(CNN) 時価総額で一時世界首位に立っていたAI(人工知能)半導体大手エヌビディアが突如、慣れない立場に置かれることになった。株価の大不振だ。
エヌビディアは3日の株式市場で、時価総額の減少幅でみて過去最悪の下げを記録した。同社の株価は9.5%下落し、時価総額のうち2790億ドル(約40兆円)が消失。これは2022年にメタが記録した従来の最高額2400億ドルを大幅に上回る数字となった。
衝撃の株価下落を俯瞰(ふかん)的に見ると、エヌビディアが3日に失った価値に匹敵する企業は世界に27社しかない。2790億ドルという消失額は、マクドナルドやシェブロン、ペプシを含む米国の一部大手企業の合計株価を上回る。
エヌビディアの最大の個人株主(ブラックロックなどの機関投資家を含めると全体で第5位の株主)であるジェンスン・フアン最高経営責任者(CEO)は3日、株価急落で100億ドル相当の個人資産を失った。
エヌビディアは6月8日に上場企業として過去最高となる時価総額3兆3000億ドルを突破して以降、株価の低迷が続く。米国経済にひずみの兆候が見え始める中、投資家はエヌビディアなどのAI銘柄の高騰に懐疑姿勢を強めている状況だ。トレーダーの間では、経済の弱含みを踏まえ、企業は有望だがリスクも高く、有効性が証明されていない技術への投資に二の足を踏むのではないかとの懸念が出ている。
エヌビディアが先週発表した決算は破格の好業績だったが、見通しがやや控え目だったことから、さらなる好材料を探していた投資家の失望を誘い、株価は下落した。
エヌビディア株の下げ幅は6月18日のピークから20%を超える。AI技術に大きく賭けているマイクロソフトは、直近のピークから12%下落。エヌビディアのチップ製造を手掛ける台湾積体電路製造(TSMC)の株価も、7月中旬以降に18%下落した。
一方、かつて世界最大の半導体メーカーだったインテルも年初から59%の下落を記録している。インテルは会社を生まれ変わらせ、AI市場に参入するという独自の課題に直面している。
潜在的な法的問題
ただ、エヌビディアは別の問題に直面する可能性もある。米政府が反トラスト法(独占禁止法)違反の疑いで調査を進めているとの情報が浮上したためだ。
3日の株価急落の要因としては、米司法省が反トラスト調査の一環でエヌビディアに召喚状を送付したとの報道が大きい。これはブルームバーグ通信が報じたもので、CNNは召喚状について独自に確認できておらず、司法省は反トラスト調査に直接言及することを控えている。
エヌビディアは4日午後の時点で、司法省から召喚状は受け取っていないと明らかにした。
エヌビディアの広報は「米司法省に問い合わせているが、召喚状は受け取っていない」と説明。「ただ、当社の事業に関する規制当局の質問があれば、喜んで答える」としている。
バイデン政権はIT大手への追及を強めており、アップルやグーグル、アマゾンなどの企業に対する調査や訴訟に踏み切った。米大統領選に出馬しているハリス副大統領やトランプ前大統領が当選後、こうした訴訟を継続するかは不明だが、選挙戦では両氏とも様々な理由からIT企業に批判の矛先を向けている。
エヌビディア株は4日にも1.7%下落した。ナスダック総合指数は3日に3%以上、4日に0.3%の下げを記録している。
ただ、AI株の強気筋の間でエヌビディアへの信頼は揺らいでない。エヌビディア株は今年118%上昇しており、時価総額は2兆7000億ドルと、アップルとマイクロソフトを僅差(きんさ)で追う世界3位の水準にある。フアン氏は先週、同社の最新AI半導体「ブラックウェル」は需要が「供給を大幅に上回る」状況だと説明。競争が激化する中でも、エヌビディアの半導体への需要は伸びている。
少なくとも今のところ、エヌビディアへの投資は実を結んでいる。それがフアン氏の主張だ。
「エヌビディアのインフラに投資する人々はすぐさまリターンを手にしている」。フアン氏は先週そう述べ、同社の新しいAI向け画像処理半導体(GPU)は非常に効率的にデータを処理できることから、すぐに顧客の資金節約につながるだろうと指摘した。
こうした理由から、ウェドブッシュ証券のダン・アイブス氏のような強気筋は、エヌビディア株の下落は押し目買いの好機だとの見方を示す。
アイブス氏は3日、投資家向けのメモで「エヌビディアはITや世界の状況を変えた。このIT勢力図において、同社のGPUは新たな石油となり、金となっている」と指摘している。
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本稿はCNNのデビッド・ゴールドマン記者の分析記事です。