Architecture

欧州の古城に新たな光を当てた、ドラマチックな写真集

中世ドイツのエルツ城

中世ドイツのエルツ城/Frédéric Chaubin/Courtesy of TASCHEN

何世紀にもわたり、巨大で孤立した石造建築の偉業であった中世の城は、歴史やファンタジー、戦争、ロマンスといった感覚を同時に呼び起こすものとして、西洋では多くの人の想像力をかき立てる特別な存在であった。時代劇や絵本、旅行パンフレット、ファッション雑誌には、中世の城が幾度となく描かれてきた。

だが、作家であり写真家のフレデリック・ショーバン氏は、最新著書「ストーン・エイジ:欧州の古城」の中で、散文と写真を駆使して中世とモダニズムを結びつけ、これまでの固定観念を打ち破ろうとした。

ショーバン氏は電話インタビューの中で、装飾を好まず、すっきりとした形を崇敬した有力な理論家や建築家を引き合いに出し、こう説明した。

「古城を単に歴史的な遺跡と見なす代わりに、この非常に原始的な建築を、20世紀初頭にアドルフ・ロースやル・コルビュジエの理論的な作品によって多少なりとも確立されたモダニズムの基本や原理に結びつけることに関心があった」「形態が機能に従うという原理は、この非常に原始的な建築で完全に表現されている」

ポルトガルにあるロマネスク様式のアルムーロル城は、イベリア半島におけるキリスト教の布教に大きな役割を果たしたテンプル騎士団が所有していた/Frédéric Chaubin/Courtesy of TASCHEN
写真特集:欧州の古城、写真家と巡る新たな発見の旅

ポルトガルにあるロマネスク様式のアルムーロル城は、イベリア半島におけるキリスト教の布教に大きな役割を果たしたテンプル騎士団が所有していた/Frédéric Chaubin/Courtesy of TASCHEN

城は10世紀に木造建築に代わるものとして誕生した。支配階級のための要塞(ようさい)と見なされていたため、装飾よりも防御が優先された。塔は外部の脅威から住民を守るために高く建てられ、水堀は庭園の構成要素というよりも防御の目的で設けられた。また、城の設計は戦争のルールや城内に住む人のニーズに応じて変化した。

「ストーン・エイジ」は、2011年に出版された「CCCP」に続くショーバン氏の2冊目の写真集である。「CCCP:Cosmic Communist Constructions Photographed」は、7年間にわたるソビエト連邦の建築に関する写真と研究をまとめたスタイリッシュな大作だ。一方、「ストーン・エイジ」は、ショーバン氏がクラシックな大判カメラを手に英国、フランス、スペイン、ドイツ、バルト諸国などを訪問し、10世紀から15世紀にかけて建てられた200以上の城を撮影した写真をまとめたものだ。

16世紀のルネサンス期に建てられたスペインのラ・カラオラ城/Frédéric Chaubin/Courtesy of TASCHEN
16世紀のルネサンス期に建てられたスペインのラ・カラオラ城/Frédéric Chaubin/Courtesy of TASCHEN

ショーバン氏は最終的な写真の選定を行う際、自身の包括的なテーマに沿って、城の歴史的な重要性よりも、立地の印象や建築の簡素さを優先した。

「建物そのものよりも、その背景が重要」「完全に孤立した城は最も興味深い。まるで自分がその城を発見したかのように感じられる」とショーバン氏は語る。

進化する役割

ショーバン氏は城に近づく際に撮影を行うため、写真は概して城が初めて姿を現した時の威容を捉えている。例えば、ドイツのグリンブルク城は、霜に覆われた地形を背景に黒いシルエットのように写る一方、スコットランドのストーカー城では穏やかな湖を隔てて撮影を行った。ショーバン氏は「初めて建物を見たときの、その一瞬の姿」を伝えたいという。

「私がしばしば遠くから城を撮影するのは、人は通常、遠く離れた場所から建物を発見するからだ」とショーバン氏は話す。離れた場所から撮影することで、「一緒に旅をしようと皆を誘っている」と述べている。

15世紀に建てられたスコットランドの要塞、ストーカー城の眺め/Frédéric Chaubin/Courtesy of TASCHEN
15世紀に建てられたスコットランドの要塞、ストーカー城の眺め/Frédéric Chaubin/Courtesy of TASCHEN

ショーバン氏は特に、フランス南部の砂岩でできた廃城ケリブス城や、スペインのアビラにある花崗岩(かこうがん)でできたマンケオスペセ城に魅了された。これらの城は周囲と自然に調和し、ショーバン氏の言葉を借りれば「地面から抜け出してきたよう」だという。

同書は、城の起源、進化、発展における地政学的な背景、廃城について、テーマ別に章が分かれている。ショーバン氏が取り上げた城は、建材や基本的な形態に共通点がある一方で、年代順に整理するのは困難を極めたという。

スペインの花崗岩の風景に溶け込むように見えるマンケオスペセ城/Frédéric Chaubin/Courtesy of TASCHEN
スペインの花崗岩の風景に溶け込むように見えるマンケオスペセ城/Frédéric Chaubin/Courtesy of TASCHEN

「私が撮影した欧州の中世の城は、10世紀ごろに建築が始まり、その後、何世紀にもわたり変化を遂げたため、特定の時代と結びつけることは非常に難しかった」(ショーバン氏)

例えば、ウェールズで撮影した13世紀の城は、武器や戦法の進化に伴い時代とともに変化し、ムーア人がイベリア半島に建てた城は、後に統治したカトリック教徒によって根本的に設計が変更された。ルネサンス期が近づき、侵略の脅威がなくなると、城は要塞から宮殿へと移行するため、装飾的な要素や大きな窓がしばしば導入された。

靄(もや)越しに浮かび上がるのは、12世紀に建てられたドイツのグリンブルク城/Frédéric Chaubin/Courtesy of TASCHEN
靄(もや)越しに浮かび上がるのは、12世紀に建てられたドイツのグリンブルク城/Frédéric Chaubin/Courtesy of TASCHEN

「15世紀以降、城は防衛用の施設である理由がなくなり、邸宅や宮殿になったり、はたまた朽ち果てたりした」とショーバン氏は説明した。

同書で取り上げられた時代に、ヨーロッパの国境が数世紀にわたって常に流動的だったことを考えると、城を場所別に分けることも同じく無意味に感じられる。また、度重なる侵略(現代のイングランドと中東の間に十字軍時代のノルマン様式の城跡が残っているのはそのため)や、異なる王族間の結婚によって建築様式が広く輸出され、城はその土地の風土を取り入れたものに変化していった。

だが最終的に、このように視覚的に一貫性が欠如したことは、ショーバン氏にとって不満というよりむしろ魅力の源となった。

「私は(類似点よりも)相違点の多さに感銘を受けた」「城の類型が非常に大きいので、扱うのが難しかった。だがそれと同時に、より興味深いものとなった」(ショーバン氏)

注目ニュース

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]