世界の水循環のバランスが崩壊、「人類史上初」 食糧生産半減の恐れも
水循環の崩壊は気候変動と「深く結びついている」と、報告書は結論する。
土壌や植物に含まれる水を意味する「グリーンウォーター」の安定的な供給は、植生を支える上で極めて重要だ。植物は温室効果を持つ二酸化炭素を内部にため込むことができる。ところが湿地や森林の破壊などで人間が悪影響を及ぼせば、植物の吸収する二酸化炭素量が減少し、地球温暖化に拍車がかかる。気候変動による高温は地形を乾燥させ、湿度が失われることで火災のリスクも高まる。
世界の水循環の模式図。水は湖や河川の水を意味する「ブルーウォーター」と、土壌・植物に含まれる「グリーンウォーター」に分類されている/Global Commission on the Economics of Water
報告書の計算によれば、人々が「尊厳ある生活」を営むには最低でも1日平均約4000リットルの水が必要だという。これは国連が基本的に必要と定める50~100リットルを大きく上回る。大半の地域では、現地の水源から供給できる量はこれを下回っている。
報告書の著者らは、世界各国の政府が水循環を「公共の利益」と認識し、問題解決に向けて集団的に取り組む必要があると訴える。各国は国境を隔てる湖や河川だけでなく、大気中を長距離移動する水を通じても相互に依存する関係にある。つまり一国の下す決定が、他国の降雨を阻害する可能性もある。
報告書は、「経済における水の根本的な再適応」が必要だと説く。具体的には水の価格を上げることによる浪費の抑制、水資源が圧迫されている地域で水を豊富に必要とする穀物を栽培する傾向に歯止めをかけることなどが挙げられる。データセンターのような大量の水を使用する施設についても、同様の措置が必要だという。
世界貿易機関(WTO)の事務局長で上記コミッションの共同会長、ゴズィ・オコンジョイウェアラ氏は「世界の水危機は悲劇だが、水の経済学を変革する好機でもある」と指摘。水に適正な価格を設定するのは重要で、それにより「水の希少性とそれがもたらす多大な恩恵を認識出来るようになる」と付け加えた。