少子化に直面する台湾軍、中国の脅威増大でも兵役対象者は減少
台湾・台北(CNN) 台湾の国防計画に空いた穴が拡大の一途をたどっている。予算増額や兵器の追加購入で容易にふさげるような穴ではない。
人口約2350万人の台湾では現在、軍の目標を満たす人数の若者を採用するのがどんどん難しくなっている。台湾内政部(総務省に相当)は、問題の少なくとも一因は、一向に上昇しない出生率にあるとの見方を示唆する。
内政部によると、台湾の人口は2020年に初めて減少に転じた。内政部は先日、22年の軍入隊者はここ10年で最少になる見通しだと指摘。若年人口の減少が将来に向けた「大きな課題」を突きつけていると警鐘を鳴らした。
台湾が中国による侵攻の可能性に備え軍事力強化を図るなか、これは悪いニュースといえる。中国共産党は一度も実効支配したことない台湾の「再統一」に向け強硬姿勢を強めており、必要なら武力行使も辞さない構えを示す。
今後の見通しを一段と暗くしたのが、台湾の国家発展委員会による新報告書の公表だ。報告書では、台湾の年間出生数は35年までに21年の15万3820人から約2万人減少すると予想。35年までに韓国を下回り、世界で出生率が最も低い地域に転落するとの見通しも示した。
こうした予想が、兵役対象の若い男性の兵役期間を延ばすべきどうかの議論に影響を与えている。台湾立法院(国会)の報告書によると、台湾の職業軍人の数は22年6月時点で16万2000人と、目標人数を7000人下回る。これら職業軍人に加え、兵役対象の男性は全員、予備役として4カ月の訓練を受ける義務がある。
兵役義務の変更が実施されれば、台湾にとって大きな方針転換となりそうだ。台湾はかねて徴兵の削減を図っており、18年には兵役期間を1年に短縮していた。たが邱国正(チウクオチョン)国防部長(国防相)は22年12月、年内に兵役延長計画を公表する方針を示した。
若い学生の一部はこれに反発し、台湾のインターネット掲示板「PTT」で不満を吐露したものの、より広い層の市民からは延長を支持する声が上がる。
台湾の世論調査機関が22年3月に行った調査によると、大半の台湾人は兵役期間の延長に賛成で、回答者の75.9%は1年間への延長が妥当だと回答。反対は17.8%にとどまった。
多くの専門家は、端的に言って他の選択肢はないと主張する。
台湾・国防安全研究院のディレクター、蘇紫雲氏によると、16年以前には職業軍人あるいは予備役として軍に入隊可能な男性が約11万人いた。以後、この数は毎年減少の一途をたどっており、25年までには7万4000人に落ち込む可能性が高い。
台湾軍が採用できる若者の数は、今後10年以内に3分の1も減少する可能性があるという。
「これは我々にとって国家安全保障上の問題だ」と蘇氏は指摘する。「人口が減少している現状を踏まえ、軍のニーズを満たすために徴兵を再開すべきか積極的に検討している」
「我々は(中国からの)脅威の増大に直面している。火力や兵力の増強を図る必要がある」(蘇氏)
台湾固有の問題?
台湾の出生率は0.98で、安定した人口の維持に必要な2.1をはるかに下回る。ただ、これは東アジアでは例外的な数字ではない。
22年11月には韓国で出生率が0.79に低下し、自国の持つ世界ワースト記録を更新。日本の出生率も1.3、中国本土でも1.15に落ち込んだ。
それでも専門家らは、台湾の規模と直面する脅威の数々を考慮すれば、出生率低下は台湾軍に固有の問題を突きつけているとの見方を示す。
中国は、22年8月にペロシ米下院議長が台北を訪問して物議を醸して以降、台湾に対する威嚇をますます強化してきた。ペロシ氏訪台の後には、台湾周辺で前例のない軍事演習も実施した。
その後も緊張は高まったままだ。特に中国の習近平(シーチンピン)国家主席は22年10月に行われた共産党の重要会議で、「再統一」は不可避であり、中国は「あらゆる必要な措置」を取る選択肢を留保すると表明した。
台湾空軍の張延廷・元副司令官は、東アジアでは出生率の低い地域が多いが、「台湾の状況はまったく異なる」と指摘。台湾が直面する「(中国からの)圧力は一段と強まっており、情勢は今後さらに緊迫する」との認識を示す。
「日本や韓国には米国の軍事基地があり、シンガポールの場合は隣国からの軍事的脅威は切迫していない。台湾が最も大きな脅威に直面しており、出生率の低下で状況はさらに深刻化するだろう」(張氏)
中華経済研究院の李淳・副執行長も、台湾が直面する安全保障上の脅威は東アジアの他地域よりも大きいとの見方に同意する。
「台湾は同様の問題に直面する国に比べ人口基盤が小さいため、状況は一段と厳しい」(李氏)
台湾の人口は2350万人。これに比べ韓国の人口は5200万人、日本は1億2600万人、中国は14億人に上る。
問題は新兵募集にとどまらず
若者減少の影響は兵役対象者の縮小にとどまらず、台湾の長期的な経済力をも脅かす可能性がある。台湾では経済力自体が防衛の柱だ。
英経済ビジネス・リサーチ・センターによると、台湾の経済規模は世界21位。21年の国内総生産(GDP)は米ドル換算で6685億1000万ドルだった。
台湾の経済力の源泉は主に、スマートフォンからコンピューターまであらゆる製品に欠かせない半導体の供給で主要な役割を占めていることにある。
台湾の巨大半導体企業、台湾積体電路製造(TSMC)は世界経済だけでなく中国にとっても極めて重要な企業だと見なされており、中国の潜在的な軍事侵攻に対抗する「シリコンの盾」の役割を果たしていると時に指摘される。TSMCの存在が欧米の介入を促す強力なインセンティブになるためだ。
李氏は、人口水準とGDPの間には密接な関係があると指摘。他の条件がすべて等しい場合、人口が20万人減少すれば0.4%のGDP縮小につながるという。
「GDPを0.4%拡大するのは非常に難しく、多大な努力が必要になる。それを考えると、人口減によりこれだけの成長が失われるという事実は大きい」(李氏)
対策を打つ
台湾政府は一連の出産奨励策を導入したものの、成果は限られている。
奨励策は第1子を授かった親に月額5000台湾ドル(約2万1000円)を支給するという内容で、子どもが1人増えるごとに増額する。
21年からは、妊娠した女性は出産前に産科検診のための休暇を7日間取得できるようになった。
軍以外の経済全般に目を向けると、台湾は人手不足解消のため移民労働者の就労を促している。
国家発展委員会の統計によれば、台湾にいる移民労働者の数は21年末時点で約67万人と、人口の約3%を占める。
移民の大半は製造業で雇用されていて、その大半はベトナムやインドネシア、タイ、フィリピンから来た人だという。
李氏は長期的には台湾政府は移民政策を改革し、より多くの移民労働者を受け入れざるを得ない可能性が高いとの見方を示している。