中国の芸術家チャン・シャオドン(張曉棟)氏は、北京にある自身のアトリエで、何百枚もの薄紙を1枚ずつ重ね、1枚の完全かつ完璧な絵を完成させる。この精巧に作られた本を開くと、ページがまるでアコーディオンのベロ―ズ(蛇腹)のように動く。
この中国の古代芸術「龍鱗装(りゅうりんそう)」の歴史は、今から1000年以上前の唐の時代までさかのぼる。王族や読み書きができる上流階級の家庭で代々伝わった龍鱗装の書籍は、完成品が龍に似ており、各ページが龍の鱗に見えることからそう呼ばれるようになった。
現在、龍鱗装の書籍はほとんど残っておらず、龍鱗装の技術自体も絶滅の危機に瀕していたが、チャン氏はこの技術を研究し、再生させることを決意する。チャン氏は、故宮博物院に1冊だけ残っていた龍鱗装の書籍を参考に自ら印刷、装丁を行い、4年がかりで龍鱗装の書籍を完成させた。この作品は、香港で開催されたアート展示会「アート・セントラル」に出品された。
同展示会のキュレーター、イン・クォック氏によると、チャン氏は現代において龍鱗装の技術を実践した初の芸術家だという。
忘れ去られた技術の再生
チャン氏の最新作は、中国の古典小説「紅楼夢」の龍鱗装版だ。120章で構成されるこの複雑な構造の本の制作に当たり、清時代の芸術家、孫温が描いた230枚の絵の再現という骨の折れる作業を行う必要があった。チャン氏は、紙を折り畳んだり、切り取る古代の技術と現代の技術を組み合わせ、まず工場で繊細な紙に絵と文字を印刷した後、それらを切り取ったり薄く切ったりしながら孫温の絵を再現した。
芸術家チャン・シャオドン(張曉棟)氏が装丁を手掛けた龍鱗装版の「紅楼夢」=Sin Sin Fine Art
またチャン氏は、伝統的に龍鱗装に使われていた、わら紙、竹、絹糸、木などの材料を調達するために旧市街や文化遺産に指定されている場所を訪れた。しかし、装丁の過程で最も重要かつ難しいのは、各ページを正確に配置することだ。
完全な絵を作るには、1枚1枚の紙を適切な位置に正確に配置する必要がある。チャン氏によると、たとえ100分の1センチのずれでも、数百ページを同時に見せた時に、目に見える大きなミスとなる恐れがあるという。
古今の技術を組み合わせながら、清時代の芸術家が描いた絵を再現した=Jacquie Manning
龍鱗装は、チャン氏の懸命な努力にもかかわらず、依然として絶滅の危機に瀕しているが、クォック氏は、中国で文化遺産を保存する取り組みが広がっていることに勇気づけられているという。
チャン・シャオドン氏が手がけた「Hu Chi Tian Wang」(2018)=Sin Sin Fine Art
クォック氏は、「これまでも中国の伝統芸術への関心は常に存在したが、今、伝統的な技法に関する実験的、現代的解釈に関心を示す人が増えている」とした上で、「それが示すのは、より若い世代の芸術家たちが実際どのように伝統的フォーマットを使って周囲の環境に対応できるのかという点だ」と付け加えた。