(CNN) 時計作りにおいて、伝統は重要だ。しかし、競合する欧州の時計職人たちが、自分たちの作業場には数世紀に及ぶ伝統があるとどれだけ自慢したところで、トレダノ&チャンの新作にはかなわない。
ブルータリズムに着想を得たこの時計「B/1M」は、約100万年前に地球に衝突したムオニオナルスタ隕石(いんせき)を削って作られた。
これまでも高級時計に隕石の小片が使用されたことはあったが、アーティストのフィリップ・トレダノ氏と時計職人のアルフレッド・チャン氏は、さらに一歩踏み込みたいと考えた。
トレダノ氏は「隕石の文字盤はよく見かける。そういう時計は珍しくない」とした上で、「しかし、ケース全体や文字盤、ラグなど、すべてが隕石で作られている時計は非常に珍しい」と付け加えた。
![B/1Mはコンクリートのような質感の時計に、オーストレッグ(ダチョウの脚部の革)製のグレーのストラップを組み合わせている/Toledano & Chan](/storage/2025/02/12/6d688c2ec1300a8f441dc1d052358f99/img-7818-topaz-sharpen-enhance-1x.jpg)
B/1Mはコンクリートのような質感の時計に、オーストレッグ(ダチョウの脚部の革)製のグレーのストラップを組み合わせている/Toledano & Chan
その理由は、材料となる隕石の価格にあるかもしれない。
トレダノ氏は、B/1Mに使用された隕石の破片の正確な価格は明らかにしなかったが、未加工の隕石の1グラム当たりの価格は金を上回ると述べた。
B/1Mは、昨年12月7日に米ニューヨークでフィリップス・ウォッチズの主催で開催されるオークションに出品され、3万5560ドル(約547万円)で落札された。
隕石は、非常に高額な上に、金と違い、余った破片を別のプロジェクトに再利用できない点も厄介だ、とトレダノ氏は語る。
ムオニオナルスタ隕石は、主に鉄でできているため、トレダノ氏らは時計をさびから守るために防せい加工を施す必要があった。しかし、この隕石には独特の美しさがある。鉄隕石には、ウィドマンシュテッテン構造と呼ばれる、多方向に走る独特な縞(しま)模様があり、この模様が「異世界的な」外観を生み出している、とトレダノ氏は言う。
![ムオニオナルスタ隕石の切片。ウィドマンシュテッテン構造と呼ばれる、多方向に走る独特な縞(しま)模様が特徴/R Kawka/Alamy Stock Photo](/storage/2025/02/12/3a649b405536ddf8925819017764fc57/2mxdk4g.jpg)
ムオニオナルスタ隕石の切片。ウィドマンシュテッテン構造と呼ばれる、多方向に走る独特な縞(しま)模様が特徴/R Kawka/Alamy Stock Photo
トレダノ、チャン両氏は、このコンクリートのような質感の時計に、オーストレッグ(ダチョウの脚部の革)製のグレーのストラップを組み合わせ、時計本体とは対照的な有機的テクスチャーを加えた。トレダノ氏らは、このモデルの限定生産を目指しているが、隕石という素材の特性上、各時計が独特な外観を持つことになるだろう。
B/1M(および前モデルであるスチール製のB/1)は、ブルータリズム建築の角ばったフォルム、特に、ニューヨークにあるブロイヤー・ビルの窓から着想を得た。
モダニズム建築家マルセル・ブロイヤーが設計し、60年代に建てられたこのビルは、飾り気のない、階段を逆さにしたようなフォルムと、点在するわずかな台形の窓で知られる。
![B/1Mはニューヨークにあるブロイヤー・ビルの窓に着想を得ている/Angela Weiss/AFP/Getty Images](/storage/2025/02/12/3e505c62232ed1d77fbe03261106b85e/gettyimages-1231518830.jpg)
B/1Mはニューヨークにあるブロイヤー・ビルの窓に着想を得ている/Angela Weiss/AFP/Getty Images
この象徴的な窓が、トレダノ&チャンのデザインの非対称的な形状に影響を与えた。そしてブロイヤー・ビルが装飾を極力排除しているように、B/1とB/1Mの文字盤にも数字やロゴは一切ない。
価格4000ドル(約61万円)の前モデル、B/1は、発売から1時間もたたずに完売し、その人気ぶりにトレダノ氏自身も驚いたという。トレダノ氏は、従来とは異なる形状の腕時計の市場が成長している証だとしている。
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原文タイトル:Jaguar reveals first concept car after controversial rebrand(抄訳)