イエスの肌は褐色だった? 人種問題がかつてない脚光を浴びる理由
(CNN) 白く透き通るような肌と亜麻色の髪をしたイエス・キリスト。福音派の教会に通っていたクリスティーナ・クリーブランドさんは、そんな肖像画に囲まれて幼少期を過ごした。しかし、ある時遭遇した絵画の中のキリストの姿に息をのんだ。
復活したイエスを弟子たちが取り囲む絵の中で、クリーブランドさんの目をくぎ付けにしたのは肌の色だった。イエスも弟子たちも有色人種として描かれていた。後に神学者となるクリーブランドさんは、自分がいつも北欧系のイエスの姿を思い描いていたことに気付いた。イエスが黒人女性である自分と同じような容貌(ようぼう)だったと認識した瞬間だった。
イエスの肌の色が変わったことで、イースターの意味に対するクリーブランドさんの見方も変化した。
「あのイースターの物語を見た時、私は国家が振るう暴力の犠牲者としてのイエスを見ていた。イエスを取り囲む黒人や茶色い肌の人たちは、何とかしたいと思いながら、その瞬間は何もできずにいた」(クリーブランドさん)
「私は人間性を理解できず、最悪を想定する体制の犠牲になる人々を見ていた。それでも最後には希望がある。世界は正義の方に傾く」(クリーブランドさん)
イエス・キリスト復活のイースターを世界が祝う中で、クリーブランドさんの話は真実を突きつける。歴史上の人物としてのイエスの容貌は、教会のステンドグラスの窓に描かれたりハリウッド映画に登場したりした容貌とは似ても似つかない。
イエスは中東のユダヤ系やアラブ系の男性のように、褐色の肌で茶色い目をしていた可能性が大きいという見解で、ほとんどの学者は一致している。ある評論家はかつて、もしもイエスが現代の旅客機に搭乗したとしたら、米運輸保安庁に目を付けられて追加の保安検査を受けさせられていたかもしれないとコメントした。
イエスの肌の色を巡る論争は、宗教界で古くから続いていた。白人のイエスの巨大な肖像画が掲げられた黒人教会に通っていた筆者は、理髪店などで白熱した論議が交わされ、神学者気取りの人たちが黙示録を引き合いに、イエスは黒人だったと主張するのを聞いていた(聖書によると、イエスの髪は「羊毛のように白く」、足は「焼けた青銅」のようだった)。
FOXニュース司会者のメーガン・ケリーさんは2013年、イエスがサンタクロースと同じ「白人男性だった」ことは「検証可能な事実」だと断言したが、後に単なる冗談だったと弁明した。
それでも今年のイースターは二つの理由から、イエスの肌の色を巡る疑問が重要な問題となる。
第一に、古典的な北欧風のイエスのイメージが今も根強く残る教会がある一方で、白人のイエスを入れ替えようとする運動も米国に根差している。白人のイエスの肖像画を堂々と掲げることは時代遅れで、場合によっては不快とみなす教会も多い。急速に多様化が進む米国では、自分のような姿をしたイエスを見たいと望むキリスト教徒が増えている。
これに対して白人のイエスが決して消えない場所もある。白人のキリスト教国家主義者のSNSには昔ながらの白人のイエスの画像があふれ返り、中にはドナルド・トランプ前大統領のスローガンにちなむ赤いMAGAハットをかぶったイエスもある。
「MAGA(米国を再び偉大に)」と記された帽子をかぶったイエスの絵/Al Drago/Bloomberg/Getty Images
トランプ氏が売り出した「神よ米国に祝福を(God Bless the USA)聖書」には、米国憲法と権利章典を引用した一節があり、国家主義とキリスト教を結び付けて白人のイエスのイメージを強調している。
第二に、イエスの出自をめぐる新たな論争が巻き起こっている。イスラエルとイスラム組織ハマスの戦争に批判的な立場からは、イエスを「パレスチナ系ユダヤ人」とする声もある。半面、この主張は誤りであり、「イエスを反ユダヤに利用する」醜い歴史的なパターンが繰り返されていると主張する学者もいる。
一方で、イースターの物語は肌の色やイエスのメッセージとは何の関係もないと訴える声もある(聖書のガラテヤ書には、「ユダヤ人も異邦人もなく、奴隷も自由人もなく、男と女もない。キリスト・イエスにおいて、あなた方はみな一つだ」という一節がある)。
宗教的に中立な立場から、なぜ何にでも人種を持ち込む必要があるのかと疑問をぶつける人もいる。ある評論家は次のようにコメントした。
「イエスがどんな色だったとか、イスラエルの12支族がどんな色だったとか、神は黒人か白人かといったことを問題にする人々にはうんざりだ。私は個人的に、そうした人たちがどんな色であろうがどうでもいい。聖書の中には私が知る限り、登場人物の肌の色を『問題』にしている箇所はない」