Architecture

屋上にそびえる巨大な戦車や飛行機、伝統的な貯水タンクだった インド

写真家のラジェシュ・ボラ氏は屋上に装飾のある建物が並ぶパンジャブ州の奥地を訪れた

写真家のラジェシュ・ボラ氏は屋上に装飾のある建物が並ぶパンジャブ州の奥地を訪れた/Courtesy the artist/PHOTOINK

(CNN) インド北西部パンジャブ州にある村、ダウラットプールの通りにひしめく雑多で色とりどりの建築物を見下ろしたとき、写真家のラジェシュ・ボラ氏は幸運に恵まれたと感じた。目の前には、薄緑色の建物の屋上に取り付けられたエア・インディア機の巨大な模型が見える。その反対側にある黄色い家屋の屋上では戦車の模型が銃口を向け、ハッチから兵士の人形が乗り出していた。

遊園地から持ってきたようなデザインだが、これらは民家の屋上に作られた手の込んだ貯水タンクだ。ボラ氏が写真に収めたこの現象は、約50年前に同州全体に出現し伝統となった象徴的な建築だ。ムンバイを拠点に活動するボラ氏は数年にわたってこれらの撮影を続け、今夏フランスの写真展「ランコントル・ダルル」に出展している。150の村を訪れ、撮影した写真は数百枚に上る。

ボラ氏はCNNとの電話インタビューで、派手な装飾は「形と機能を組み合わせた素晴らしいアイデア」だと語った。この地域で取材をしていた2014年に初めて貯水タンクを発見したときは、この種の彫刻を見た人たちと同じように同氏も面白がったという。「しかしその後、建築写真家として、地元の職人が建てた家屋に彫刻が組み込まれていることに驚いた」

屋上に飾られた世にも珍しい彫刻は、その年に帰国したインド人移民や、この地域にまだ住んでいる家族が注文したものが多い。機能的な貯水タンクもあれば、より伝統的な配管の上に置かれているものもある。ボラ氏はそれぞれが各家庭の物語を伝えていると説明する。

ウイスキーボトルの彫刻が飾られた家/Courtesy the artist/PHOTOINK
ウイスキーボトルの彫刻が飾られた家/Courtesy the artist/PHOTOINK

「スポーツをする人はサッカーボール、シェフなら圧力鍋、おいしい飲み物が好きな人はウイスキーのボトルを置く」という。飛行機、戦車、車も人気のモチーフになった。「彼らの個人的な願望すべてがその人の家に体現されている」

ボラ氏は昨年、「Everyday Monuments(原題)」という本を出版した。この本は、同氏が訪れた村で撮影した写真や、建築家、学者、学芸員による文章をまとめ、この個性的な伝統を探求している。同氏らの調査によると、この地域には家主やその家族と口頭で話しながら協力し、生き生きとした彫刻を制作する職人が推定約30人いることが分かった。

ディアスポラの象徴

ボラ氏は、世界中の移住に関するフォトエッセーの制作中に訪れたタルハン村のグルドワラ(シーク教寺院)で、偶然これらの建物に出会った。飛行機の寺院として知られるこの寺では、インドを出国するためのビザ(査証)がすぐに承認されることを祈る人々が模型の飛行機を供えにやってくる。ボラ氏は、成功した人の多くは最終的に村へと戻り、新築の家に飛行機を付け加えると聞いたという。

ボラ氏は14~19年にかけて6回訪れ、この傾向の全容を深く理解し始めた。この動きは、カナダ、英国、米国などの国々でパンジャブ系移民のコミュニティーが繁栄した70年代に始まった。特注の貯水タンク人気が高まるにつれ、地元の職人はこの建築技術を高めるようになった。好まれるデザインは年月とともに移り変わる傾向にある。例えば1980年代にインドが人気のマルチバンの製造を始めると、住戸の上にもバンが出現するようになった。所有者が海外から個性的なアイデアを持ち帰り影響を与えたことで、村にさまざまな国の建築様式が混ざり合うようになったのも目にしたという。

マルチバンのデザインのタンク/Courtesy the artist/PHOTOINK
マルチバンのデザインのタンク/Courtesy the artist/PHOTOINK

当初、貯水タンクを記録していくのは困難だった。パンジャブ州の辺境地域はまだグーグルマップに表示されていなかったため、村を訪れてはうまくめぐりあえることを願うばかりだった。

ボラ氏は「運が良い日は3~4種類の貯水タンクが見つかる可能性がある。もしくは何も見つからない場合もある」と話す。複数のデザインを一つのフレームに収めることができたダウラットプールは貴重だ。

この地域は大きく変化している。ボラ氏は、特に疎外された背景を持つインド人が経済的流動性を高め、移民2世、3世が海外で富を蓄える中、この伝統がどのように拡大し、変化するかは分からないと語った。

ボラ氏は若い世代について「インドに戻ってくるだろうか。自分の家を建てるだろうか。これらの家を大切にするだろうか。私たちには分からない」と話す。「これらの家は30~40年後も手入れをしないと傷みやすい。おそらく無くなってしまうだろう」

ボラ氏は、パンジャブ独特の建築遺産のアーカイブを制作し続けたいと願っている。もし自身が依頼するとしたら選ぶであろうデザインの彫刻を持つ家を探し続けるつもりだ。「それはカメラだ」と笑う。5600キロ以上旅してきたが、まだカメラを冠した家は見つけていない。

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