(CNN) 1889年の夏の夕方、アーサー・コナン・ドイルとオスカー・ワイルドは、ロンドンの高級ホテル、ザ・ランガム・ロンドンで、米国人の実業家で「リッピンコット・マンスリー・マガジン」の編集者でもあるJ・M・ストッダートと夕食を共にした。
そして3人がホテルを後にする頃には、ワイルドは「ドリアン・グレイの肖像」の執筆を約束し、コナン・ドイルは、彼の最も有名な「シャーロック・ホームズ」シリーズの一つである「四つの署名」の執筆に同意していた。
コナン・ドイルがこの運命の夕食について詳述した手紙と、「四つの署名」の唯一の手書き原稿が今、文学界の他の貴重な品々とともに競売大手サザビーズのオークションに出品されている。
サザビーズによると、「四つの署名」の手書き原稿は、その独特な重要性と、これまでオークションに出品されたコナン・ドイルにまつわる品の中でも最も価値が高いことを考えると、落札額は最高で120万ドル(約1億9000万円)に達すると予想されているという。
サザビーズの書籍・原稿担当の国際シニアスペシャリスト、セルビー・キファー氏はCNNに対し「現代の作家で、コナン・ドイルとオスカー・ワイルドほど対照的な2人を見つけるのは難しい」と述べた。
「そんな2人が、夕食を共にしながら現在執筆中の作品について話している」
「(この手紙を読むと)当時の状況が目に浮かび、この原稿がどのように誕生し、執筆されたかをめったにない方法で理解させてくれる」
「四つの署名」は1890年に発表された/Courtesy Sotheby's
原稿自体は非常にきれいな状態で、スタッダートが行ったアメリカ英語のつづりへの修正と、コナン・ドイル自身が作品の微調整を行った際にいくつかの単語に引いた取り消し線があるだけだ。
現存するコナン・ドイルの他の原稿(その大半は博物館に収蔵されている)は、どれも編集の跡がほとんど見られない、とキファー氏は付け加えた。
「ドイルが執筆前に長い時間をかけて構想を練ったのか否かは定かではないが、まるでストーリーが頭からほぼ完全な形で湧き出て、ドイルはそれをそのまま文字にしたように見える」
「四つの署名」は、コナン・ドイルのシャーロック・ホームズ小説の第2作で、スタッダートが第1作「緋色の研究」の人気に乗じるためにドイルに執筆を依頼した。
「四つの署名」は90年にリッピンコットの雑誌に掲載され、ホームズとワトソン博士の冒険は再び、欧米の読者の間で大きな人気を集めた。
今回オークションに出品された「四つの署名」の原稿は、シカゴに拠点を置くコレクター、ロドニー・P・スワントコ博士が集めたコレクションの一つだ。スワントコ博士は2年前に死去している。
オークションに出品されているその他の品目には、米国の小説家F・スコット・フィッツジェラルドの署名入りの4冊の小説も含まれている。そのうちの1冊は「グレート・ギャツビー」で、フィッツジェラルド自身の「Scott」の署名と、フィッツジェラルドが妻ゼルダの代わりに書いた「Zelda」の署名が入っている。オークションでは最高で25万ドルでの落札が見込まれている。
また、ロシアの作家ウラジーミル・ナボコフが、仲間の作家グレアム・グリーンとその妻ベラに送った小説「ロリータ」の初版本も出品されている。
オークションは6月26日の米東部標準時間午前10時からニューヨークでライブオークションとして行われる。