ANALYSIS

9・11米同時多発テロが残した政治的影響の連鎖

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
米同時テロの追悼式典に参列するバイデン大統領、ハリス副大統領、トランプ前大統領ら/Mike Segar/Reuters

米同時テロの追悼式典に参列するバイデン大統領、ハリス副大統領、トランプ前大統領ら/Mike Segar/Reuters

(CNN) 少なくとも尊いものが一つある。

2001年9月11日に発生した米同時多発テロから23年となった11日、ニューヨーク市マンハッタンの「グラウンド・ゼロ」を訪れたバイデン大統領、ハリス副大統領、トランプ前大統領は政治的な対立を中断し、黙とうを捧げるよりもかろうじて長く団結を示した。

10日夜に行われた熾烈(しれつ)な討論会で初めて顔を合わせたトランプ氏とハリス氏は24時間もたたない内に2度目の握手さえ交わした。この握手は元ニューヨーク市長のマイケル・ブルームバーグ氏が演出したとみられる。共和党の副大統領候補J・D・バンス氏もトランプ氏のトレードマークである紺のスーツ、白いシャツ、緋色(ひいろ)のネクタイ姿で出席した。この追悼式典の当時を悼む数秒間は、テロ攻撃後の悲嘆と衝撃に満ちた悲惨な日々に国家が団結する、今では忘れ去られた姿を呼び起こした。

9・11同時多発テロは今ではかなり昔の出来事となり、歴史的な色合いを帯びている。しかしこの事件を生き抜いた人にとって当時の記憶は今も心の底に残っている。世界貿易センターの2棟、国防総省、国際テロ組織「アルカイダ」のテロリストによって兵器にされ燃料が積まれた4機の飛行機で愛する人を失った人々、あるいは9・11後の戦争で身内を失った人々にとってその痛みが薄れることは決してない。ニューヨークのさわやかな9月の朝、最初の飛行機が北棟に激突した瞬間の午前8時46分を指す時計を見れば、21世紀初頭の卑劣な行為の記憶が鮮明によみがえる。

11日に開かれた過去、現在、そして未来の米国指導者らの集まりは、このテロ攻撃によって引き起こされた政治的影響の連鎖が今も続いていることを思い起こさせるものだった。

テロ攻撃後にジョージ・W・ブッシュ政権が始めた海外での戦争は国民の疲弊と政府機関への信頼喪失を助長し、トランプ氏はそれに乗じて権力の座を上りつめた。世界的な対テロ戦争に幾度も従軍し、命を落とした米兵の多くは米国、つまり今やトランプ氏の国の予備役だった。そして米国のアフガニスタン侵攻から20年が経った今、この戦争は再び大統領選の焦点となっている。ハリス氏とトランプ氏は21年の混沌(こんとん)とした米軍撤退について非難の応酬を繰り広げ、カブール空港で13人の米兵が死亡したことをめぐり政治的な論争が巻き起こっている。

一連の不測の政治的結果もテロ攻撃に起因する可能性はある。戦争が泥沼化した後にブッシュ氏の支持が崩壊していなければ、イラク戦争に反対していた若きイリノイ州上院議員バラク・オバマ氏が大統領になる道はなかったかもしれない。ある意味、トランプ大統領は初の黒人大統領に対する反発から生まれた。トランプ氏と同氏が引き起こした混乱がなければ、バイデン氏が大統領になることはなかっただろう。バイデン氏が高齢になってから大統領になっていなかったら、ハリス氏が今年出馬する機会はなかっただろう。バイデン氏は自身の鋭敏さに対する国民の懸念を受け、再選を断念したからだ。一方、イラクで戦闘通信員として従軍したバンス氏は9・11以降の世代で主要政党の副大統領候補に名乗りを上げた最初の人物だ。

四半世紀近くが経ち、テロに代わって新たな大国間の争いが最大の地政学的脅威となった。オサマ・ビンラディン容疑者が殺害されて13年以上が経つ。9・11以降に生まれた有権者の中には今年が2度目の大統領選の投票になる若者もおり、時の流れを浮き彫りにしている。

一方で、世界最悪のテロ攻撃は今でも心理的、政治的に強力な影響を及ぼしており、毎年9月に私たちが思い出すように米国の魂に深く植え付けられている。

本稿はCNNのスティーブン・コリンソン記者による分析記事です。

メールマガジン登録
見過ごしていた世界の動き一目でわかる

世界20億を超える人々にニュースを提供する米CNN。「CNN.co.jpメールマガジン」は、世界各地のCNN記者から届く記事を、日本語で毎日皆様にお届けします*。世界の最新情勢やトレンドを把握しておきたい人に有益なツールです。

*平日のみ、年末年始など一部期間除く。

「Analysis」のニュース

Video

Photo

注目ニュース

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]