Arts

別作品の下に隠れたピカソの「裸婦」、AIが命吹き込む

既存のピカソ絵画の下に隠れていた裸婦の肖像画が、技術の力によってよみがえった

既存のピカソ絵画の下に隠れていた裸婦の肖像画が、技術の力によってよみがえった/© 2021 Oxia Palus

巨匠パブロ・ピカソによる1枚の絵画作品について、表面の下に隠れる形でかがんだ女性の裸の肖像が描かれていることがわかった。人工知能(AI)や先進的な画像技術、3Dプリントを駆使して、肖像画の全貌(ぜんぼう)がこのほど明らかになった。

「ただ一人うずくまる裸婦」と名付けられたこの肖像画を再現したのは、失われた美術作品をよみがえらせる技術を持つ企業、オクシア・パラス。CNN宛ての11日の声明で明らかにした。

ピカソはこの肖像画の上に重ねる形で、1903年作の「盲人の食事」を描いた。蛍光X線分析(XRF)の画像により肖像画の存在は部分的に明らかになっていたが、オクシア・パラスは声明で「隠された作品の命をよみがえらせた」と述べた。

それを実現するため、同社はXRF画像と画像処理の技術を駆使して隠れた絵画の輪郭を出現させた。それから訓練したAIにより、ピカソの画風を再現した筆遣いを肖像画に加えていった。

ピカソが「裸婦」の上に塗り重ねて描いた「盲人の食事」(1903年作)/The Metropolitan Museum of Art
ピカソが「裸婦」の上に塗り重ねて描いた「盲人の食事」(1903年作)/The Metropolitan Museum of Art

さらに肖像画のハイトマップを作り出し、テクスチャーを加え、3Dプリント技術を使って画像をキャンバスに印刷した。

オクシア・パラスの共同創設者のジョージ・カン氏とアンソニー・ブーラシェッド氏は、ユニバーシティー・カレッジ・ロンドン(UCL)で機械学習の博士号取得を目指している。

ブーラシェッド氏はCNNによる取材で、芸術作品には複雑な情報が蓄積されているが、機械学習はそうした情報の分析を支援できる水準にまで発達したと述べた。

「すでに手にした複雑なシステムのおかげで、自分たちの歴史と文化をよりよく理解できるようになった」(ブーラシェッド氏)

同氏はまた、X線画像で上塗りされた作品が判別できる一方、AIによって分析にもう一つの側面が加わると指摘した。

裸婦が描かれたのは「青の時代」と呼ばれるピカソのキャリアの初期だが、ピカソとしては別の絵を上から塗るつもりはなかったと、カン氏は説明する。

「盲人の食事」のX線写真。裸婦の姿が部分的に浮かび上がっている/The Metropolitan Museum of Art
「盲人の食事」のX線写真。裸婦の姿が部分的に浮かび上がっている/The Metropolitan Museum of Art

「『ただ一人うずくまる裸婦』と『盲人の食事』を描いた時のピカソは貧しく、画材は高価だった。そのため前者の上から塗る形で、しぶしぶ描いた公算が大きい」(カン氏)

うずくまる女性の姿はピカソの作品「人生(ラ・ヴィ)」のほか、多くの素描にも登場する。画家自身がこの女性に親しみを抱いていたのかもしれないと、カン氏は付け加えた。

同氏は声明で「将来世代のために隠しておいた宝物がついに日の目を見て、ピカソが喜んでくれているといいのだが。今年は画家の死から48年後、肖像画が隠されてから118年後に当たる」と述べた。

ロンドンに拠点を置く調査会社、ドモス・アート・アドバイザーズに在籍するピカソの専門家、タイ・マーフィー氏はAIが制作した絵画について、ピカソの青の時代のように見えるものの、厳重に調べれば専門家の目にはおそらくオリジナルではないことが分かると指摘する。

それでも引き続き機械学習と3Dプリントを発達させていけば、将来一段と正確な作品を作ることができるはずだと付け加えた。

「時間をかけることだ」「そうした技術が出現すれば、作品はたちどころに説得力を帯びるだろう」(マーフィー氏)

アート界ではこうした手法に対する批判の声もあるが、マーフィー氏は機械学習を使って新たな作品を生み出すことを問題視してはいない。

「歴史が示すように、人々は常に他の芸術家の作品を模倣していく」「それはピカソの心の中を探る行為でもある」

ロンドンのチェルシー・カレッジ・オブ・アーツで作品の監督・収集を専攻する修士課程のトップを務めるデービッド・ディボーサ氏は、ピカソの作品が好きな人ならだれでも今回の肖像画の出現には心を躍らせるはずだと語った。そのうえで技術を組み合わせて活用している点に賛辞を贈った。

しかし、ディボーサ氏は当該の作品をキャンバスに印刷する何らかの必要があったのかと疑問を投げかけ、デジタルの作品なら、よりアクセスしやすいのではと問いかけた。

「限定的にしか公開されない芸術作品は、近くの美術館で展示されていても見られない人が大勢いる」(ディボーサ氏)

「『ただ一人うずくまる裸婦』をオンライン世界で実現したデジタル上の発見として強調することにより、我々はピカソを中心かつ前面へと押し出し、21世紀の新たな現実に引き合わせることができた」(ディボーサ氏)

当該の作品は、ロンドンで開催される「Deeep AI Art Fair」で、今月13~17日、展示される予定。

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