(CNN) 物が埋め立て地に捨てられることがない世界を想像してみてほしい。あらゆる物が再利用され、リサイクルされ、別の用途で再活用され、「寿命」を迎えることのない製品を生み出すことができる世界があったら――。
サークル・エコノミー財団の最近の報告書によると、廃棄物を出さずに再利用・リサイクルされ、経済に循環している使用済みの素材は全体のわずか7.2%だった。
イタリア・ミラノに拠点を置くデザイン会社のクリル・デザインは、「レクリル」(特許取得済み)というプラスチックのようなバイオ素材で作られた家具製品を作ることで、こうした状況を変えることを目指している。レクリルは完全オーガニックで、生分解されるため、何度でも繰り返し使用できるという。
同社は3人の建築家によって2018年に創業。そのうち2人はすでに3Dプリント会社を設立していた。クリルは、イタリア国内の企業から回収した果物の皮、オレンジの種、コーヒーかすを利用して製品を作る。出来上がった製品は、これらの廃棄物を提供してくれた企業に、一般的なプラスチック製の家具の代わりにオフィスで使ってもらうことで再配布できるという。同社が手掛ける製品は、ブックエンド、スツール、時計、ボウル、ランプ「Ohmie」など。
「3~4年も経てば、家具は買い替えの必要が出てくる」とクリルの運営ディレクター、マルコ・ディマイオ氏は話す。「だが、もしすべての家具が当社の素材で作られていたとしたら、回収して粉砕し、同じ素材で別の家具をプリントすることができる。万が一、素材が誤って海に流れてしまっても、生分解するのでマイクロプラスチックが生成されることはない」
各製品は四つの段階を経て作られる。まず、乾燥させた食品廃棄物を非常に細かく粉砕する。次に、この粉末をポリヒドロキシ酪酸(PHB)として知られる生分解性プラスチックと混ぜる。クリルによれば、果物の廃棄物によってPHBの剛性が高まるという。この化合物をフィラメントにし、スプールを使用して3Dプリンターに入れる。Ohmieランプのプリントにはおよそ3時間かかるが、プリントの時間は製品によって異なる。
「デザインを行う会社はたくさんあるが、我々は他社と違うことをしたかった」(ディマイオ氏)
ランプ「Ohmie」は費用と製作時間を削減するために、中が空洞の状態でプリントされる/Krill Design
クリルは、飲料メーカーのサンペレグリノやホテルチェーンのフォーシーズンズなど、多くの有名ブランドとコラボレーションしてきた。また、ミラノの3地区で発生するコーヒー廃棄物の削減を目的とした「Co.ffee Era」プロジェクトにミラノ市と共同で取り組んでいる。これらのプロジェクトを通じて、クリルはワインクーラー、トレー、ドリンクホルダー、収納ケースを手掛けてきた。オレンジの皮からは鮮やかなオレンジ色、コーヒーかすからは深みのあるダークブラウンといった具合に、製品にはそれぞれの廃棄物に応じた色を使用した。
多くの食品廃棄物は焼却されるか埋め立て地に捨てられる。ディマイオ氏によると、果物の皮やコーヒーかすを再利用することで、レクリル1キログラムごとに、プラスチック生産によって排出される二酸化炭素(CO2)1キログラムをオフセット(相殺)できるという。
同氏によれば、レクリルは木材のように丈夫で、水、バクテリア、酸に触れない限り劣化は始まらない。また、有機物で作られているため、魚がレクリルを食べても安全で、家庭用堆肥(たいひ)としても使用できる。
だが、環境に優しいという利点があるにもかかわらず、レクリルが高価であることはディマイオ氏も認めている。「当社の材料コストはおそらく一般的なプラスチックの6倍だ」「非常に困難で高価なプロセスのため、多くの企業がこれを導入しない理由は分かるが、我々はリスクを取って成功した」と同氏は言う。
ディマイオ氏は、数年後にはより多くの消費者や企業が持続不可能なプラスチックが地球に与えているダメージに向き合わざるを得なくなり、レクリルがさらに広く使われるようになるだろうと期待している。
バイオプラスチック
年間生産されるプラスチック3億9000万トンのうち、バイオプラスチックが占める割合は1%に満たないが、食品包装、繊維、電子機器などさまざまな部門で応用され、急速に成長している分野である。他にも多くの企業がこの分野で技術革新を進めており、そのうちの一つで英国に拠点を置くポリマテリアは「世界初の自己分解プラスチック」を開発したと主張する。このプラスチックは、ワックス状に分解され、土壌中で完全に生分解されるという。
クリルがサンペレグリノとコラボして作成したトレーや電気スタンド。廃棄されたオレンジが使われている/Krill Design
サーキュラーエコノミー(循環型経済)の実現を目指す非営利組織、英エレン・マッカーサー財団でサーキュラーキーデザイン部門の責任者を務めるジョー・アイルズ氏(クリルには関与していない)は、バイオプラスチックが家庭で堆肥として使用できるという主張を巡っては、適切な条件がなければ素材の分解に何年もかかる可能性があると指摘。22年の英国の調査では、堆肥化できるプラスチックと表示された製品の60%が、家庭用堆肥では完全には分解されないことが判明している。
アイルズ氏は、新しいバイオプラスチック素材がすべての地域のリサイクルシステムに適しているとは限らないと付け加えた。
こうした潜在的な懸念にもかかわらず、サーキュラーエコノミーを構築しようとしている企業を奨励し、称賛することが重要だと同氏は述べている。「我々は実験してくれる人が必要だ。実験するということは、時には少し間違うこともあるかもしれないが、我々は段々と正しい方向に向かっている」とアイルズ氏は話している。
クリルは現在、卵の殻、トマト、ワインの醸造工程で出るブドウの残りかすなど、他の食品廃棄物を使った実験を行っており、生産工程をより効率的で安価で、環境に優しいものにすることも検討している。
最終的に同社は、個人や企業が独自の3Dプリンターを使って製品を作れるように、レクリルのフィラメントを販売する計画だ。また、コスト削減と時間短縮を可能にする射出成形(3Dプリントの代わりに食品廃棄物とPHBの溶融混合物を金型に注入)の開発も検討している。
「我々はこれが未来の素材であると心から信じている」とディマイオ氏。 「少しずつ、一歩ずつ」