ANALYSIS

かつてマスク氏がばかにした中国EV大手BYD、今は逆の立場に

中国BYDが米テスラの売上高を上回った

中国BYDが米テスラの売上高を上回った

ニューヨーク(CNN) 米電気自動車(EV)大手テスラの強気派を夜も眠れなくさせる3文字がある――。「BYD」だ。

BYDは世界最大の自動車市場である中国で競合他社を圧倒し、世界中で急速に市場シェアを伸ばしている自動車メーカーだ(米国はもちろん除く。米国では長年にわたって中国からの輸入に制限を課しているからだ)。

BYDは24日、2024年の売上高が1070億ドル(約16兆1000億円)になると発表。初めて1000億ドルの水準を突破し、テスラの年間売上高を約100億ドル上回った。この節目を迎える1週間前、BYDは最新のEVモデルに搭載される充電システムを発表していた。このシステムはわずか5分間の充電で約400キロの走行を可能にするという。

香港市場のBYDの株価は、今年すでに50%以上上昇している。

ここ1週間の同社をめぐる衝撃的なニュースは、テスラの最高経営責任者(CEO)、イーロン・マスク氏にとって、十分な洗礼になるはずだ。同氏はかつてBYDを競合とみなすという考えをばかにした。そして現在の同氏はトランプ米政権のメンバーの中で相当な不人気に陥っている。

BYDが脚光を浴びる瞬間は、テスラが危機に陥りつつあるまさにその時に訪れた。

テスラの投資家らは主に古き良きビジネス上の根拠にもとづき、9週連続で同社の株を売り払っている。例えば、昨年はテスラの世界販売台数が史上初めて減少して今年もあまり良さそうには見えない▽競合他社が特に中国で同社の市場シェアを奪いつつある▽テスラの中核製品は何年も大幅なアップデートが行われておらず長く掲げられてきた低コストモデルはいまだ実現していない――といった理由が挙げられる。ほかにも、同社はEVの先駆者ではあるものの、自動運転に向けた競争ではグーグルの自動運転タクシー「ウェイモ」に後れを取っている。

しかし、理由はこれだけではない。

トランプ大統領の刺客としてのマスク氏の本業外の活動は、かつて上昇志向の左派に人気だったテスラブランドを、米国の右派の象徴に変えてしまった。中古EVへの関心が高まる中、テスラ車の中古価格は暴落している。

ホワイトハウスは、これにさまざまな離れ業で対応している。トランプ氏は南庭(サウスローン)から支持を表明する様子をライブ配信し、ラトニック商務長官はFOXニュースでテスラ株を売り込み、連邦捜査局(FBI)はテスラへの襲撃にテロ容疑をちらつかせている。これらすべてからは必死さが漂う(と同時に、こうした行為は法的慣習から大きく外れており、倫理の専門家らは理解に苦しんでいる)。

マスク氏が20日夜に全社会議で従業員に株を保有するよう促した後、テスラ株は21日から反発し始めた。個人投資家が押し寄せ、株価は21日に5%、24日には12%上昇した。

それでも同社の株価は昨年12月の最高値から40%以上下げたままで、複数のアナリストは通期の見通しを引き下げた。

テスラの市場シェアを奪っている中国企業はBYDだけではない。自動車市場データを分析するJATOの報告書によると、欧州では2月にテスラの売り上げが44%減少した一方で中国ブランドは総じて82%増加した。

JATOのアナリスト、フェリペ・ムニョス氏はこの減少について、テスラの一番人気である「モデルY」の改良にずれがあったことと一部関係していると述べた。マスク氏がドイツの極右政党を支持したことも助けにはならなかったようだ。欧州最大の自動車市場であるドイツでの販売は先月、75%減少した。

おそらくBYDがテスラにもたらす最大の脅威は、EVとプラグインハイブリッドの両方で、洗練され、テクノロジーに対応したさまざまな車種をわずかなコストで製造できていることだ。同社のエントリーレベルのEVは現在、中国での最低価格が1万ドルを切っている。最安車種であるテスラの「モデル3」は、その3倍の3万2000ドルだ。

電動モビリティーメディア「エレクトレック」の報道によると、BYDは24日、テスラのモデル3とほぼ同じ仕様の新型電動セダン「秦L EV」をモデル3の半値で発売した。この車種はBYDのスマートドライビングテクノロジーを搭載し、航続距離は530キロを超える。価格は1万6500ドルからだ。

テスラは中国で巻き返しを図るべく、モデルYの安価な小型版を開発中と報じられているが、ロイターが引用した匿名の情報源によると、量産開始は2026年以降とみられる。

マスク氏は11年、BYD(「Build Your Dreams<あなたの夢を実現する>」の略)をひどく過小評価していた。ブルームバーグ通信のインタビューで、BYDがテスラに脅威を与えているかと尋ねられた同氏は「彼らの車を見たことある?」と修辞的に問い返した。

しかし10年以上が経った今、BYDは年間売上高でテスラを追い抜き、EVの世界市場に衝撃を与えた。製造業の保護を目的とした関税のおかげで、テスラは米国で最も売れているEVメーカーであり続けているが、こうした貿易障壁がなければ、BYDはすぐにマスク氏の悪夢になりうる。

本稿はCNNのアリソン・モロー記者による分析記事です。

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