エジプト・ギザの古代ピラミッド群の端で、約5000人の建設作業員が待望の大エジプト博物館(GEM)を完成させるべく24時間体制で作業を行っている。今年末にオープン予定のこの博物館の総面積は約48万平米で、完成すれば1つの文明に特化した博物館としては世界最大となる。
「(博物館の建設にあたり)現代技術のあらゆる手段が考慮された。それは博物館の見学者にいつまでも記憶に残る体験をしてもらうためでもあるが、同時に古代文明の遺産を考えうる最高の環境で保存するためでもある」と語るのは、GEM館長のタレック・タウフィク氏だ。
総工費10億ドル以上のこの博物館には、エジプトで最も貴重な古代文明の遺物の一部が所蔵されるとともに、それらの修復も行われる。広々とした前面ガラス張りの建物からは、ギザ高原や博物館からわずか2キロの距離にある大ピラミッドなど、広大なパノラマが楽しめる。
首都カイロからGEMの予定地に移されたラムセス2世の巨大像 Credit: Dana Smillie
保存作業
環境保護活動家のモハメド・ヨースリ氏は、ツタンカーメンのサンダルを受け取った時、修復は不可能と言われたという。今から3500年以上前のファラオの履き物は、ぼろぼろに破れていた。靴底は裂け、かつて複雑な模様だったビーズ細工もずっと昔に破壊され、貴重な宝は永遠に失われたと思われた。しかし、ヨースリ氏はあきらめなかった。
「われわれは、特別な接着剤を使って新たな修復法を編み出した」とヨースリ氏は述べ、見事に修復されたサンダルを見せた。そして「(サンダルは)最悪の状態だったが、元の立派な姿を取り戻したと思う」と付け加えた。
修復されたツタンカーメンのサンダル Credit: Dana Smillie
GEMには、このサンダルの他に何万点もの品が展示され、その多くは、多数の環境保護活動家や考古学者によって再生された。数千年の歴史を持つ、保存すべき文明が存在するエジプトにとって、この遺物の再生は長年の懸案だった。
今や世界最大の保全センターの1つであるGEMの専門研究所がなければ、遺物の一部は永遠に失われていたかもしれない。
大エジプト博物館の保全センターで太陽神ラーの像に向き合う修復の専門家 Credit: Dana Smillie
GEMに展示されている遺物は、以前はカイロ中心部のタハリール広場にあるエジプト考古学博物館に所蔵されていた。エジプト考古学博物館は、かつては同国で最高の歴史博物館とされていたが、建物は老朽化し、今では博物館というよりも歴史的遺物の保管庫と化していた。
「その点、大エジプト博物館には古代文明の遺物をその素晴らしい姿のまま展示できるだけの十分なスペースがある」とタウフィク館長は語る。
観光産業の復興
GEMは今年末にソフトオープンが予定され、当初は、博物館の約3分の1のスペースに少年王ツタンカーメンの所有物が展示される。現在、GEMの17の研究室が、ツタンカーメンの5万点に及ぶ遺物の展示の準備を手伝っている。
ツタンカーメンの墓から出てきたチャリオット(二輪戦車)の修復に取り組む専門家 Credit: Dana Smillie
エジプトは2011年のアラブの春以来、不安定な状況が続いている。エジプト革命により、当時のホスニー・ムバラク政権が崩壊し、GEMの建設が大幅に遅れた。また、かつてエジプトの国内総生産(GDP)の11%以上を占めていた観光産業も大打撃を受け、回復に時間がかかっている。
「エジプト人は常に、この(GEM建設)プロジェクトに心血を注いできた。この値段を付けられないほど貴重な遺産に現代的かつ安全な環境を提供することがいかに重要であるかを心の奥底で理解していたからだ」とタウフィク館長は言う。
馬で引く戦車の一部を修復する作業員ら Credit: Dana Smillie
「多くの人々が、直接的あるいは間接的にこのプロジェクトの恩恵を受けるので、全体的には、エジプトと観光産業に(良い)影響を与えるだろう」