香港(CNN) 中国の習近平(シーチンピン)国家主席は、先月末の指導部人事で権力を確実なものにしたが、いよいよ国際舞台に本人自身が復帰しようとしている。そこには西側諸国との緊張が高まる中、中国の立場を強化しようという意図が見て取れる。
習氏は先ごろ、ごく一握りの外国要人を北京に迎え、タンザニア、パキスタン、ベトナム、ドイツと首脳会談を行った。習氏は今月予定されている国際会議に出席すると見られている。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が始まって以来、外国からの公式訪問の数を極端に制限し、国外にも1度しか出ていなかった習氏にしてみれば、大きな方向転換だ。
習氏は、間違いなく中国共産党の最重要人物だが、2年以上もなりを潜めてきた。その間、中国国内では、国境閉鎖や隔離義務、ロックダウン(都市封鎖)、定期的な大規模検査を行ってウイルスを徹底排除しようとする、厳格な「ゼロコロナ」政策が敷かれていた。
中国は引き続きそうした政策の下で国民の行動を制限している。しかし、ここ最近や今後予定されている習氏の外交日程からは、先月の全国人民代表大会(全人代)で異例の3期目に突入した同氏が、世界各国首脳と肩を並べる機会を逃したくないと考えていることがうかがえる。
習氏は先の全人代で、中国が直面する外部からの脅威に厳しい評価を下した。会期中に発表された活動報告では、増加する諸問題の原因は「予断を許さない複雑な国際情勢」にあるとし、「中国を抑制し、封じ込めようとする外部からの試み」により「状況がいつでも悪化する」危険があると共産党員や国民に語った。
「中国が今後直面する大きな課題(の根源)は、ますます厳しくなる国際情勢であり、中国はそれに対抗していかねばならないと(習氏は)はっきり明言した」とロンドン大学東洋アフリカ研究学院(SOAS)中国研究所のディレクター、スティーブ・ツァン氏は語る。
習氏の明らかな外交の強化は、こうした逆風への対抗措置もあるだろうが、計算した上での動きでもある。ツァン氏は「コロナの脅威が、これまで想定していたよりも対処可能だというような結論に達したに違いない」と述べた。
支持を集める
実権を握ってから10年間にわたり中国の世界的影響力の強化を目標としてきた国家指導者にとって、国際舞台に自ら出向く機会が減れば、個人外交を妨げることにもなりかねない。習氏は、昨年の主要20カ国・地域(G20)の会合でも外相を派遣していた。
各国首脳が外遊を再開して海外の要人を迎えていた時でさえ、習氏の外交行事の日程は依然として圧倒的にリモート参加が中心だった。主要相手国とのオンライン首脳会談をはじめ、ビデオ演説、バーチャル行事では各国首脳と「クラウド上」で集合写真を撮影するなど、新型コロナの感染リスクを最小限にとどめようとする意図が明らかだった。
今年に入ってからは少数の海外首脳と北京で会談し、2020年以来久しぶりに対面での会合を行った。だが大半は全人代の開催前で、2月に行われた北京冬季オリンピックに合わせての訪中だった。その際も出席したのはロシアやエジプトといった中国の友好国で、米国やその同盟国は中国の人権問題を理由に「外交的ボイコット」を行った。
今年9月、習氏はパンデミック発生から初めて国外に出て、ウズベキスタンで行われた中国主導の上海協力機構(SCO)の会合に出席した。
習近平国家主席らが参加した上海協力機構(SCO)の会合=9月16日、ウズベキスタン・サマルカンド/Murat Kula/Anadolu Agency/Getty Images
専門家によれば、習氏は今後数週間から数カ月間は引き続き友好国との関係強化を最優先に外交を進めていく可能性が高い。G20やアジア太平洋経済協力会議(APEC)など、習氏が定期的に首脳会議(サミット)を開催したり出席したりしていたころとは世界がまるで違っているからだ。習氏は今月予定されているG20とAPECの首脳会議はどちらにも出席すると見られている。
「中国が直面する一番の障壁は、米中関係の悪化だ。米国が敵対心を抱いている以上、中国は西側諸国との関係でも、とりわけ経済の脱中国化など、大きな逆風に直面している」。こう語るのは、米シンクタンク「スティムソン・センター」で中国プログラムのディレクター、ユン・スン氏だ。
「中国は競合国の米国と直接対話をする代わりに、他の国々から支援や連携を取り付けようとしてくるだろう」(スン氏)
中国ファースト
習氏は4日、ドイツのオラフ・ショルツ首相と首脳会談を行った。主要7カ国(G7)首脳との会談は実に3年ぶりだが、これもそうした外交戦略の一端と見ていいだろう。専門家によれば、中国寄りの姿勢を強めるドイツが、欧州連合(EU)が対中国路線で団結するのを阻む可能性があるからだ。
ショルツ首相は、訪問中に中国の李克強(リーコーチアン)首相とも会談し、中国との「対等な」経済連携への支持を口にしたが、人権問題や市場参入、台湾の将来といった諸問題にも言及したと述べた。またEU加盟国のひとつが中国と関係を結べば、全体に影響が及ぶ点も強調した。
ショルツ首相はウクライナでの平和構築を推進する責任にも言及した。習氏も会談に合わせ、おそらく習氏の中でもこれまでで最も強い言葉で紛争拡大について発言した。
習氏は国際社会に対し、「核兵器の脅威や使用に反対」して「ユーラシア大陸での核の危機」を未然に防ぐよう求め、越えてはならない一線を明確に示した。もっとも、中国はいまだ隣国を侵攻したロシアを糾弾するには至っていないし、習氏もロシアのウラジーミル・プーチン大統領と緊密な関係を維持している。
批判的な人々からは、今回の訪中は習体制に太鼓判を押すも同然だと見られていた。そうした国内の厳しい批判を押して訪中したショルツ首相は後日、核兵器に関する発言が出ただけでも今回の訪問は「価値があった」と語った。
今後予定されている首脳会談でも、習氏の戦略は同じような路線に落ち着くとみられる。
「習氏は中国がいまも国際社会に関与し、しかるべき指導力を発揮する準備が整っていることをアピールしてくるだろう」とスティムソン・センターのスン氏は語った。
だが、いくつもの壁が待ち構えている。パンデミックの発生から3年近く経過したところで、習氏はようやく自ら腰を上げ始めたばかりだ。「様々な点で遅れを取り戻さなくてはならない」とスン氏も付け加えた。
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本稿はCNNのシモーヌ・マッカーシー記者の分析記事です。