集団ヌード撮影で知られる米国の写真家スペンサー・チュニック氏が、新たにヌードのボランティア数千人を募集している。
撮影地は豪シドニー。同市では2010年にも、名所のオペラハウスに約5500人が集合した。次回の「ヌード・インスタレーション」は、皮膚がんへの意識を高めるのが目的だ。
シドニーの海岸に来月26日、肌をあらわにした群衆が集まり、芸術作品と公衆衛生キャンペーンを兼ねた撮影イベントに参加する。
スイスの氷河でチュニック氏のためにポーズを取るボランティア/Spencer Tunick
チュニック氏は今回、皮膚がん検診の啓発に向け無料のクリニックを運営する慈善団体「スキン・チェック・チャンピオンズ」と提携。豪州の「全国皮膚がん行動週間」に合わせて撮影を行う。期間中には同団体の設立者、スコット・マグズ氏が全国民に向け、皮膚がん検診を受けるよう呼び掛ける。
マグズ氏は10年に友人のウェス・ボニーさん(享年26)を皮膚がんで亡くしてから同団体を設立し、実業家リチャード・ブランソン氏らの支援を受けてきた。チュニック氏のヌード写真で、世界各地から皮膚がんへの注目が集まることを期待している。
マグズ氏は報道発表を通し、豪州で1年間に2000人あまりが皮膚がんで亡くなっていると指摘。撮影ではこれに合わせ、少なくとも2000人の参加を目指すと表明した。
マグズ氏は声明で「10年3月の寒い朝、シドニーのオペラハウスに5500人が集まったのだから、2500人の目標を達成できると期待している」「参加希望者は誰でも歓迎する。皮膚がんを食い止めたいという情熱があれば、どんな体形や性別、人種の人でも歓迎だ」と述べている。
チュニック氏はキャリアを通じ、大規模ヌード撮影を100回ほど手がけてきた/Spencer Tunick
チュニック氏も声明で「皮膚検査の重要性を啓発する芸術ミッションに参加できて光栄」と述べ、自身もこのキャンペーンから得るものがあると言い添えた。チュニック氏は10年前に初めて皮膚検査を受ける気になったという。
ほかの芸術家が絵具やパステル、木炭、粘土などを使うのに対して、チュニック氏の作品を特徴付ける素材は人間の肌だ。
「私の作品制作では実にさまざまな体形や肌の色を扱う。裸の人間の形が私の表現手段なので、この取り組みに参加するのはまさにぴったりだと感じている」と、同氏は語る。
20年5月にはCNNとのインタビューで、「ヌードの人々をできる限り抽象作品の造形要素に近付けるのが私の仕事だ」と述べた。
自身の作品を通してヌードにつきまとう恥ずかしさを払拭(ふっしょく)し、人間の体を絵画や彫刻と同じひとつの芸術形式として尊重するよう働き掛けたいとも話していた。
米ニューヨーク州バファローのセントラル・ターミナルで実施したインスタレーションの様子=2005年/Spencer Tunick
これまでに独ミュンヘンからメキシコ市まで、世界各地で約100回、公共の場での大規模な集団ヌード撮影に挑んできた。メキシコ市の撮影には1万8000人がヌードで参加したとされる。
こうした撮影は容易ではなかった。何千人ものボランティアが一斉に服を脱ぎ捨てると市当局者らが割って入り、同氏は何度も逮捕された。
米ニューヨークのジュリアーニ元市長が、ヌード撮影は同市に「取り返しのつかない害」を及ぼすと主張し、米連邦最高裁との論争に巻き込まれたこともある。
18年には、豪メルボルンのスーパー駐車場で予定していた撮影にスーパーチェーン側からストップがかかったもの、交渉の末に許可を得られたことが広く報じられた。
来月の撮影はチュニック氏にとって豪州で4回目となる。参加希望者の申し込みは「Strip Off for Skin Cancer」のサイトで受け付けている。