ANALYSIS

カナダ総選挙の争点は「米国への対抗」、ただし同国経済は戦闘態勢にあらず

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与党自由党のカーニー党首の選挙広告に登場したコメディアンのマイク・マイヤーズ氏/@MarkJCarney/X

与党自由党のカーニー党首の選挙広告に登場したコメディアンのマイク・マイヤーズ氏/@MarkJCarney/X

オタワ(CNN) コメディアンのマイク・マイヤーズ氏が生まれ故郷(カナダ)と居住地(米国)が対立する中、「戦う準備はできている」というときの声を上げたとき、カナダ全土では、笑い声と同じくらいうめき声があがったに違いない。これはマイヤーズ氏がカーニー首相とともにアイスホッケー場で会話する選挙広告の一幕だ。

与党・自由党の広告は、カナダ人のありきたりだが真実の固定観念やジョークを多く取り上げたが、今回の厳しい選挙戦では効果を発揮しないだろう。

米国のトランプ大統領がカナダで投票にかけられることはもちろんないが、各候補者がどのようにトランプ氏に対処するかは投票の対象となる。「毅然(きぜん)と立ち向かう」「戦う準備はできている」。これらはすべてのカナダの政治家が採用しているスローガンだが、重要な争点は、カナダ人の期待と、最大の貿易相手国との貿易戦争の脅威に直面している経済にどう対処するかだ。

トランプ氏は1月に政権の座に戻って以降、カナダを併合し、関税で経済を破壊すると繰り返し脅し、米国の「51番目の州」とやゆしている。

カーニー氏はトランプ氏がもたらす危険をカナダの存在に関わるものと評し、選挙戦開始時に、トランプ氏について「米国が我々を所有できるよう我々を壊したがっている」と批判した。

4月28日に行われる総選挙までの5週間にわたる選挙戦を始めるにあたり、カーニー氏は23日、カナダ国民に、トランプ大統領に対処し、すべての人に有効な新しいカナダ経済を築くための強力で前向きな信任を求めていると呼び掛けた。カナダには大きく、前向きな変化が必要だとも訴えた。

カーニー氏に対抗する保守党のポワリエーブル党首の呼び掛けもほぼ同じだ。

ポワリエーブル氏は23日、最初の選挙演説で「(トランプ)大統領にカナダの独立と主権を認めるよう求め、我が国への関税をやめるよう主張する。同時に、我々が自立し、必要なときに必要な場所で米国に立ち向かえるよう、我が国を強化する」と訴えた。

今回の選挙戦でポワリエーブル氏の保守党とカーニー氏の自由党はほぼ互角。多くの有権者はトランプ氏の脅しに腹を立て、恐怖を感じている。こうした有権者向けに両党がトランプ氏への対応をどう調整するかで、勝敗は決するだろう。

カーニー氏は演説で「私たちはあの裏切りのショックを乗り越えた。それは裏切りだ。しかし、教訓を決して忘れてはならない」と繰り返し述べているが、これまでのところ、教訓が何であるべきかについて国民に正直に語ってはいない。

カナダ経済は戦闘態勢にない。「戦う準備はできている」というスローガンは有権者の心をはやらせるかもしれないが、カナダ国民が米国による経済的打撃を乗り切るためには、本気で取り組む必要がある。

経済学者たちは長年、カナダの生産性の低さについて警鐘を鳴らしてきた。これは貿易戦争で同国をさらに脆弱(ぜいじゃく)にする大きな弱点だ。

カナダ銀行の上級副総裁、キャロリン・ロジャース氏は昨年、カナダの生産性が過去40年間で特に米国と比較して大幅に低下したと指摘し、「ガラスを打ち破る」べき緊急事態と評した。

ロジャース氏は「労働生産性は、経済が1時間当たりの労働で生み出す対価を測定する。生産性を高めるということは、人々が働いている間により多くの価値を生み出す方法を見つけることを意味する」と記し、これがインフレなどの問題から経済を守る手段になると付け加えた。

リテール銀行のTDエコノミクスが2024年5月に発表した報告書は、カナダ経済が労働者の生産性を向上させるための策を見つけられずにいる状況を端的に指摘している。

カーニー氏のような元中央銀行家にもポワリエーブル氏のような資源活用推進派にも即効性のある解決策はない。カナダ人は、米国からの「デカップリング(切り離し)」による影響の緩和に着手しなければ、生活水準が大幅に低下する危険にさらされている。

英国と欧州も同様の見立てに直面しており、英国、フランス、ドイツの指導者は、暫定的ではあるものの、国民との対話を開始。米国との分離は社会プログラムの削減か財政赤字の拡大、またはその両方を意味する可能性があることを明らかにした。

今後数週間にわたるカナダの選挙演説でこうした言葉が使われる可能性は低いが、そうなるはずだ。

首相就任からわずか10日で、カーニー氏は所得税、エネルギー税、新築住宅への減税を発表。また、国民歯科医療などの社会プログラムへの支出増も打ち出した。

ポワリエーブル氏は、防衛への新たな支出や、職業訓練への助成金といった新プログラムへの資金供給のほか、独自の「大胆で優れた」減税を約束した。

同氏は23日夜の遊説で「我々はこの不当な脅威を断固たる決意で見下ろす。なぜならカナダ人は強く、たくましく、自力でもちこたえられるからだ。安心してほしい」と述べた。

ポワリエーブル氏は、自由党によってカナダ人は「米国のいいなりになっている」と非難する。しかしこの攻撃でも、それを修正するための対処法は欠けている。

トランプ氏はカナダの政治家にとって生涯に一度の敵だ。トランプ氏とその政策を批判することは選挙活動の武器であり、しかも武器は簡単に使える。

トランプ氏がカナダを含むすべての国に相互関税を課すと約束した4月2日に状況は変わるかもしれない。

その発表から数日以内に大量解雇が行われ、カナダの通貨と株式市場の価値はさらに下落する可能性がある。党首らは覚悟を決め、道筋を明確にするとき、スローガンを捨てる必要があるだろう。

本稿はCNNのポーラ・ニュートン記者による分析記事です。

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