ANALYSIS

誤情報の沼で溺れるトランプ氏、自ら混沌を作り出した面も

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トランプ氏の討論会の言動は、ネット掲示板の投稿が現実になったようだったと評された/Pablo Martinez Monsivais/AP

トランプ氏の討論会の言動は、ネット掲示板の投稿が現実になったようだったと評された/Pablo Martinez Monsivais/AP

ニューヨーク(CNN) 米共和党の大統領候補トランプ前大統領がテレビの生放送に出演し、虚偽であることが証明された突拍子もないフェイスブック上の噂(うわさ)を事実として提示した。司会者から(何度も)訂正されると、トランプ氏は語気を強めて「テレビでは人々が来訪者に犬を食べられたと言っている」と主張した。

ハイチ移民がオハイオ住民のペットを食べているとの主張が全くのでたらめで、根強い人種差別の歴史に根ざしていることを理解している識者の間では、「彼らは犬を食べている」というフレーズがすぐにジョークのオチになった。

意図的に怒りをあおるこの種の手法は腹立たしいものだが、最近のフェイスブックでは全く意外な内容ではない。

だが、この主張が大統領選討論会の舞台で取り上げられたことは、2024年のインターネットの暗たんたる現実を浮き彫りにしている。誤情報が至る所にあふれ、プラットフォームはモデレーション(投稿監視)を放棄し、AI(人工知能)がそれを一段と悪化させている状況だ。

CNNのジェイク・タッパー記者は討論会でのトランプ氏のパフォーマンスを「まるで4chan(ちゃん)の投稿が現実になったようだった」と評した。

適切な比喩と言える。

2000年代初頭には熱心なアニメファンのための無害なネット掲示板に過ぎなかった4ちゃんは、ソーシャルメディアに歯止めが利かなくなり、一握りのコミュニティーメンバーしか規制を行わない状況で何が起きるかを示す好例だ。長年にわたり、4ちゃんは暴力や陰謀論、さらには独特な「エッジロード(中二病)白人至上主義」の巣窟になってきた。

フェイスブックやX(旧ツイッター)をスクロールしていると、こうした混沌(こんとん)の一部がメーンストリームに忍び込んでいる状況を否が応でも目にせざるを得ない。

CNNのクレア・ダフィー記者が先週指摘したように、フェイスブックではスパムが急増しており、極端なケースでは、人々をだまして誤解を招く目的で武器化される。こうした変化は、ニュースや政治を軽視する一方、コンピューター生成された他愛ないコンテンツをユーザーのフィードで増幅させようとするフェイスブックの意図的な戦略と一致している。

イーロン・マスク氏が22年の買収後すぐさま投稿監視を骨抜きにしたXに目を向けると、ヘイトスピーチや暴力的な脅迫が今や当たり前になっている。

フェスブックを傘下に持つメタの広報は先週、「前向きなユーザー体験を保証するため、スパムコンテンツの削除と低減」に取り組んでいると説明。「真正でないエンゲージメントを通じてトラフィックを操作しようとする者には対策を講じる」と明らかにした。

買収時にツイッターの広報職員を解雇したマスク氏は、コメント要請に応じなかった。

これまでも常にSNS上に酷いフェイクの情報があったのは確かだ。現在との違いは、今ではこうした情報が即座に誤情報に変ぼうする点にある。偽情報の監視と削除に専念する人員が減る中、AIによる人間そっくりの文章や画像が誤情報に拍車をかけている。かつてツイッターで認証チェックマークを取得するには、人間のモデレーターの監督する手続きを経る必要があった。今では、何か考えがあろうとなかろうと、誰でも単にお金を出せば認証マークを買える。

ある意味、トランプ氏の政治家としてのキャリアは、ここ10年のSNSの興隆と劣化をなぞるものだと言える。リアリティーテレビの元スターであるトランプ氏が政界で有名になったのは、一つには大衆向けに噓(うそ)や陰謀論を発信するSNSの力を利用したことによる。その発端となったのが、当時のオバマ大統領の出自を疑問視する人種差別的な「バーサー」攻撃だった。

10日夜に「ペットを食べる」という噓に手を出したことで、トランプ氏はついにインターネットの混濁した泥沼の奥深くに迷い込んだのかもしれない。

わずか1週間前、トランプ氏は自身のSNSトゥルース・ソーシャルに、テイラー・スウィフトさんから支持を受けたことをほのめかすAI生成の画像を投稿していた。トランプ氏は投稿に「受け入れる」と書き込んだ。

言うまでもなく、これは偽画像だった。フェイスブックやXに氾濫(はんらん)しているのと同じ類いの低質なAI画像だ。トランプ氏はこの画像がフェイクだと知らなかったのか、それとも支持者に噓をついて偽の支持表明を永遠に残すことなど、気にもかけなかったのだろうか。

いずれにしても、トランプ氏がネット上の誤情報の問題をそれほど懸念しているようには思えない。

一方、スウィフトさんの側は懸念を示している。スウィフトさんは10日にハリス副大統領への支持を表明した際、自身のフェイク画像が使われた今回の件は「AIを巡る私の懸念、誤情報拡散の危険性を呼び覚ますものだった」とつづった。

投稿の末尾には「子どものいない猫好き女性」と署名。これはトランプ氏と伴走する共和党の副大統領候補、J・D・バンス氏の広く嘲笑を買った発言を念頭に置いたものだ。

するとまるで合図があったかのように、トランプ氏を支持する富豪マスク氏(やはり今週、ペットを食べるという偽情報をXに投稿していた)が参戦した。その発言は、X上ではどれだけ下劣で脅迫的な内容であっても、彼のことを一度も認めたことがない女性に対して好きに放言できるということを思い知らせるものだった。

「お見事テイラー、君の勝ちだ。私は君に子どもをあげ、自分の人生をかけて君の猫を守る」

本稿はCNNのアリソン・モロー記者の分析記事です。

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