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ロシアが米紙記者の逮捕映像を公開 映像から分かることは

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ロシアとの「囚人交換」で解放された(右から)エバン・ゲルシュコビッチ氏、ポール・ウィラン氏、アルス・クルマシェバ氏=2日、米テキサス州サンアントニオ/ Kaylee Greenlee Beal/Reuters

ロシアとの「囚人交換」で解放された(右から)エバン・ゲルシュコビッチ氏、ポール・ウィラン氏、アルス・クルマシェバ氏=2日、米テキサス州サンアントニオ/ Kaylee Greenlee Beal/Reuters

(CNN) ロシアの親政府メディアは別の現実を作り出す方法を知っている。先週の歴史的な囚人交換も例外ではなかった。

ロシアの政府系メディアは5日、米紙ウォールストリート・ジャーナルの記者エバン・ゲルシュコビッチ氏と元米海兵隊員ポール・ウィラン氏の衝撃的な逮捕映像を公開した。

撮影場所に疑う余地はない。ゲルシュコビッチ氏は昨年、エカテリンブルクのステーキレストラン、ブコウスキーグリルで逮捕された。ウィラン氏は首都モスクワ中心部のボリショイ劇場向かいにあるホテルメトロポールで逮捕された。

これらの大幅に編集された映像を額面通りに受け取ってはならない。確かにゲルシュコビッチ氏が乱暴に拘束され、地面に押し倒されるのが映っているし、ロシアの警備員に挟まれ、ホテルのベッドで手錠をかけられたウィラン氏も捉えられている。

一方で、ロシア語のナレーションの主張にもかかわらず、この2人がスパイ活動に従事していたというモスクワの主張を裏付けるものはほとんどなく、米政府、両氏の家族、支持者らはこの主張を強く否定している。

代わりに私たちが目にするのは、ロシアの「ブラックPR」の典型例、つまりメディアを武器に個人を攻撃し評判をおとしめる様子だ。逮捕映像には情報はほとんどないが、逮捕前にゲルシュコビッチ氏とウィラン氏が人々と面会する様子が映っており、B級映画さながらの画力で2人が何らかの不正行為に関与していたことを豊富に示唆している。

ロシアは長い間、ブラックPRと「コンプロマート」を駆使して、嫌がらせをしたい外国の外交官の生活を困難にしてきた。米国務省は2009年、いわゆる改ざん動画に怒りをあらわにした。国務省職員が売春婦と性交しているように見える動画がロシアのウェブサイトに流出したのだ。

ロシア国営テレビも好んでスパイ事件を大々的に報道する。国営テレビ局は06年1月、英国のスパイが電子機器を隠すために偽物の岩を置く映像を放映したが、これは明らかに英政府を困惑させるために時機を計った報道だった。

一方でゲルシュコビッチ氏とウィラン氏の場合、ロシア政府の狙いは、海外で拘束されている自国の貴重な工作員と交換するための人質を確保することだった。そして今回公開された両氏の逮捕映像は、ロシアには外国の敵が潜入していること、強力ですべてを見通す安全保障国家であるロシアは警戒を怠ることはないというメッセージを国内の視聴者に向けて発信するために作られている。

この映像の最もぞっとする点は、わなにかけていることを示唆していることだ。いずれの逮捕時も隠しカメラが設置され、複数の角度から撮影されており、治安部隊がある程度状況を仕組んでいたことがほのめかされている。

ウォールストリート・ジャーナルの発行人でダウ・ジョーンズの最高経営責任者(CEO)であるオルマ・ラトゥール氏と同紙編集長エマ・タッカー氏は声明で、ゲルシュコビッチ氏の映像は正当に職務を遂行していた記者を陥れようとする厚かましい試みだと非難した。

ラトゥール氏とタッカー氏は「ウラジミール・プーチンとロシアの政権は、報道の自由に対して全面的な攻撃を仕掛けている。この映像は、信頼できるジャーナリズムを破壊するための組織的な取り組みにおいてロシアが手段を選ばないという最新の証拠にすぎない。エバンは記者として職務を遂行していたのであり、それに反する描写はすべてフィクションだ。ジャーナリズムは犯罪ではない」と述べた。

確かに、ゲルシュコビッチ氏の逮捕現場で発見されたとされるスパイ活動の道具は、映像の巧みな性質を強調している。映像の一つには同氏のノート、ペン、スマートフォンが映っていた。

朗報は、ゲルシュコビッチ氏がロシアの勾留から解放され、逮捕中に起きたことについて決定的かつ信頼できる説明を書けるようになったことだ。

本稿はCNNのネイサン・ホッジ記者による分析記事です。

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