最終的に、情勢は向こう数週間で改めて激化するかもしれない。今回絡むのはイランだ。ブリンケン米国務長官は、協議に復帰して核合意を再建する意欲を示した。その合意によってイランの核兵器への強い野心を抑え込む考えだが、イランがそれに同意する用意があることを示す証拠はほとんどない。
なるほど、バイデン政権は1日、新たな制裁措置を発表し、イランの石油産業への「不法な」支援を標的とする方針を打ち出した。ただ同産業には、すでに過酷な制裁が科されている。また「ブレークアウトタイム」(核兵器のための核分裂性物質をイランが製造するのに要する時間)がゼロに近い水準にまで縮小しているとの見方もある。
もしイランが核実験を行うか、あるいは核実験を行う能力を明示した場合でさえ、主要な敵国であるサウジアラビアはあらゆる手を尽くして独自の核兵器を配備するとの考えをすでに示唆している。実際のところサウジは、パキスタンの核プログラムや中国との間で緊密な関係を育んでいる。こうした国において、海外の石油に対する欲求はとどまるところを知らない。
グテーレス氏が極めて悲観的になるのもほとんど驚くに値しない。NPT再検討会議で同氏の後に続いた一連の演説に、核の魔神を瓶へと戻す意図が感じられるものはまず見当たらなかった。
ブリンケン氏は同会議での自身の演説で、ロシアが「無謀で危険な核兵器による威嚇」をウクライナで行っていると非難。一方で北朝鮮は「7度目の核実験実施に向けた準備をしている」とした。イランについては、「依然として核拡大の道を進んでいる」との認識を示した。
そのうえで「恐怖の論理を脱すること」に言及。それこそが核不拡散に同意した全ての国々にとって最も差し迫った使命となるはずだと結論した。
しかし、どうもより一層価値のある目標は、単に世界が時計を2022年から1962年へと戻す方法を見つけることかもしれない。あるいは82年でも構わない。これらは恐ろしい年だった。我々は何食わぬ顔で毎週、幼稚園の小さな木の机の下に隠れる訓練を繰り返していた。家の庭には放射能から逃れるためのシェルターを掘り、今にも起きるであろう核攻撃に備えた。
しかし、そうした極めて現実味のある切迫した脅威は夜ごとのニュースのトップを飾り、世界中がその話題で持ちきりだった。こうした状況に突き動かされ、ありとあらゆる対策が世界のあらゆる指導者によって立てられた。彼らは核兵器こそがまさに最重要の課題であり、またそうあるべきだと理解していた。今はもう、核兵器がそのように扱われることはない。
この恐怖が、国連事務総長の悲観論の中心にはある。我々全員の中心にも、それはあって然るべきだ。
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デービッド・A・アンデルマン氏はCNNへの寄稿者で、優れたジャーナリストを表彰する「デッドライン・クラブ・アワード」を2度受賞した。外交戦略を扱った書籍「A Red Line in the Sand」の著者で、ニューヨーク・タイムズとCBSニュースの特派員として欧州とアジアで活動した経歴を持つ。記事の内容は同氏個人の見解です。