最後は人肉食に、DNA解析が明かす北極探検隊の壮絶な末路

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サー・ジョン・フランクリンの北極探検の末路を描いた版画。1896年に英王立芸術院に展示された英国人アーティスト、W・トーマス・スミスの絵を基にしている/Historia/Shutterstock

サー・ジョン・フランクリンの北極探検の末路を描いた版画。1896年に英王立芸術院に展示された英国人アーティスト、W・トーマス・スミスの絵を基にしている/Historia/Shutterstock

(CNN) 人肉食の痕跡のある遺骨について、考古学者のチームがこのほど、失敗に終わった19世紀の北極探検で命を落とした英高級将校のものと特定した。消息を絶った乗組員たちの悲惨でむごたらしい最期に光を当てる研究となっている。

新たな研究では、遺骨のDNAと存命の親族から得られたサンプルを比較する手法により、白骨化した遺体が英海軍艦「エレバス」の艦長ジェームズ・フィッツジェームズのものであることを突き止めた。エレバスと姉妹艦「テラー」を指揮していたのは、サー・ジョン・フランクリン。北米沖を通って大西洋と太平洋を結ぶ「北西航路」の未踏海域を探検する旅を率いた人物だ。北米の北端を通る危険に満ちたこの航路は、カナダの北極諸島を縫うようにして曲がりくねっている。

2隻が英国を出発してから丸3年経った1848年4月、探検隊はフランクリンら24人が死亡したことを受け、氷に囲まれ身動きできなくなった艦を捨てた。フィッツジェームズは生き残った105人を率いて長い彷徨(ほうこう)の旅に出る。彼らは安全な場所を求めてボートを橇(そり)で運んだものの、苦難の旅の途中で全員が命を落とした。ただ、死亡時の正確な状況は今も謎に包まれている。

「探検は恐ろしい末路をたどった。それも、恐ろしいほど早く」。今回の研究を主導した考古学者で、カナダのウォータールー大学で人類学を教えるダグ・ステントン氏はそう話す。

別の研究チームは1993年、カナダ・ヌナブト準州のキングウィリアム島でフランクリンの部下の水兵少なくとも13人のものとみられる遺骨451片を発見しており、新研究でフィッツジェームズのものと特定された遺骨もその中に含まれていた。今回の研究結果は考古学誌「アルケオロジカル・サイエンス」に9月24日付で掲載された。

DNA解析でジェームズ・フィッツジェームズのものと判明したあごの骨。矢印は人肉食と一致する切り傷を示している/Anne Keenleyside
DNA解析でジェームズ・フィッツジェームズのものと判明したあごの骨。矢印は人肉食と一致する切り傷を示している/Anne Keenleyside

一部の乗組員が人肉食に走ったことは、1850年代に現地のイヌイットから収集した証言で示唆されていた。こうした報告はイングランドでは当初、信じられないという思いで受け止められたものの、40年にわたる調査の結果、探検隊の壮絶な末路を示す切り傷が相当数の遺骨に刻まれていることが判明した。

フィッツジェームズの遺骨の身元が判明したことで、英国やカナダ国民の心をつかんで離さない悲劇が一段と身近なものとなり、遺族に一定の区切りがもたらされた――。そう話すのは、英国立海事博物館の上級学芸員で人類学者、歴史家でもあるクレア・ウォリアー氏だ。「彼には人生があり、家族もいた。その言葉も残されている。明るく熱意にあふれ、冗談好きの人物だった」とウォリアー氏は語る。同氏は今回の研究には参加していない。

新たな研究で、サー・ジョン・フランクリンの探検に参加していた高級将校、ジェームズ・フィッツジェームズの遺骨に人肉食の痕跡があることが分かった/Alamy Stock Photo
新たな研究で、サー・ジョン・フランクリンの探検に参加していた高級将校、ジェームズ・フィッツジェームズの遺骨に人肉食の痕跡があることが分かった/Alamy Stock Photo

DNA解析と直系の遺族

研究チームがフィッツジェームズの遺骨を発掘した場所は、乗組員が上陸して避難と脱出を試みたビクトリー岬の南80キロに位置する。状況を総合すると、フィッツジェームズはビクトリー岬を出発して数週間で亡くなったとみられ、死亡前にすでに体調が悪化していた可能性もある。

発掘された遺骨は1994年にキングウィリアム島に返還され、石を積んで作った追悼施設に埋葬されていた。しかし2013年、ステントン氏らのチームは島を訪れ、DNA解析に使う遺骨のサンプルを採取。研究チームが注目したのは主に、壊れやすいDNAが保存されている可能性が最も高い歯だった。

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