墓場から蘇る「カスピ海の怪物」――エクラノプラン再び

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ソ連軍が開発したこの地面効果翼機は「エクラノプラン」の別名で知られ、航空機と船の一種のハイブリッドといえる/Musa Salgereyev/TASS/Getty Images
写真特集:冷戦が生んだ「カスピ海の怪物」、30年ぶりに日の目

ソ連軍が開発したこの地面効果翼機は「エクラノプラン」の別名で知られ、航空機と船の一種のハイブリッドといえる/Musa Salgereyev/TASS/Getty Images

(CNN) カスピ海の西岸に乗り上げたその機体は、まるで巨大な水生獣のように見える。波の上よりも深海に生息していそうな奇妙な物体であり、飛行できるようにはとても見えない。

しかし、はるか以前のことではあるが、それは実際に飛行していた。

そして今年、30年以上にわたる眠りから目覚め、「カスピ海の怪物」が再び始動した。史上まれに見る異形の飛行機械は、これで最後となるかもしれない旅を終えようとしている。

怪物が再び動いたのは今年7月。タグボート3隻と護衛船2隻によってカスピ海沿岸の海上を14時間かけて移動し、ロシア南端近くの海岸地帯に届けられた。

こうして、380トンの「ルン級エクラノプラン」は、ロシア連邦を構成するダゲスタン共和国の古都デルベントに新しい家を見つけた。これが終のすみかになる可能性が高い。

「ルン」級は1990年のソ連崩壊後に放棄され、デルベントの100キロあまり北に位置するカスピースクの海軍基地で朽ちるがままになっていた。

しかし忘れ去られてしまう前に、ルン級を観光スポットの目玉にする計画が浮上したおかげで、再び日の目を見ることができた。

スピードと隠密性

打ち捨てられていた380トンの機体を30年ぶりに移動/Musa Salgereyev/TASS/Getty Images
打ち捨てられていた380トンの機体を30年ぶりに移動/Musa Salgereyev/TASS/Getty Images

この地面効果翼機は「エクラノプラン」の別名で知られ、航空機と船の一種のハイブリッドといえる。水面のすぐ上を移動するものの、実際に水に接触することはない。

国際海事機関(IMO)はエクラノプランを船舶に分類しているが、その特異な高速性能は実は、高度1~5メートルの水面すれすれの場所を飛ぶことに由来する。それを可能にするのは「地面効果」と呼ばれる空気力学の原理だ。

このようにスピードと隠密性が一体となった点(水面近くを飛ぶことでレーダーに探知されにくくなる)に着目し、ソ連軍は冷戦の間、いくつかの派生型を実験した。

これらはソ連とイランの間の広大な陸水域に配備され、「カスピ海の怪物」の異名を取ることになる。

  
      

中でも「ルン」級エクラノプランは、ソ連による地面効果翼機の開発プログラムから最後に誕生した型のひとつだ。全長は「スーパージャンボ」と呼ばれるエアバスA380型機よりも長く、高さもほぼ同じだが、その巨大で重い機体にもかかわらず、短い翼に搭載された8基のターボファンエンジンのおかげで最高時速は550キロに達した。

しかも、2.5メートルの波が立つ悪天候の中でも離着陸が可能だった。任務として想定されていたのは、船体上部の発射筒に搭載した対艦ミサイル6基で電光石火の海上攻撃を実施することだった。

観光の目玉

/Musa Salgereyev/TASS/Getty Images
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デルベントに輸送されたエクラノプランは、ルン級で完成にこぎ着けた唯一の船で、1987年に就役した。

2隻目のルン級として、武器を搭載せず救助・補給任務に携わる機体も構想され完成間近となったが、1990年代初頭にプログラム全体が白紙となり、既存のルン級も退役となった。

30年以上の空白を経て、この海洋獣を再び動かすのは簡単な作業ではなく、ゴム船のほか複数の船舶による慎重な連携が必要となった。

ルン級はデルベントに建設が予定されている「愛国者公園」の目玉となる見通し。この公園は軍事博物館とテーマパークを組み合わせたもので、旧ソ連およびロシアのさまざまな軍装備品を展示する予定だ。

第2の波

ルン級の移動先となったデルベントでは、新型コロナウイルスが流行するまで、カスピ海にクルーズ船の航路を導入するなどの観光開発が盛んに進められていた。

デルベントの愛国者公園が開館すると、エクラノプランを展示するロシアで2つ目の博物館となる。モスクワにあるロシア海軍博物館でも、より小型の「オリョーノク級」エクラノプランを見ることができる。

ここ数十年は廃れていた地面効果翼機だが、そのコンセプトは最近になって再び注目を集めている。

シンガポールや米国、中国、ロシアの開発会社は、エクラノプランの復活を目指して各種のプロジェクトを進めているところだ。

このうちの1社がシンガポールに拠点を置くウィジェットワークスで、ドイツの技術者ハンノ・フィッシャーとアレクサンダー・リピッシュによる冷戦時代の仕事を基に、試作機「エアフィッシュ8」を開発した。

アジアでも、中国版のエクラノプランが2017年に初飛行したものの、このプロジェクトについては情報が乏しい。

配達ドローン

米国では、民間の投資家の出資を受ける「フライングシップ・カンパニー」が、貨物の高速輸送を担う無人地面効果翼機の開発に取り組んでいる。

このプロジェクトは初期段階だが、創業者兼最高経営責任者(CEO)のビル・ピーターソン氏はCNNに対し、7年以内の開発完了を見込んでいると語った。

エクラノプランを生んだロシアも諦めておらず、ここ数年で複数のプロジェクトが話題になった。ただ、いずれもまだ設計段階を超えていない。

ジェット推進式の水陸両用機の開発を手掛けるメーカー、ベリエフ社は「Be2500」の構想を発案。ロシアメディアでは最近、新世代の軍用エクラノプラン「オーラン」の開発が検討されているとも報じられた。

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