英国の刑務所だった施設の壁に脱獄を試みる受刑者を描いた壁画が出現し、神出鬼没の覆面アーティスト、バンクシーの作品ではないかとの臆測が広がっている。
壁画が描かれたのはイングランド南部レディングにある、現在は使用されていない刑務所の壁。かつてはアイルランドの詩人、オスカー・ワイルドが収監されたことで知られる施設だ。
画風はストリートアート界で最も謎めいたスターであるバンクシーに通じるものがあるが、これまでのところ本人の作品である確証はない。
作中の受刑者はワイルドとみられる。刑務所の壁にぶら下がっているロープ状のものは、下の方に描かれたタイプライターから長々とはき出された用紙であるのが分かる。
ワイルドは1895年から2年間、この施設に収監されていた。罪状のもとになったのはかつて存在した「ひどいわいせつ行為」を禁じる法律で、同性愛の男性を訴追するのに適用されていた。ワイルドの1898年の作品「レディング牢獄の唄」は、収監された期間を振り返る内容となっている。
刑務所は2013年に閉鎖された。
昨年12月、バンクシーはイングランドのブリストルに新作の壁画を描いたことを確認していた。多くの人は同市をバンクシーの地元だと考えている。
旧刑務所に描かれた壁画/Nigel Keene/ProSportsImages/Shutterstock
「Aachoo!!(ハックション!!)」と題されたこの作品は、高齢の女性が激しくくしゃみをする様子を描いたもの。女性の前方へ勢いよく噴き出した飛沫(ひまつ)の先には入れ歯が浮かんでいる。
バンクシーは自らのインスタグラムで同作について確認。通常、作品の確認はこのページを通じて行われるが、これ以降で新たに掲載された作品はない。
それでも新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が起きた昨年は、感染をテーマにした作品が複数制作された。
4月には自宅の洗面所やトイレに描いたネズミのイラストを披露し、「妻は私の在宅勤務を嫌がっている」と投稿。
翌月の「ゲームチェンジャー」と名付けた作品では、マスクやマントを身に着けた看護師の人形で遊ぶ子どもの姿を描いた。
さらに7月、インスタグラムに投稿した動画の中で、自らのスプレーペインティングによってネズミのイラストをロンドンの地下鉄に描く様子を公開。人々に乗車の際のマスク着用を呼び掛けた。交通当局はこの後、「厳格な反落書きの指針」に違反するとの理由からこれらの絵を消去した。