ロシア軍が負傷兵を「再利用」、杖とともに前線へ 人員不足に直面か
負傷したロシア兵、松葉杖のまま前線に再投入
キーウ/ロンドン(CNN) ロシア軍が、負傷した兵士をつえとともに前線に送り出したり、重傷を負った兵士を戦闘任務に再配置したりしていることがわかった。CNNが入手した動画や証言から明らかになった。ロシア軍での人員不足が深刻になりつつある。
ウクライナ軍のドローン(無人機)の操縦者やロシア軍が投稿した前線の映像には、明らかに脚を負傷しており、戦闘地帯でつえをついているロシア軍兵士の様子が捉えられている。なかには包帯をしたままの兵士もいる。歩行器具を使って逃げようとしたものの、ウクライナ軍のドローンの犠牲となった事例もあった。
西側当局者のひとりは、松葉づえをついて前線に繰り返された兵士について、「ロシア軍は負傷兵を再び戦闘に送り返している」と語った。
機微にふれる情報だとして匿名を条件に語った当局者は、負傷兵の投入について、ロシア軍が、より広範な動員をせずに増大する人員不足に対処していることを示唆しているとし、こうした対応はロシアの都市部の中産階級では不評だと指摘した。
ウクライナの要衝ポクロウスクで戦っているウクライナ軍の部隊が1月に投稿した動画には、松葉づえを両脇にあてながら物陰に隠れようとするロシア兵の姿が捉えられていた。上空からはウクライナ軍のドローンの音が聞こえ、危機的状況にあることを認識しているにもかかわらず、このロシア兵の動きは遅かった。
ドローンはその後、このロシア兵の周囲に爆発物を落とした。
ほかの動画にも負傷兵を前線に強制的に配置する様子が映っている。ある動画では、ロシア南部クラスノダール地方のエイスクにある軍の病院から軍服姿の男らによって負傷した男性が引きずり出される様子が捉えられていた。CNNはこの男性の安全に配慮して名前を明らかにしない。
男性はカメラに向かって、「いったい、私に何をしているんだ。昨日手術を受けたんだぞ、くそ!」と述べ、ロシアの全ての住民に対して、ロシア連邦軍の兵士のひとりに何がおきているのか示したいとも語った。男性は負傷した手を持ち上げ、「私には指がない。昨日縫ってもらった。松葉づえを使わなければ動けない」とも訴えた。
男性によれば、ウクライナ東部の前線ルハンスクに戻るまで8時間にわたって悪路を車で移動した。他の乗客にカメラが向くと、やはり負傷していた。「胃にはチューブが入っている」と話す男性もいた。この動画がいつ撮影されたのかは不明。
ウクライナ軍情報機関の当局者によれば、過去6カ月で「戦闘地域」に負傷したロシア兵が現れる傾向に気づいたという。この当局者によれば、ロシア軍が負傷兵を使っているのは、指揮官が、兵の損耗や、必要なときに兵士を戦闘地域に出し入れする能力がないことを隠すためだという。
かろうじて再配備を免れたロシア兵もいる。CNNは、ウクライナ・ボウチャンスク周辺での戦闘で負傷し、限定的な治療を受けた後、1カ月間の休暇を与えられたロシア兵に話を聞いた。この男性は負傷兵が前線に戻されると聞いてロシアから逃亡した。CNNは男性の発言内容を裏付ける書類を確認したが、安全のため詳細は明らかにしない。
男性は「1カ月間、入院したが、誰も破片を取り出してくれなかった。ただ薬をぬるだけでおわった。傷が少し治ると退院した」と振り返った。
男性は、モスクワ近郊で、四肢を失った人や動けない人、松葉づえをついた人たちの部隊で静養しており、健康になったら1カ月間の休暇が与えられると語った。
「しかし、彼らは部隊を離れることは認められていない。これは『回復連隊』と呼ばれている。彼らはそこで1カ月間を過ごし、再び戦争に送り出される」
この男性は、こうした方針を「片道切符」と呼び、家族への補償金の支払いを減らすことを目的にしているとの見方を示した。男性によれば、けがをした場合に300万ルーブル(約500万円)が支払われるが、そうした支払いを避けるため負傷兵を前線に送り出している。「行方不明になった場合、遺族には給付金が支払われない。証明には遺体が必要だが、遺体がなければ、それで終わり。ごめんなさい、さようなら、というわけだ」
CNNは、ウクライナ当局者がポクロウスク周辺で死亡したロシア兵の遺体から回収したとする書類を入手した。
書類のなかには、戦闘に送り返されたロシア人1人の頭部と体の重傷について詳述した医療報告書も含まれていた。