ANALYSIS

ロシアの世界的地位に抱く個人的感情、プーチン氏が本当に望むものとは

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ロシアのプーチン大統領がウクライナとの戦争で真に望んでいることとは/Photo Illustration by Jason Lancaster/CNN/Getty Images

ロシアのプーチン大統領がウクライナとの戦争で真に望んでいることとは/Photo Illustration by Jason Lancaster/CNN/Getty Images

(CNN) トランプ米大統領はこう言った。ロシアのプーチン大統領は平和を望んでいると思う、と。ウクライナと欧州の同盟国はそう考えていない。プーチン氏自身は平和を望むと語っていたものの、いざそれが選択肢として提示されると同意を拒んだ。

プーチン氏が本当に望んでいるのは、それよりも格段に大きなものだ。

本人は全く隠そうともしないが、事実プーチン氏はウクライナについて、独立国家として存在するべきではないと信じている。また北大西洋条約機構(NATO)は冷戦期の領域に戻るよう縮小させて欲しいとも再三口にしている。

しかし他の何にも増して、同氏は新たな世界規模の秩序を目にしたいと考えている。そしてロシアがその秩序における主役を演じることを望んでいる。

プーチン氏ならびに同氏が最も信頼を寄せる複数の側近は、旧ソ連国家保安委員会(KGB)の元職員から頭角を現してきた。同氏らはソ連崩壊の屈辱を決して忘れておらず、その後の世界のあり方にも不満を抱いている。

プーチン氏が権力の座に上り詰めたのは、1990年代の混乱の最中だった。当時のロシアは経済が破綻(はたん)し、国際通貨基金(IMF)と世界銀行による救済を必要としていた。これもまた、かつての超大国にとっては屈辱的な事態だった。

しかしプーチン氏が大統領に就任した2000年以降、石油価格の安定した上昇がロシアとその国民の多くをかつてないほど豊かにすると、ロシアに発言権が生まれた。世界の経済大国で構成する主要7カ国(G7)から招かれる形でこれに加入。G7はG8に改称した。

とはいえ、ロシアのリーダーにとってこれは十分ではなかった。米非営利団体ジャーマン・マーシャル・ファンドのマネジングディレクター、クリスティン・ベルジナ氏はCNNの取材に答えてそう述べた。

「プーチン氏は喜んで全てをかなぐり捨てた。自国民のため、より高次の地政学的目標を果たす必要があったからだ」とベルジナ氏。ロシアはG8から除名され、西側からの経済制裁を受けた。国際舞台から締め出されたのは、ウクライナに対する侵略が理由だ。

ベルジナ氏によれば、ロシアは「G7の8番目」にされることに決して満足しなかった。

「それがうまくいかないのは、ロシアが自国を特別な存在と認識しているためだ。世界最大の国家で、世界一豊富な(天然)資源も抱える。そんな国が単なる一プレーヤーに甘んじていられるだろうか?」(ベルジナ氏)

占領したウクライナ南東部の都市マリウポリの街路を走行するロシア軍の車列=2022年4月21日撮影/Chingis Kondarov/Reuters
占領したウクライナ南東部の都市マリウポリの街路を走行するロシア軍の車列=2022年4月21日撮影/Chingis Kondarov/Reuters

プーチン氏の望みを最近の米国との協議から読み解くには、両者が話し合った理由を思い出すことが重要だ。協議が実現したのは米国の政策がトランプ政権で180度転換したからであって、ロシア側の思考に根本的な変化が起こったからではない。

トランプ氏はウクライナでの戦争を可能な限り早期に終結させたいと考えている。たとえそれが、ウクライナにとってのさらなる領土喪失につながるとしても。

これは現状、プーチン氏には協議から失うものがほとんどないことを意味する。

トランプ氏はかねて、ウクライナとの戦争において「ロシアには全てのカードがそろっている」と主張しているが、戦場はこの2年間ほぼ膠着(こうちゃく)状態にある。

ロシアは部分的に戦果を拡大しているものの、現状で勝利しているわけでは全くない。ただこれも今後、米国がウクライナへの武器と諜報(ちょうほう)の供給を停止するのであれば変わる可能性がある。

「プーチン氏はウクライナに侵攻した際、容易かつ迅速な作戦になるだろうと踏んでいた。3年が過ぎ、彼はウクライナの20%を支配下に置いているが、それと引き換えに無残極まる犠牲を払ってきた。つまり、実質的にロシアは敗れているのだ。ウクライナの方がより早く敗れているということではあるが」。代表的なロシア分析家のマーク・ガレオッティ氏がCNNに対し、そう指摘した。

