外食は5000年前にも現代と同様、人々の間で人気だったようだ。中東イラクの考古学者らがこのほど、紀元前2700年に遡(さかのぼ)る酒場の跡を発掘した。
古代の都市ラガシュで活動していた研究者らが、地表からわずか48センチの深さに埋まっていたかつての酒場を発見した。屋外のダイニングと屋内の1部屋に別れた構造で、ベンチのほか、かまど、古代の食べ物の残り、5000年前の冷蔵庫まで含まれる。
研究者らは当初、自分たちがいるのは開けた中庭だと考えた。発掘が困難な、「屋外にむき出しの」空間だ。ペンシルベニア大学の考古学者、リード・グッドマン氏は、CNNの取材にそう語った。
その不思議な中庭へ数カ月後の昨年秋に戻ってから、現場の責任者を務めるピサ大学のサラ・ピッツィメンティ氏は溝を広げる作業を行った。
するとチームは業務用サイズのかまどと、気化冷却を利用して食べ物を冷やす仕組みの古代の「冷蔵庫」、円錐(えんすい)状の容器十数個を発見。容器の多くには魚の残りが入っていた。これにより、中庭は屋外のダイニングエリアとして使われていたことが分かった。
古代都市ラガシュでの次なる計画について話し合う研究チーム/Lagash Archaeological Project
グッドマン氏は「この場所をお披露目する上での一番の見どころは、まさにこの巨大なかまどだと思う。実際に美しい」「様々な形での燃焼や灰の堆積(たいせき)から、土壌がある種虹のような色合いを帯びる。内部は大きな煉瓦(れんが)で組まれている」と指摘する。
現代名をテル・アル・ヒバとするラガシュは、メソポタミア南部で最古にして最大の都市の一つ。紀元前5000年紀から紀元前2000年紀の半ばまで、およそ5.2平方キロメートルの範囲に人が暮らしていた。
考古学上重要な遺跡であり、もっとも最近の発掘は2019年に再開された。これはペンシルベニア大学考古学人類学博物館(ペン・ミュージアム)とケンブリッジ大学、イラク考古遺産委員会が合同で取り組むプロジェクトの一環で、ドローン(無人機)画像や遺伝子解析といった新技術を活用する。
最新の技術を駆使して地中を「眺める」考古学者。発掘は必要な場合のみに行うことが可能になる/Lagash Archaeological Project
従来の発掘は、宗教建築とエリート層の理解に焦点を当てていた。しかしラガシュ考古学プロジェクトの責任者でペン・ミュージアム中近東部門の学芸員も務めるホリー・ピットマン氏は、こうした最近の発掘で非エリート層に注力。古代の都市に関して、より広範な知見を提供することを念頭に置く。
酒場の発見は、ピットマン氏らのチームが掲げる全体像を裏付ける。つまり、社会はエリート層と奴隷身分の人々のみで構成されていたわけではなく、古代の中間層もまたその一員だったという見方だ。従来は中間層を含まない考察が支配的だった。
「事実として人々が集う場所があり、座って酒を酌み交わし、魚の煮込みを味わうことができる。彼らは王の圧制の下で労働しているわけではない」と、グッドマン氏は指摘する。
「まさしくその場所に既にあるものから、格段に色鮮やかな都市の歴史が伝わってくる」