まるで大空のバレエ、空中給油の技術とその変遷
(CNN) 想像してほしい。あなたの車は時速約110キロの猛スピードで高速道路を走行中で、燃料は空になりつつある。
すぐ前方を走るタンクローリーからは長いホースが伸び、そこに取り付けられたバスケットが地面から数メートルの高さに浮いている。
タンクローリーに近づいたところで、あなたの車のフロントフェンダーからプローブ(受油用のパイプ)が顔を出す。もし巧みな操作によりプローブの先端をバスケットに差し込むことができれば、タンクローリーから車のガソリンタンクへ燃料が流入し始める。
空中給油の場合、このプロセスの舞台は約9100メートル上空に移る。時速は480キロ以上で、乱気流に見舞われても、夜間や悪天候であっても関係ない。ガソリン切れになったとしても路肩に停車する選択肢は存在しない。
空中給油は各国の空軍にとって標準的なオペレーションだが、難易度が高く死活的に重要な作業でもある。目標に向かう際の着陸回数を増やす代わりに、空中で軍用機の航続距離と滞空時間を伸ばすことができれば、任務の計画と遂行にあたり戦力が飛躍的に増大する。
またしても英国人の発明
英国の軍事専門家は戦争のあり方を変える発明を数多く生み出してきた。戦車やレーダー、ジェットエンジンは、いずれもこうした科学者、技術者、研究者が考案した。空母は航空機を射出するためのカタパルトや、着艦時に使う「アングルドデッキ」と呼ばれる斜めの甲板を備えているが、どちらも英国の発明のたまものだ。
しかし、燃料切れに直面するパイロットにとっては、最も重要な発明は間違いなく空中給油だろう。
1964年、空中給油を行う米軍のKC97給油機とF100D戦闘機/US Air Force
空の時代の黎明(れいめい)期、パイロットは航空機から航空機へと燃料を移しかえる手法を実験した。これは低速飛行する複葉機2機が至近距離で編隊を組み、高度が上の機体から下の機体に向けて燃料ホースを垂らすという仕組みだった。
コックピットを開けた乗組員が激しく動くホースを捕まえ、燃料槽にしっかり接続すると、あとは重力により燃料が「給油機」から「受油機」に流れ込むのを待つ。
こうした実験は一定の成功を収めたものの、1930年代には英国の航空パイオニアであるアラン・コブハムが初の実用的な空中給油法を開発する。
コブハムはまず、「ループドホース」と呼ばれる方式を考案。これは最初期の実験的な手法にわずかながら改良を加えたもので、ホースを接続しやすくする目的で受油機に引っかけ装置を搭載した。
1940年代後半になると米空軍がいち早くループドホース方式を取り入れ、プロペラ駆動の輸送機を給油機、爆撃機を受油機として使う態勢を整えた。
プローブアンドドローグ対フライングブーム
ただ、ループドホース方式はオペレーション中に比較的低速での飛行が必要とされる点をはじめ、限界があった。そこで、コブハム氏の有限会社FRLは初の実用的なプローブアンドドローグ方式を開発した。
現在では、大半の航空機に「プローブ」と呼ばれる長いチューブが搭載されている。空中給油機の巻取機から繰り出されるホースの先端には「ドローグ」と呼ばれるバスケットが取り付けられていて、受油機のパイロットはこのバスケットにプローブを接続する。
空中給油用の長いチューブ「プローブ」を搭載したエアバスA330MRTT/Airbus
1949年、英王立空軍のジェット戦闘機「ミーティア」は史上初となるプローブアンドドローグ方式の実用デモを行い、12時間以上の連続飛行を成し遂げた。
FRLはプローブアンドドローグの開発を続けたものの、大西洋をまたいだ米国では、空軍が大型の戦略ジェット爆撃機に燃料を豊富に供給できる空中給油法を探していた。
この要求を満たすため、ボーイングは「フライングブーム」方式の空中給油法を開発。受油機のパイロットに接続の完了を求めるのではなく、給油機側の担当者がブームの位置を調整し、すぐ後方に位置する受油機の燃料口にブームを差し込むようにした。
米空軍は当初、初期の戦術戦闘機の一部にプローブアンドドローグ方式を使っていたものの、最終的には全保有機についてフライングブーム方式の利用を標準化した。
しかし、空軍のライバルである米海軍はプローブアンドドローグ方式の採用を決め、今日に至るまで利用を続けている。
空中給油機
初の空中給油機となったのは、第2次世界大戦時の爆撃機「スーパーフォートレス」を改装したボーイングのKB29やKB50だ。これに続き、より高速で大型のKC97「ストラトフレイター」も導入された。
しかし1950年代に入ると、こうしたレシプロエンジンのプロペラ機は、新たに登場したジェット戦闘機や爆撃機に安全に給油する十分な速度を出せずに苦戦する。
給油機KC135からF15戦闘機に給油するオペレーター/US Air Force
高速のジェット給油機が早急に必要とされる中、解決策となったのはボーイングのKC135「ストラトタンカー」で、1957年を皮切りに800機超が米空軍に引き渡された。
ボーイングは現在、空母搭載型の無人空中給油システムであるMQ25「スティングレイ」も開発中。米海軍はこのプローブアンドドローグ方式の給油ドローンを、2024年までに空母航空団に組み込む計画だ。
ボーイングの無人空中給油システムMQ25「スティングレイ」/Boeing
英王立空軍では、VIP仕様のボイジャー輸送機「ベスピナ」が、要人輸送に加えて空中給油任務も行う。ベスピナは最近、英国旗をあしらった塗装を施す作業を受けていたが、現在は任務に復帰している。