ロンドン(CNN) 英国の町や都市を巻き込む反移民の暴動が激化する上で、ソーシャルメディアが重要な役割を果たしている。
アジテーターとして右に出る者はない米起業家のイーロン・マスク氏も、こうした状況で脇役に甘んじることはなかった。
同氏は自身の所有するプラットフォーム、X(旧ツイッター)に4日、「内戦は避けられない」と書き込んだ。暴力的なデモを非難する投稿への反応だった。デモは「大量の移民と国境の開放」がもたらす影響への抗議として行われている。
5日、英首相の報道官はマスク氏のコメントに言及。記者団に対し「全く正当化できない」と述べた。
反移民の言説を盛り上げたマスク氏の判断は、オンラインで拡散する誤情報が現実世界の暴力を助長するのに果たす役割を浮き彫りにする。事態を重く見た英政府は6日、暴動に関与した者に加えてオンラインでそれを支持した者についても法に照らして処罰すると約束した。
同日、イングランド北部のリーズに住む28歳の男がオンライン上の言動で罪に問われる最初の人物になった。英検察によれば、男は「人種に根差す憎悪の助長を意図した脅迫的な言動」をネットで使用した罪に問われた。関連する言動はフェイスブックに投稿されたという。
この数日間、暴徒たちは公共の建物を破壊し、車両に火を放ち、警官に向かってれんがを投げている。彼らが火を付けたイングランド北部と中部の2軒の宿泊施設には、亡命申請者が滞在していたとされる。ここまでの逮捕者は数百人に上る。
暴動が発生したのは先週。極右グループによるソーシャルメディアでの主張がきっかけだった。グループはイングランド北西部の街サウスポートで先月末に起きた凄惨(せいさん)な女児刺殺事件で起訴された犯人がイスラム教徒の亡命申請者だと訴えていた。ネット上で拡散した誤情報による怒りの感情は、直接移民たちに向けられた。
警察は17歳の容疑者の身元を特定し、英国生まれだと明らかにしている。
それでも事件に関する誤った主張はネットで広がり、警察の発表後も閲覧され続けた。
英シンクタンク、戦略対話研究所(ISD)によると、事件翌日の7月30日午前までに事件の犯人とされる誤った氏名がXだけで3万件以上言及された。氏名について発信したアカウントは1万8000件を超えたという。
ISDは声明を出し、犯人と結びつく偽の氏名はプラットフォームのアルゴリズムを通じてユーザーに推奨される形でも拡散していたと述べた。
英政府によれば、国家を後ろ盾とする主体との関連が疑われるボットが誤情報の拡散を助長した可能性もあるという。
「ネットの犯罪行為」を撲滅する
ソーシャルメディア各社は独自の方針に基づき、ヘイトスピーチや暴力の扇動を自社のプラットフォームにおいて禁止しているが、それらの実践には長年苦慮している。
ISDのテクノロジーの専門家がCNNに明らかにしたところによると、禁止の執行は常に問題として付いて回る。とりわけ紛争や危機の発生時にはコンテンツが膨大な量となり、内容を監視するモデレーションシステムが機能しないようだという。
こうした中、マスク氏のような立場の人物が問題のある投稿をXで発信し続ける状況は事態を一段と悪化させる。欧州の規制当局は先月、Xに対して、誤解を招き、ユーザーを欺くプラットフォームだと糾弾した。
たとえば昨年10月7日のイスラム組織ハマスによるイスラエルへの奇襲やその後の戦争勃発を受け、「自由な言論の絶対主義者」を自称するマスク氏は、白人至上主義者の間で人気の高い反ユダヤ主義的陰謀論を公然と支持。後に謝罪し、関連する投稿について、ソーシャルメディアに載ったものとしてこれまでで「最も間の抜けた」内容だったと認めた。
同氏の監督下で、Xは自前のコンテンツモデレーションシステムも緩和し、以前ブロックした複数のアカウントを復活させている。そこにはトミー・ロビンソン氏のような極右のリーダーのアカウントが含まれる。同氏は暴力的な攻撃を批判する一方、英国内での抗議行動をかき立てる内容を大量に投稿している。
英政府は今週、「ネットでの犯罪行為」を訴追すると約束。ソーシャルメディア各社にも誤情報の拡散阻止に取り組むよう圧力をかけた。
クーパー内相は5日、BBCラジオのインタビューに答え、警察はオンラインとオフラインの区別なく犯罪を追及すると警告した。
6日の閣僚会議では、スターマー首相が暴動に関わった人々について、実際の参加者であれネット上での発信者であれ、法による裁きの対象にすると示唆した。CNNが議事録を確認した。
同じ会議でカイル科学技術相は、ソーシャルメディア会社との協議を通じ、これらの企業の責任を既に明確にしていると発言。「憎悪に根差す誤情報や扇動の拡散阻止」を促す責任が企業側に課されていることを伝えたと述べた。
CNNはXやフェスブックのオーナーのメタ、ティックトックにコメントを求めたが、現時点で返答はない。
英政府が各プラットフォームに対し、暴動で果たした役割の責任を負わせる具体的な手段を有しているのかは不明。
昨年国内で採択されたオンライン安全法では、プラットフォーム側に新たな義務を課している。そこには違法なコンテンツについて出現次第削除する義務も含まれる。
また誤情報のネットへの投稿は、「重要な危害をもたらす意図」があった場合犯罪行為にするとも定めている。
しかし、同法は実際のところまだ発効していない。関連する規制当局である英国情報通信庁(OFCOM)が依然として実施規定や指針の検討を行っているからだ。
OFCOMの5日の声明によると、新法に基づく一連の義務が効力を持って課されるようになるのは「今年の終わりの前後から」だという。法が施行されれば、OFCOMは違反企業に対し、最大で世界売上高の10%に相当する罰金を科せるようになる見通し。
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本稿はCNNのハンナ・ジアディー記者による分析記事です。