Architecture

8万本の植物が生い茂る高層ビルがオープン シンガポール

ファサードに多くの植物を採用した高層ビルがシンガポールにオープンした

ファサードに多くの植物を採用した高層ビルがシンガポールにオープンした/Courtesy Finbarr Fallon/Bjarke Ingels Group

どの都市でも緑地を確保することは至難の業だ。ましてや世界でも有数の人口密度を誇る都市では言うまでもない。そのため、シンガポールの繁華街で、散歩をしようと新しい公園を探している人は、空を見上げる必要があるかもしれない。

2018年に着工し、最近完工した高層ビル「キャピタスプリング」は、ガラスとアルミニウム製のファサードが建物の3分の1の高さまでそびえ立ち、地上数十メートルの部分に植物や樹木が生い茂っているのが見える。通行人や会社員は、このいわゆる「緑のオアシス」に続くエレベーターを利用できる。緑のオアシスは、熱帯植物に囲まれた4階建てのらせん状の小道で、途中には運動器具やベンチ、テーブルなどが点在している。

建物の中に「緑のオアシス」が設けられている/Courtesy Finbarr Fallon/Bjarke Ingels Group
建物の中に「緑のオアシス」が設けられている/Courtesy Finbarr Fallon/Bjarke Ingels Group

キャピタスプリングは高さ280メートルで、現在シンガポールで最も高いビルのひとつ。建物はシンガポールの大手不動産会社キャピタランドと三菱地所が所有し、投資銀行のJPモルガンもテナントとして入居している。だが、ビジネス街に単なるオフィススペース以上のものを提供しようというシンガポール政府の方針に従い、開発会社はビルの景観エリアの一部を一般に開放した。

緑のオアシスよりも上の階には、さらに多くの施設がある。建物の最上階には面積およそ418平方メートルの屋上農園があり、敷地内にある3つのレストランに果物、野菜、ハーブ、食用花などを供給している。CNNが取材した際、この農園を管理している都市農家は、毎月推定70~100キログラムの農産物を生産していると述べていた。

エリアの一部が一般に開放されている/Courtesy Finbarr Fallon/Bjarke Ingels Group
エリアの一部が一般に開放されている/Courtesy Finbarr Fallon/Bjarke Ingels Group

51階建てのこの建物内には、約8361平方メートルの敷地に8万本以上の木や植物が植えられ、階下には屋根付きの広場もある。カルロ・ラッティ・アソシエイトと共同でタワーを設計したデンマークのビャルケ・インゲルス・グループ(BIG)によると、敷地内の植物のほとんどはシンガポールの固有種で、年間を通じて高温多湿の環境に適応しているという。

建築家たちは、キャピタスプリングについて説明する際、自然とデザインの融合を表す「バイオフィリック(生物親和的)」という、最近はやりの用語を用いている。BIGのプレスリリースによると、緑は「熱帯雨林における植物の階層構造を模倣」して配置され、直射光をほとんど必要としない樹木は、背の高い樹木からなる「天蓋(てんがい)」の下に植えられた。

BIGの創業者であるビャルケ・インゲルス氏は声明で、「シンガポールの都市は、非常に密集していると同時に緑が多いというユニークな特徴を持つことから、熱帯都市を垂直に探求するというデザインにした」と述べ、このタワーは「都市と田園、文化と自然が共存できる未来像のようだ」と付け加えた。

高さ280メートルのキャピタスプリングはシンガポールで最も高い建物のひとつ/Courtesy Finbarr Fallon/Bjarke Ingels Group
高さ280メートルのキャピタスプリングはシンガポールで最も高い建物のひとつ/Courtesy Finbarr Fallon/Bjarke Ingels Group

ガーデンシティー

キャピタスプリングは、ここ数年でシンガポールのダウンタウンコア地区にオープンした、人目を引くバイオフィリックビルのひとつだ。数ブロック先にあるパークロイヤル・コレクション・ピッカリング・ホテルは、約1万4864平方メートル以上の緑に囲まれ、バルコニーには樹木や植物が茂っている。南へおよそ1.5キロ行ったところにあるオアシアホテルは、20種類以上のつる植物がファサードに群生し、赤色の外観が徐々に緑色に変わりつつある。

ロンドンの半分以下の面積の土地に600万人近くが住むシンガポールにおいて、緑地の建設は単なる企業の寛容な行為ではない。場所によっては法律で義務づけられている。

シンガポール政府は、建国の父であり元首相のリー・クアンユー氏が1960年代に自国を「ガーデンシティー」と称して以来、数十年にわたり緑化を推進してきた。都市計画家は街全体に植樹を行い、広大な公営住宅での造園プロジェクトを展開した。

ビルには多くの緑の空間が存在する/Courtesy Finbarr Fallon/Bjarke Ingels Group
ビルには多くの緑の空間が存在する/Courtesy Finbarr Fallon/Bjarke Ingels Group

またシンガポール政府は、新たに高層ビルを建設する際には、民間の不動産開発業者にも緑化のためのスペースを確保するよう求めている。キャピタスプリングがあるダウンタウンコア地区では、敷地全体の総面積に相当する緑地面積を確保することが義務づけられている。(キャピタランドとBIGによると、キャピタスプリングはこの法定最低面積を約40%上回っている)

シンガポールの都市再開発局は、緑化計画を推進すると同時に、夕方や週末には不気味なほど静かなこのビジネス地区を「24時間活気のある商業地区」に変えたいと願っているという。このため当局は、既存の建物の所有者に対し、レジャー施設やライフスタイル施設を備えた複合施設に転換するためのインセンティブ(動機付け)を提供している。

そして、恐らくシンガポールの社会活動で最も重要なのは、島内の至る所にあるホーカーセンターと呼ばれる調理済み食品の市場だろう。

キャピタスプリングの「緑のオアシス」/Courtesy Finbarr Fallon/Bjarke Ingels Group
キャピタスプリングの「緑のオアシス」/Courtesy Finbarr Fallon/Bjarke Ingels Group

キャピタスプリングの建設に伴い、80年代からこの場所にあったホーカーセンターは取り壊された。だが今年初め、4年間の工事を経てビルの2階と3階に56店舗が入居するホーカーセンターがオープンし、元々この土地にあった一部の店舗が戻ってきた。同センターは、シンガポールの他のホーカーセンターと同様、政府が所有し管理している。

ホーカーセンターの成功は、インゲルス氏の言う、キャピタスプリングが「働き、暮らし、遊ぶための多様な場所」になったかどうかを最終的に示すものになるかもしれない。

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