１０世紀のクメール彫刻の「傑作」をはじめ、個人収集家や米国の美術館に違法に売却されていた３０点の文化財が、ニューヨークの当局者からカンボジアに返還された。
米司法省によると、カンボジアの内戦中に寺院や遺跡から持ち出された古美術品は、「組織化された略奪ネットワーク」経由で国際的なアート市場に入り込んだ。
ニューヨーク州東部地区連邦検事局は８日、遺物の返還式を開催。ケオ・チェア駐米カンボジア大使も出席した。
１０世紀の砂岩彫刻「クジャクに乗ったスカンダ」はカンボジアに返還された文化財３０点の一つ/Andrew Kelly/Reuters
「青銅器時代から１２世紀に至るまでの様々な時代の彫刻や遺物は、カンボジア国民にとって極めて文化的価値の高いものだ。本日、故郷に送り届けることができてうれしい」と、ダミアン・ウィリアムズ検事は記者会見で述べた。
文化財のひとつ、ヒンズー教の軍神スカンダをかたどった１０世紀の砂岩彫刻「クジャクに乗ったスカンダ」は、１９９０年代にコー・ケー考古遺跡のプラサート・クラチャップ寺院から盗まれた。
その他返還された遺物には、重さ３トンもある象の姿をしたヒンズー教の神ガネーシャの彫刻や――古美術商連合が発表した「最も取り戻したい品トップ１０」にも挙げられている――６～７世紀の青銅仏像などがある。
略奪された文化財とともに会見を行う国務省高官＝８日/Andrew Kelly/Reuters
こうした遺物の返還は、古物商だった故ダグラス・ラッチフォード氏が購入・売却した東南アジアの文化財に関する進行中の捜査の一環で行われた。返還された遺物の大半は個人収集家から自発的に返却されたもの。一時はクメール芸術の権威として一目置かれていたラッチフォード氏だが、文化財の密輸および顧客への詐欺行為で連邦検事局から起訴された。同氏の顧客には個人収集家から有名博物館まで多岐にわたっていた。
「ダグラス・ラッチフォードは何年も違法事業を行ってきた。あからさまに米通関法を軽視し、略奪品を米国に密輸した」。米国土安全保障省調査局のリッキー・Ｊ・パテル特別捜査官は、１月にこのような声明を発表した。「ラッチフォード氏は国際アート市場で売りさばくために、通関書類を偽造し、収集家には虚偽の書類を提出してことを進めた」
１４年には、ラッチフォード氏が絡んでいた１０世紀の彫刻がオークションの出品を取り消され、カンボジアに返還された。カンボジアの内戦中に寺院から違法に運び出されたと捜査官が判断したためだ。５年後に連邦検事局はラチフォード氏を電子通信詐欺および密輸で起訴したが、同氏は２０年に起訴に対する答弁を行う前にこの世を去った。
返還式典前に撮影された１０世紀の砂岩彫刻＝ニューヨーク/Andrew Kelly/Reuters
チェア大使は８日の返還式で、古美術品はカンボジアの首都プノンペンの国立美術館に展示される予定だとロイター通信に語った。
大使は記者会見で報道陣にこう述べた。「我々の魂である文化遺産を守り、貴重な古美術品のさらなる略奪・盗掘・流出を防ぐ闘いに専念し、継続していかなくてはならない」
「こうした問題は１人の人間の行動をはるかに超え、さらに根深いものであることは周知の事実だ」とチェア大使はさらに続けた。「裕福な収集家や個人ディーラー、ギャラリー所有者、ひいては世界有数の施設も関係する世界的問題だ」
