ANALYSIS

トランプ氏再選でマスク氏起用、起こりえない理由

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トランプ氏(左)の政権が再来した場合、マスク氏が閣僚に収まる可能性はあるのか/Getty Images

トランプ氏(左)の政権が再来した場合、マスク氏が閣僚に収まる可能性はあるのか/Getty Images

ニューヨーク(CNN) はっきりさせておこう。イーロン・マスク氏がドナルド・トランプ政権で働くことはほぼあり得ない。

もちろん2期目のトランプ政権では何でもあり得る。しかし、その政権で主要な役割を担うには、マスク氏は山ほどある利益相反を乗り越えなければならない。

法律上(そして常識上)、公職に就く場合は自分の個人的な財力に影響を与える政府課題に取り組むことはできない。これはマスク氏のような人物にとっては大問題だ。同氏の2450億ドル(約36兆円)の資産は、主にテスラ、スペースX、X(旧ツイッター)の株式に加え、バイオテクノロジー、人工知能(AI)、衛星通信、道路インフラプロジェクトの分野での保有資産に関連している。

通常、公職に就く人々は株式やその他の保有資産を売却するか、白紙委任信託に預けることでその問題を解決する。しかしテスラの最高経営責任者(CEO)であり最大の株主でもあるマスク氏は、株価の暴落を招くことなく自身の持ち株を売却することはできない。また、事業利益の範囲を考えると、同氏が全く身を引くことなく職務を遂行できる分野を見つけることは難しい。

コロンビア大学ロースクールのリチャード・ブリフォー教授は「職務の内容とそれがマスク氏の経済的利益とどう関係するかに大きく左右される」と指摘する。「彼の経済的利益と関係のないことはあるだろうか。それが何なのか私には分からない」

それでも、「MAGA(米国を再び偉大に)」を掲げるトランプ氏とマスク氏という奇妙なふたりは、マスク長官というアイデアを明らかに楽しんでいるようだ。トランプ氏は19日、ロイター通信に対し、11月に再選された場合、マスク氏を顧問か閣僚に任命することを検討すると語った。

トランプ氏は「マスク氏はとても賢い人だ。彼が受け入れるなら、間違いなく任命する。彼は素晴らしい」と称賛した。

マスク氏はこのコメントに直接は反応しなかったが、Xに「喜んで務める」と投稿した。この発言はマスク氏らしいやり方で投稿された。ミームを指す「D.O.G.E.政府効率省」と書かれた演台に立つマスク氏の加工画像がともに投稿されていたのだ。これをどう解釈するかはお任せする。

マスク氏は報道陣と直接話すことはほとんどなく、CNNのコメント要請にすぐには応じなかった。トランプ陣営もCNNのコメント要請にすぐには応じなかった。

マスク氏がホワイトハウスの職に就くという臆測が広まった背景には、マスク氏が先月、トランプ氏を支持すると公に表明し、さらに両氏が先週、技術トラブルに見舞われ、長時間にわたったXでの対談でその可能性をほのめかしていたことがある。

こうした臆測をうのみにすべきでない理由はたくさんある。とりわけ両氏とも自分がニュースの見出しを飾るために嘘(うそ)をつき誇張する傾向があるからだ。

しかし思考実験として、両氏が真剣で、マスク氏が実際に公職に就きたいと考えていると仮定しよう。

ジョージ・ワシントン大学ロースクールのアラン・モリソン教授は「マスク氏にとって最大のハードルは、全閣僚と同じように上院の承認を得ることだ」と指摘し、「役職によっては、上院が彼に特定の証券を手放すよう要求するかもしれない」と述べた。運輸省の役職ならテスラ、国防省ならスペースXなどが考えられるが、それだけではない。

マスク氏はこのプロセスを経る最初の企業幹部ではない。

元ゴールドマン・サックス会長のヘンリー・ポールソン氏は、2006年にジョージ・W・ブッシュ政権の財務長官になる前に同社の株式300万株以上を売却。その価値は5億ドル近くに上った。そして政府からの明確な免除がない限り、同社やその幹部に関する実質的な問題には関わらないことを誓約した(当然ながら2年後に金融システムが崩壊しかけたとき、これはかなり困難になった)。

ワシントンでマスク氏が直面する法的および倫理的な窮地よりも、より大きな反発はウォール街で起きる可能性がある。

マスク氏は地球上で最も裕福な人物かもしれないが、手放せないものが一つあるとすれば、それは別の役職だ。

テスラの株主は、マスクCEOの課外活動、特にXでミームや陰謀論を投稿するのに費やす時間にかなりうんざりしている。同氏は2年前に440億ドルを投じてXを買収したが、現在その価値は半分以下だ(マスク氏自身の推計による)。

ウェドブッシュ証券のマネジングディレクター、ダン・アイブス氏は「トランプ政権下でマスク氏が閣僚ポストに就くという可能性はテスラの投資家が見たくない大惨事のシナリオだ」と話す。「マスク氏はテスラに集中する必要がある。投資家が最も見たくないものはイーロンが大統領執務室でトランプ氏と並んでいる姿だ」。

そのようなシナリオがどの程度あり得ると思うかとの問いに対し、アイブス氏は「起こりそうにないと思う。だがトランプ氏とマスク氏なら何だってあり得る」と答えた。

本稿はCNNのアリソン・モロー記者による分析記事です。

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