プーチン氏とその取り巻きにとって、トランプ氏による停戦への圧力は迅速な勝利を保証する機会を与えるものでしかなかったが、その間にも一方の目は長期的な目標をずっと見据えていたと、ガレオッティ氏は述べた。

「プーチン氏はチャンスを逃さない。動的で混乱した状況を作り出すのを好むが、そうした状況からはありとあらゆる機会が噴出する。彼は後から、自分にとって魅力的な機会をただ選び取ればいい。途中で考えが変わっても構わない」(ガレオッティ氏)

長期計画

プーチン氏と側近らが極めて明確に述べているように、同氏らの長期的な目標は変わっていない。平和を望んでいると口にはしていても、ロシアの当局者らはウクライナにおける紛争の「根本原因」を「排除」しなくてはならないと主張し続けている。

クレムリン(ロシア大統領府)の見解によれば、これらの「根本原因」とはウクライナの主権であり、民主的に選出されたゼレンスキー大統領ということになる。過去30年におけるNATOの東方拡大もそうだ。

プーチン氏は22年2月にウクライナへの全面侵攻を命じた。同国の体制を転換し、ロシアに親和的な政権を樹立する計画だった。目標はウクライナをベラルーシのような従属国に変え、今後NATOや欧州連合(EU)に加盟するのを阻止することだった。

現状、軍事力の行使による目標達成は実現していないが、だからと言ってプーチン氏が計画を断念したわけではない。

それどころか同氏は、別の方法で目的を果たそうとしている可能性がある。

「ロシアにとって、他国で自国の望みを達成する最も簡単な方法とは、軍事的手段を用いるのではなく、干渉と選挙過程を利用することだ」。前出のベルジナ氏はそう指摘する。その上で、これこそ停戦発効後にロシア政府が試みる可能性のある手法であり、実現する公算は大きいと付け加えた。

ロシアがゼレンスキー氏の正統性に疑問を呈し、選挙の実施を求め続けているのも、恐らくこれが理由だろう。だからこそクレムリンは、トランプ氏がこの言説を採用してゼレンスキー氏を「選挙なき独裁者」と呼んだことを喜んだ。ロシアによる侵攻を理由に発動したウクライナの戒厳令では、紛争が継続している間の選挙の実施を禁じている。

トランプ氏とバンス米副大統領はウクライナの当面のNATO加盟を否定。プーチン氏はこの問題に関する米国の確約を求めており、今後もウクライナの加盟はないとする米国の明言を停戦合意の一部に盛り込もうとしている。

ウクライナ北東部ハルキウ州で、ロシア軍の陣地に向けた榴弾砲の発射準備を行うウクライナ軍兵士/Alex Babenko/AP
ウクライナ北東部ハルキウ州で、ロシア軍の陣地に向けた榴弾砲の発射準備を行うウクライナ軍兵士/Alex Babenko/AP

しかしベルジナ氏によると、ウクライナ側につく欧州の同盟国はプーチン氏の約束を真に受けてはいない。プーチン氏は、ウクライナが同氏の言うところの中立国になれば、戦闘を停止するとしている。

「トランプ氏とプーチン氏が何を考えていようと関係ない。彼らが今週もしくは年内にどのような調整を実現するつもりなのかにかかわらず、欧州の多くの人々は今やプーチン氏を基本的に信用ならない人物と見なしている」

「ロシア側が強い願望を抱き、再び軍事力に手を出そうとする可能性はあるのか? 間違いなくある。だからこそ欧州各国は極めて現実的な姿勢で、将来の交戦を想定している」(ベルジナ氏)

全ては個人的感情

ロシア人の調査ジャーナリストで安全保障の専門家、アンドレイ・ソルダトフ氏は、英ロンドンで亡命生活を送っている。同氏によればプーチン氏と側近らは「今ならトランプ氏から何らかの恩恵が期待できる」と考えているという。

「彼らは戦術的な部分での勝利を想定しているが、トランプ氏が自分たちの本当に望んでいるものを与えてくれるとは考えていない。それは欧州における安全保障体制の完全な再編だ」

