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ブランドの危機に直面するテスラ、唯一事態を収拾できるマスク氏は不在

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ウォール街は急速にマスク氏にしびれを切らしつつある/Mandel Ngan/AFP/Getty Images

ウォール街は急速にマスク氏にしびれを切らしつつある/Mandel Ngan/AFP/Getty Images

ニューヨーク(CNN) このところあらゆる場所に顔を出している様子のイーロン・マスク氏だが、最も必要とされる場所、つまり逆境にあえぐ電気自動車(EV)メーカー、テスラのかじ取り役のポジションにはいないようだ。

テスラ株の今年これまでのパフォーマンスは、S&P500構成銘柄の中で最も悪い部類に入る。販売台数は世界各地で減少。米国の中古市場も崩壊しつつある。軍用車さながらのサイバートラックは、走行中に外板パネルが脱落する恐れがあるとしてリコール(回収・無償修理)の対象に。今週のバンクーバー自動車ショーでは、詳細不明の安全面の懸念を理由に突然、テスラが排除された。さらに英紙フィナンシャル・タイムズの分析によると、同社のバランスシート(貸借対照表)から約14億ドル(約2090億円)の資金が消滅したとされる。

テスラのブランドイメージについては言うまでもない。テスラはかつて、上昇志向が強く、環境意識の高い左派にとって誇りの印だった。だが最近では、権威主義的な色合いを強める右派の護符のようになっている。

投資家は筋金入りのテスラ支持者でさえ、急速にしびれを切らしつつある状況だ。

20日にはウォール街きってのテスラ強気筋が、マスク氏とテスラの取締役会に対し「沈黙をやめ」、混乱を収拾するよう訴えた。

「現実を直視しよう。テスラは危機に直面している。それを収拾できる人物はただ一人、マスク氏だ」。ウェドブッシュ証券のアナリスト、ダン・アイブス氏は顧客向けメモにそう記し、「テスラとはマスク氏であり、マスク氏とはテスラである。この二つは同義語であり、切り離せない」と続けた。

アイブス氏は「マスク氏は(テスラの最高経営責任者としてではなく)DOGE(政府効率化省)に110%の時間を使っている」と指摘する。

別の大口投資家であるガーバー・カワサキ・ウェルス・アンド・インベストメント・マネジメントのロス・ガーバー氏は20日、CNNに対し、「イーロンはこれ以上ないほど顧客離れを引き起こしている」と述べ、取締役会が新たなCEOを探す時期に来ていると指摘した。

CNNはテスラにコメントを求めたものの、回答は得られていない。

20日深夜、マスク氏はX(旧ツイッター)で中継された全社会議で、テスラ株が「やや荒れ模様」を迎えていることを認めた。また、テスラ車が完全自動運転の実現へ順調に進んでいると改めて主張し、社員に自社株を手放さないよう呼びかけた。

アイブス氏のようなテスラの支持者がここまで直接的にマスク氏を批判するのは、極めて異例といって差し支えない。

投資家はこれまで、マスク氏による人種差別的なツイートや、新型コロナウイルスに関する誤情報の拡散、取引先への公の場での暴言など、他のCEOであれば容認しないであろうマスク氏のあらゆる振る舞いを大目に見ていた。テスラが競合他社の先を行っていることは間違いなく、マスク氏の奇行は織り込み済みだった。

子どもじみた感情の爆発を見せがちなマスク氏だが、テスラが危機的状況に陥れば本腰を入れると、投資家たちは知っていた。2018年にモデル3の生産が遅れた際、マスク氏は報道陣に対し、テスラの目標達成のため工場の床で寝泊まりして、徹夜で働いていると語っていた。

テスラが今なお米国で最も人気を集めるEVメーカーであることは間違いない。ただ、テスラは国内外で急速に市場シェアを失いつつある。競争激化が一因だが、テスラ自身のイノベーション(技術革新)が不十分という要因もある。

こうした中核事業への懸念が主な要因となり、投資家はテスラ株の持ち高を削減。この結果、株価は昨年12月以降に半減した。

マスク氏が常軌を逸したオリガルヒ(ロシア新興財閥)のようになりつつあるのも懸念材料だ。ウォール街は最近まで、大衆による示威的なボイコットや時折起きる破壊行為、テスラのショールーム前での単発的なデモを気にも留めていなかったかもしれない。しかしアイブス氏が指摘するように、マスク氏に対抗する社会運動は現実的なリスクとなりつつあり、株価を一層低迷させる恐れが出ている。

さらなる懸念材料は、テスラを公然と持ち上げる人々が世界有数の影響力を持ちながら、9週続落する株価の急落に歯止めを掛けることができていない点だ。

19日夜にFOXニュースに出演したラトニック商務長官は、視聴者に面と向かって「テスラ株を買ってほしい」と呼びかけた。これはあからさまな推奨で、当局者が自らの役職を利用して特定の企業や製品を薦めることを禁じる政府倫理規定に抵触するとみられる。

ラトニック氏の推奨には大した効果がなかったようだ。テスラ株は20日の立会時間前の取引で1.7%下落。午後の遅い時間帯に反発し、前日比0.17%増で取引を終えた。

1週間前には、従来EVに好意的ではなかったトランプ大統領が自ら、ホワイトハウス南庭でテスラを売り込み、株価を急騰させたものの、これは一時的だった。

まとめよう。莫大(ばくだい)な財産がテスラ株の13%の持ち高と直接関連しているマスク氏は2カ月前、政府を企業のように運営するという構想を掲げて悠然とワシントン入りした。その過程で、自らを一躍有名にして世界一の富豪に押し上げた本業をおろそかにしているように見えるのだ。

本稿はCNNのアリソン・モロー記者による分析記事です。

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