米国人が渡航禁止の北朝鮮、大金で得た別のパスポートで入国した旅行者が目にした光景とは

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2015年の平壌訪問時、万寿台大記念碑の前で記念撮影するジャスティン・マーテル氏/Young Pioneer Tours

2015年の平壌訪問時、万寿台大記念碑の前で記念撮影するジャスティン・マーテル氏/Young Pioneer Tours

(CNN) 世界のほとんどの人にとって、新型コロナウイルスの暗い日々は遠い記憶のように感じられる。しかし北朝鮮ではそうではないとジャスティン・マーテル氏は語る。マーテル氏は5年以上前に新型コロナのパンデミック(世界的流行)が始まって以降、北朝鮮に足を踏み入れた最初の米国人として知られる人物。独特でアクセスしづらい場所を取り上げたドキュメンタリーを専門とする映画製作者だ。

北朝鮮ではマスクの着用や検温といった厳格な健康対策が今でも日常的に行われており、地元の市場を含む人気の観光地は、ウイルス感染の恐れがあるとして今も立ち入り禁止となっている。

北朝鮮ではパンデミックに対する恐怖心が根強く残っており、マーテル氏は、ウイルスの起源に関する奇妙な説に遭遇したこともあるという。新型コロナは韓国から送られた風船で国内に侵入したといううわさだ。

同氏は先週、ツアーオペレーターの小規模な代表団に参加し、北朝鮮を訪れていた。欧米からの観光が限定的に再開されるため、その準備のため北朝鮮で5日間過ごした後、17日に中国に戻った。

訪問中、ツアーオペレーターたちは、今後の旅程に地元の映画館での映画鑑賞を追加する可能性について話し合った。北朝鮮は最近、金正恩(キム・ジョンウン)政権下で映画産業を活性化させており、映画館では朝鮮戦争を題材にした「72時間」や「One Day and One Night」などの新作が上映されている。

北朝鮮とロシアの関係が深まる中、首都平壌では、昨年からロシア人観光客の訪問が認められているものの、西側諸国からの訪問は禁止されたままだ。

パンデミックではすべての訪問者が締め出されたが、米国人はコロナのパンデミックよりもはるか前から北朝鮮への入国を禁じられている。北朝鮮で拘束され、意識不明のまま帰国してまもなく死亡した米国人学生オットー・ワームビアさんの死を受け、米国務省は、2017年9月1日に渡航禁止令を発令した。

それまでに11回北朝鮮を訪れていたマーテル氏は、禁止令が発効した当時、北朝鮮にいた。そして国境を越え出国したものの、再び北朝鮮に戻る決意を固めていた。

「訪れるのをやめたくなかった」と同氏は語った。「会話を終わらせたくなかった」

米国の渡航禁止を回避するため、マーテル氏はカリブ海諸国のセントクリストファー・ネビスで二重国籍を取得した。同国は投資による市民権取得プログラムで知られている。同氏は同国の基金に6桁にのぼる金額を寄付することで、二つ目のパスポートを手に入れ、米国の規制に違反することなく合法的に北朝鮮に戻れるようになったという。

ちなみにウクライナ戦争が始まって以降、二つ目のパスポートを取得するロシア人が増えたため、この市民権取得プログラムの価格は高騰している。価格は2~3倍に跳ね上がり、今では25万ドル(約3800万円)にまで達しているという。

北朝鮮のガイドの間で米国の政治は話題になった一方で、ロシアのウクライナ戦争の話題は沈黙が守られた。つまり、慎重に省略された。

英国の旅行会社コリョツアーズで北朝鮮ツアーの責任者を務めるゲルグ・バツィ氏は、この問題の微妙さを認識していた。

「東欧について非常に詳しいガイドがいたが、ウクライナについては触れなかった。越えてはならない一線のように思えた」

一方でマーテル氏は、北朝鮮のガイドらは、トランプ米大統領が提案した関税からウクライナ紛争まで、世界的な出来事を認識していたと指摘する。ガイドたちが共有した内容よりも、言わないことを選んだことのほうが、ガイドたちの視点をより明らかにしていると感じたという。

「地政学について話したが、ウクライナについては、彼らはおおむね耳を傾けていた」「彼らにとってはロシアへの支持を表明しながら、慎重な姿勢で向き合う話題だった」

バツィ氏は、ガイドが世界情勢について認識していることについて、外国人と出会うためにそれらの人々から教えてもらっているのだと語った。

羅先特別市でスローガンの書かれた看板の前に立つマーテル氏=2025年2月16日/Young Pioneer Tours
羅先特別市でスローガンの書かれた看板の前に立つマーテル氏=2025年2月16日/Young Pioneer Tours

北朝鮮ではいくつかの注目すべき変化があった。かつては厳格で有名だった写真撮影のルールが大幅に緩和されたのだ。

「叱られたのは一度だけ」とバツィ氏は語る。「それはガイドを撮影したときだ」

一方でマーテル氏は、セントクリストファー・ネビスのパスポートを持っていても、米国人への監視の目を感じていた。

「同じときに撮影した二つの動画を削除するように求められた。一つは、マスゲームの準備を撮影したもので、もう一つは、ガイドがプロパガンダの標語を誤訳し、私がその標語を間違って説明した動画だ」

米国人であるにもかかわらず、マーテル氏は敵意に遭遇することはなく、「反米的な発言はなかった」と言う。公園を歩いていたとき、何人かの子どもたちがマーテル氏らを見て逃げていったことがあった。ガイドの一人が「たぶん、彼らはあなたたちが米国帝国主義者だと知っているからだ」と冗談を言ったので、マーテル氏は「いや、(帝国主義者)はひとりだけだ」と返し、全員で笑い合ったという。「私はそれを悪意あるコメントとは受け止めなかった」

マーテル氏は、反米プロパガンダをうたうポスターは貼られておらず、外国語の書店では反米ポストカードがあるかどうかをあえて尋ねなければならなかったと述べた。もう店頭には置かれていなかったからだ。

マーテル氏と仲間たちの心に残ったのは、自然で、個人的な人との出会いだった。現地の学校で、マーテル氏は好奇心旺盛な生徒たちの質問に答える機会があった。

「子どもたちは政治には関心がなかった」とマーテル氏は振り返る。「彼らは音楽やスポーツ、米国での生活がどのようなものかを知りたがっていた。彼らはつながりを求めていたのだ」

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