廃墟の村を丸ごと購入、「眠れる森の美女」が目覚めるのはいつに イタリア
(CNN) 過疎化が進み、人が住まなくなった家を格安で提供するイタリアの町が増加していることを背景に、同国では近年、空き家への人気が高まっている。
シチリアの町サンブーカ・ディ・シチリアは、2019年におよそ1ドルで住居の売却を始めたことで話題を集め、イタリアにおけるちょっとした「リトル・アメリカ」になったという。
だが、カンパニア州サレルノ県にある寂れた村、サン・セベリーノ・ディ・チェントラ出身のイタリア人グループは、さらに一歩進み、集落を丸ごと購入することにした。
シルベリオ・ダンジェロ氏は08年、イタリア国内に住む他の8人と協力し、同村の中世の歴史が残る地区にある空き家をすべて買い取った。この地区は、1970年代に最後の住民が去って以来、ほとんど放置されていた。
強い愛着
元銀行家のダンジェロ氏と仲間たちは、過去に村で家を所有していた人たちの相続人に連絡を取り、空き家を売却するよう説得を始めた。このままでは村が、構造から根本的に変えようとする悪徳投資家の餌食になってしまうという危機感を抱いたからだ。
「この土地に対する本能的な愛と、自分たちのルーツや先祖に対する情熱に我々は突き動かされていた」と、村の新集落で生まれたダンジェロ氏は語る。村人たちは1800年代、厳しい冬や険しい道、過酷な生活環境ゆえに旧集落から逃げ出し、地続きの丘を下ったところに新集落を作った。
「我々はこの土地に強い愛着があり、心はここにある。だが、かなり無謀な行動だった。このような場所全体が息を吹き返すには、かなりの忍耐力と資金が必要だ」(ダンジェロ氏)
廃墟(はいきょ)となった旧集落から徒歩15分ほどの場所に位置するサン・セベリーノ・ディ・チェントラの新集落には現在、350人ほどの人々が住んでいる。
ダンジェロ氏らは15年前に旧集落にある約60軒の古い石造りの住居を取得し、財産権は各人が持っている。
手つかずの険しい丘や森、小川に囲まれたこの集落を、豪華なリゾートや住居を備えた保養地にしようという壮大な計画は彼らにはない。ただ、荒れ果てた家やモニュメントに新しい命を吹き込み、村の本来の美しさを守ることに貢献したいという。
「廃墟となった集落が朽ち果て、忘れ去られ、ごく一部の場所だけが新しく変わっていくのを見るのは心が痛む」とダンジェロはCNNに語った。「ここを訪れる人たちが、どの場所にもアクセスでき、安全であるようにしたいと考えている」
ダンジェロ氏は集落の取得価格は公表しないとしているが、集落全体を買い取ったことについては「壮大な救出作戦」だと表現している。
「私たちは旧集落が悪の手に落ち、その性質が破壊されることは望んでいなかった。だから、たとえ朽ちていようと、必ずしも何かをする必要はなく、市場から撤退させるためには購入したほうがいいと判断した」(ダンジェロ氏)
村の「救助者」
イタリアには自然災害や移住などの理由によって、廃墟となった集落や村が約6000カ所点在する。サン・セベリーノ・ディ・チェントラもその一つだ。
多くの場合、こうした場所は息をのむほど美しい場所にあり、イタリア人はそれらを「眠れる森の美女」と呼んでいる。というのも、これらの村や集落は、投資家や、サン・セベリーノ・ディ・チェントラの場合は家族のつながりを持つ地元住民といった確固たる救助者によって「目覚める」、もしくは復活するのを待っているかのように感じられるからだ。
サン・セベリーノ・ディ・チェントラの住民の娘で、「救助者」の1人であるPRコンサルタントのモニカ・ジロッキ氏は、「とんでもない冒険だった」と語る。