旧ソ連や東欧圏の各地にある巨大な団地群は、戦後、欧州で住宅供給が促進された証しとして存在する。20世紀後半に一斉に建設されたこれらの団地は、大抵の場合、人々になるべく迅速かつ安価に住宅を提供するために、実用的なデザインとなっている。
これらの団地の中にはすでに取り壊されたり、荒廃しているものもあるが、多くは、それらを建設した共産主義政府よりも長く存続している。
出版社兼デザインスタジオ、ズパグラフィカの創業者であるデビッド・ナバロ氏とマルティナ・ソベッカ氏は、2012年から、東欧の老朽化したコンクリートブロック造の建物の写真を撮り始め、さらに現在もそれらの建物を「我が家」と呼ぶ人々と面会し始めた。
当初2人は団地をバックに紙でできたその団地の模型の写真を撮るつもりだったが、その代わりに、団地の住民らに、その模型を手に持っているポートレートのモデルになってもらった。
そして10年後、2人は、その地域の写真家らの協力を得て、37都市に位置する40の団地の写真と物語を収めた写真集を出版した。
かつての東ベルリンからロシアの人里離れた都市ノリリスクに至るまで、多くの場所で取材をしたナバロ、ソベッカ両氏は、酷評されることの多いこれらの団地に住む住民から、断熱不良や維持管理の欠如といったさまざまな問題に関する苦情を聞いた。しかし、その一方で、冷戦時代の住宅を称賛したり、懐かしむ住民も少なからず存在することが分かった。
2人が新刊「The Tenants: Concrete Portraits of the Former Eastern Bloc(居住者たち:旧東欧のコンクリート団地)」の前書きでも述べているように、彼らの取材対象である団地の住民らは「団地の黄金時代と暗黒時代」の両方を経験している。
バーバラさん、ポーランド・ヴロツワフのプラク・グルンヴァルツキ団地(本文上の写真)
「私はこの団地の最初の入居者の1人で、4階の自分のアパートを大変気に入っている。うちには広々とした3つの部屋と小さなキッチンがある」
「この団地の唯一の欠点はハト。あれは本当にひどい。リフォームのおかげで団地の外側はきれいで清潔に見えるが、彼らは約束したのにバルコニーの床にセラミックを敷かなかった。その上、住民は今もこのリフォーム代として毎月約200ズウォティ(約6000円)も支払っている」
ヨゼフさん、チェコ共和国プラハのイジニ・メスト団地
David Navarro/Martyna Sobecka/Zupagrafika
「これらのパネラーク(プレハブコンクリート)住宅は、人々が住居を確保できるよう大急ぎで建設された。ここでは誰もがこの住宅を気に入っていたが、その後ビロード革命が起き、彼らはこの団地群の取り壊しを望んだ。当時この団地が取り壊されていたら、我々は今頃ホームレスだった」
「我々がアパートを購入した当時は大変手頃な価格だったが、今は400万コルーナ(約2300万円)もする。あまり資産がない人には非常に高価だ」
ジナイダさん、ロシア・サンクトペテルブルクのノボスモレンスカヤ団地
Alexander Veryovkin/Zupagrafika
「ここには若者はほとんど住んでいないが、この団地には多くの利点がある。まず比較的静かで、地下鉄にも近く、周りに緑も豊富だ。主な欠点は、壁、床、天井がでこぼこしていること。建設中に何かうまくいかないことがあったのだろう」
ギビさん、ジョージア・トビリシのスカイブリッジ団地
Giorgi Zatiashvili/Zupagrafika
「私は40年前から橋のある階に住んでいる。橋が建設される前に階全体が閉鎖され、その階に住んでいたのは私だけだった」
「この丸い窓は、かつては形状や機能を変えられないバルコニーだったが、現在は一部の住民が室内の暖房の効きを良くするために窓をふさぎ、彼らの(暖房から出る)排ガスだけが私のバルコニーに上ってくる」
ディヴナさん、セルビア共和国ベオグラードのイースタンシティゲート
Milos Stankovic/Zupagrafika
「この建物は古いが、しっかり建てられている。この団地はベオグラードの彫像だ。基礎は地下深くまで打ち込んであるため、高層階も地震から保護されている」
クリスティンさん、ドイツ・ベルリンのベルリナー・ケルプラッテ
David Navarro/Martyna Sobecka/Zupagrafika
「私はベルリンのプレンツラウアー・ベルク(の東部地区)で生まれ、70年代にここに越してきた。現在、9階の2ベッドルームのアパートに住んでいるが、私と飼い犬が暮らすには十分すぎる広さだ」
「家賃は月500ユーロ(約7万円)で、わずかな年金しかもらっていない私には高額だ。しかしこの最高の立地を考えれば決して悪くはない。窓からはテレビ塔も見える」
Zupagrafika