「クレムリンにとって、戦争の相手はウクライナではない。これは西側諸国との戦争であり、モスクワに住む多くの人々は、米国と何らかの長期的な合意が実現できるなどとはほとんど信じていない」。ソルダトフ氏はCNNの取材に答えてそう語った。

ロシアは米国に対して長年警戒感を抱いてきた。

「それは彼らの極めて個人的な感情と結びつく。全員が若いKGB職員だった当時、彼らは自らの社会的地位を失い、ロシア社会での居場所がなくなった。国を失ったのだと、彼らは説明する。それは極度に屈辱的な経験だった」(ソルダトフ氏)

「彼らは西側がロシアを完全に破壊、征服しようと何世紀にもわたって画策してきたのだと本気で信じている。単なるプロパガンダではなく、心の底から信じ込んでいる」。一方でプーチン氏は、ウクライナに関する自らの計画を自分自身の(不正確な)歴史解釈に当てはめてもいる。それはソ連崩壊よりも相当以前の時代に由来する。同氏がしばしば論じるところによれば、ウクライナは本当の意味での国ではない。なぜならウクライナとウクライナ人は、より大きな「歴史的ロシア」の一部だからだ。

専門家は当然ながら、この説をナンセンスと一蹴する。

「プーチン氏が語っているのは、ロシアとウクライナ、ベラルーシにはルーシと呼ばれる共通の政治的祖先がいたという事実だが、それは現代の国と同様のものとは言えず、中世初期から後期にかけて存在した政治的主体に他ならない。そもそも共通の祖先がいるから現在のウクライナには存在権がないと主張できるのだろうか。今のどの国を見ても、10世紀と同じ姿をしている国などない」。英ノッティンガム大学でロシア語とスラブ語を研究するモニカ・ホワイト准教授はそう述べた。

プーチン氏はロシアの宗教的アイデンティティーを引き合いに出して自らの計画に援用することも多い。ロシア正教会の最高指導者キリル総主教は、ウクライナとの戦争を最も声高に支持する人物の一人だ。

ロシアのサンクトペテルブルクにあるアレクサンドル・ネフスキー大修道院を訪問したプーチン大統領(右から二人目)とロシア正教会のキリル総主教/Alexander Kazakov/AFP/Getty Images
ロシアのサンクトペテルブルクにあるアレクサンドル・ネフスキー大修道院を訪問したプーチン大統領(右から二人目)とロシア正教会のキリル総主教/Alexander Kazakov/AFP/Getty Images

「ソ連崩壊後、ロシアは先祖から伝わる正教会の土地とのつながりを失った。プーチン氏の計画には、10世紀のルーシに由来する連続性を、純粋な正教会の継続性と共に取り戻す試みが含まれているのだろう」「実のところ同氏が現在やっていることは、ロマノフ朝初期の一部の皇帝と大差ない。彼らはオスマン帝国やカトリック教会の支配下にあった正教会の土地を奪還しようとし続け、最終的にそれを成し遂げた」(ホワイト氏)

プーチン氏の圧倒的なまでの願望は、ロシアを国際舞台に華々しく復帰させることにあると、ホワイト氏は示唆する。それは欧州と米国の間に楔(くさび)を打ち込み、西側に敵対する国々と連携することで果たされるという。

「ロシアが望むのは、あらゆる重要な場に関与することだ。従って次に浮上する問題は、必ずしも欧州における領土征服ではないかもしれない。いずれにせよ、ロシアはより強力な国家連合の主役に収まる必要があるだろう。そこに中国やイランなどを組み込むつもりなら、連合を定義するのは混乱や不安定化も辞さないその姿勢ということになる」。ホワイト氏はそう付け加えた。

世界最大の面積を有するロシアこそ、世界の運営に関与するべきだ。プーチン氏は明らかにそう確信している。同氏と気の合いそうな人物が一人、ホワイトハウスにいる。かねて明言している通り、トランプ氏は最大かつ最強の国であれば望むもの全てを手にして当然と考えている。それがグリーンランドであろうと、パナマ運河であろうと、ウクライナの鉱物資源であろうと。

「基本的にはこういうことだろう。トランプ氏に関する限り、ウクライナは金で買われた属国なのだから、その立場を理解して受け入れなくてはならない。とにかく米国はまず、ロシアとの間で何らかの取引を成立させ、その後でウクライナに話題を戻すつもりなのだろう」。前出のガレオッティ氏はそう説明した。

本稿はCNNのイバナ・コッタソバ記者による分析記事です。

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