海面上昇の影響を受けやすいバングラデシュの遠隔地に建てられた病院が、世界で最も優れた建物に選ばれた。
バングラデシュ南部に位置し、たびたびサイクロンの被害に遭うサトキラ地区にあるフレンドシップ・ホスピタルが1月、2021年の権威あるRIBA国際賞を受賞した。同病院を設計した建築家らは、「配慮と思いやりを設計の中心に据えた」と称賛された。
病床数80床のこの病院の建物には地元産のれんがが使用されており、建物を取り囲むように一連の中庭や静かで日陰の通路が配置されている。病院の中心には角張った水路があり、その水路を境に入院病棟と外来棟が分かれている。
中央部分には水路が設けられている/Kashef Chowdhury/URBANA
RIBA国際賞を運営している王立英国建築家協会(RIBA)は同病院の設計について、周辺の田園地帯に溶け込んでおり、「訪問者、患者、医療従事者が高揚感や心地良さを感じられる」と称賛した。
この病院は、建築家のカーシフ・チョウドリ氏と、ダッカに拠点を置くチョウドリ氏の建築事務所アーバナ(Urbana)が、持続可能な開発を目指す非政府組織(NGO)フレンドシップから依頼されて設計した。チョウドリ氏は、RIBAの審査員団が「世界の周辺国(であるバングラデシュ)」の建築プロジェクトに国際賞を授与する決断を下したことについて「極めて重要な瞬間」と評した。
チョウドリ氏は報道声明の中で、「今回の受賞に刺激を受け、より多くの周辺国の人々が、資源や手段が限られているにもかかわらず、ではなく、資源や手段が限られているからこそ、人類と自然の両方に配慮した建築に取り組み、さらに今日我々が地球規模で直面している喫緊の問題の解決に向け、ともに立ち上がるかもしれない。そう考えると、勇気付けられる」と述べた。
中庭は自然換気を促すように配置されている/Kashef Chowdhury/URBANA
RIBA国際賞は、2年に1度、「デザインが優れており、社会的な影響のある」建物や建造物に授与される。RIBAは、フレンドシップ・ホスピタルの受賞を発表する報道発表の中で、同病院は海面上昇の影響で穀物畑が小エビの養殖場に転換されるほど「脆弱(ぜいじゃく)でダイナミックな環境」に建設されたと指摘した。
そのため、この病院にはいくつかの持続可能な設計上の特徴がある。例えば、複数ある中庭は、自然換気を促すように配置されているため、空調設備は必要ない。また建築家らは、病院の周りから流れてくる雨水を貯水槽に誘導する排水システムを作った。このシステムにより、貯水槽にたまった水を後日利用できるだけでなく、病院の浸水も防げる。
RIBA国際賞の審査員団は、欧州、米国、アジア、南米の専門家らで構成され、フランスの建築家兼都市計画家のオディール・デック氏が団長を務めた。デック氏は報道声明の中で、フレンドシップ・ホスピタルは「医療へのアクセスの不平等や、気候崩壊が脆弱なコミュニティーに与える壊滅的影響など、世界が直面する重大な課題」に対しても意義のある建物だ、と述べた。
さらにデック氏は「(この病院は)比較的少額の予算で、困難な状況的制約があっても、設計が優れていれば美しい建築物を建てられることを証明した」と付け加えた。
建物には地元で作られたれんがが利用されている/Kashef Chowdhury/URBANA
フレンドシップ・ホスピタルは、11カ国の16の建築プロジェクトの中から最終選考に残った3つのプロジェクトのうちの1つだった。最終選考に残った他の2つは欧州のプロジェクトで、1つはベルリン博物館島にあるアートギャラリーのジェームズ・サイモン・ギャラリー、もうひとつはデンマークの首都コペンハーゲンにある全長約160メートルの歩行者専用の橋、リール・ランゲブロ橋だ。
RIBA国際賞は本来、20年に授与される予定だったが、新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)の影響で1年延期された。前回同賞が授与されたのは18年で、その時はブラジルの農村にある学校が世界で最も優れた新しい建築物に選ばれた。
1月25日には第2の賞も発表され、イランの首都テヘランにある「革新的な」れんが造りのオフィスビルを設計したイランのフーバ・デザイン・グループがRIBA国際新進建築家賞を受賞した。