Possible」で、この取り組みの足跡を見ることができた。例えば、ヤシの木の樹皮でできたデッキ用パラソルや、プラスチックごみで作られた椅子など、周辺の海岸線で回収された材料で作られたビーチクラブ用の備品などが展示された。この取り組みは現在も進行中であり、ポテトヘッドはすでにごみの排出量を大幅な削減に成功しているが、この展示会は「残された仕事」についても包み隠さず明らかにしている。
犬の毛で作ったラグマット
Singapore Design Week
シンガポールのデザイナー、シンシア・チャン氏によると、シンガポールの犬専用のグルーミングサロンで1日にカットされる毛の総量は約1キロにも及ぶという。そこでチャン氏は、カットされた犬の毛をただ廃棄するのではなく、フェルティング、タフティング、ニッティング、圧縮成形などの技術を使って、家庭用ラグマットとして利用可能な「毛皮」に変えた。
犬の毛は重大な汚染物質ではないかもしれないが、チャン氏の天然毛皮製品は、持続可能かつクルエルティーフリー(動物虐待なしに作られた)の合成毛皮製品の代替品だ。チャン氏は、加工されておらず、さまざまな表現が可能な犬の毛の研究をさらに進めたいとしている。
「柔軟性のある」おがくず
AIEVL Design Studio
インドネシア人デザイナー、デニー・R・プリヤトナ氏は、伝統的な彫刻・製織技術を使って作られたテーブルや椅子をSDWに出展した。しかし、それらの作品と同じくらい素晴らしいのは、プリヤトナ氏がおがくずを加工して作った材料だ。
プリヤトナ氏は、さまざまな種類の木のおがくずと接着剤を混ぜ合わせた結果、樹脂ではなく少量の接着剤を使用することにより、より柔軟で紙のような材料ができることを発見した。プリヤトナ氏はこの材料を「柔軟な」おがくずと呼んでいる。またプリヤトナ氏は、このおがくずシートをさまざまな厚さに重ねたり、作業場で出た革くずと組み合わせたりして、ペンホルダーや花瓶といったさまざまな入れ物や容器を作っている。
コーヒーと古紙で作ったテーブルセット
Phuong Dao
新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)の間、屋内に閉じ込められていたベトナム人デザイナー、フオン・ダオ氏は、身の回りにある新聞紙、段ボール、古いコーヒーかすに着目した。
これらの廃棄物は、圧縮して接着剤と混ぜ合わせると、頑丈な家具の材料として利用可能だ。ダオ氏は製作した背の低いテーブルと椅子のセットに、ベトナム式コンロにちなんで「カラン」と名付けた。ベトナムでは昔から家族でこのカランを囲んできた。
ダオ氏はメールで、「かつて(カランは)人と交流したり、話をしたり、火で体を温める場所だった」とした上で、「最近はリビングに家族が集まることが多いので、カランの精神をリビングに移行させたい」と述べた。
工場廃棄物で作った扇風機
Design Fair Asia/Joseph Rastullo
フィリピンを拠点に活動するデザイナー、ジョセフ・ラストルーロ氏は、パンデミックの間、さまざまな産業施設で働く友人たちから相談を受けた。彼らは空調メーカー、トラック工場、電気配線・建設会社などに勤務し、廃棄物の処理に困っていた。そこでラストルーロ氏は「『どんなスクラップでも私にくれれば、それらで何か作るよ』と彼らに伝えた」という。
その結果、上品なドリンクキャビネットや金属線の切れ端でできた幾何学的な扇風機など、さまざまな高性能かつオーダーメイドのデザイン作品が誕生した。金属線の扇風機は、手作業だと製作に最大3週間かかるが、ラストルーロ氏はこれらの製品を大量生産する方法を模索している。