英イングランド北西部にある城で作業する保存修復士らがこのほど、中世に由来する珍しい彫刻群の保全に成功した。これらの彫刻は風雨の影響で崩壊の危険にさらされていた。
イングランドの歴史上、ウィリアム2世が1092年に築いたカーライル城ほど多く攻め込まれた城はない。保全団体のイングリッシュ・ヘリテージはそう指摘する。
イングリッシュ・ヘリテージによる修復プロジェクトは既に完了している/Credit: English Heritage
1315年には、スコットランド王ロバート・ブルースがこの城を奪おうとした。1568年にはスコットランドの女王メアリーが場内の塔の1つに幽閉されている。城はその後イングランド内戦で重要な役割を果たし、「ボニー・プリンス・チャーリー」ことチャールズ・エドワード・ステュアートが率いたジャコバイト軍も18世紀、カーライル城を巡る戦いを繰り広げている。
城を最も特徴づけているのは「キープ」と呼ばれる天守で、その上階には一連の不思議な彫刻が彫られている。
描かれているのは実在の動物や神話上の生き物たちなどだ。イルカや馬、イノシシ、サケ、人魚、ヒョウのほか、イングランドの守護聖人の聖ジョージと竜の姿もみられる。このほか宗教的なシンボルも刻まれている。
ヨーク家の紋章の白バラや、リチャード3世の徽章(きしょう)のイノシシといった特定の図案は、1480年代前後を起源とする。
イングリッシュ・ヘリテージの歴史家らの見解によれば、これらの彫刻を彫ったのはアマチュアであり、プロの職人ではない。ナイフのような鋭利な道具を使用したものだという。
彫刻は従来、塔に捕らえられた囚人たちが彫ったと考えられていた。だが近年の研究では、城の守備隊か王室のメンバーが制作した可能性が指摘されていると、イングリッシュ・ヘリテージは説明する。
1092年に建てられたカーライル城はイングランドの歴史上、最も多く攻め込まれた城ともされる/Credit: English Heritage
作品を後世に残すという点に加え、彫刻の修復によってこれまで知られていなかった図案も明らかになった。具体的にはシカ狩りの場面や騎士の横顔像などだ。
イングリッシュ・ヘリテージは修復プロジェクトを今年に入り始動。近年の大雨による影響が、城と彫刻の損傷を速めていたことが理由だ。
専門の保存修復士のチームが、数百年分の堆積(たいせき)物や雨水による傷みを彫刻から取り除いた。修復は手作業で、化学物質を使用せずに行った。主な作業の一つは白色化した塩の層の除去で、これにはステンシル(型板)、ブラシ、メスを用いた。
イングリッシュ・ヘリテージでカーライル城の管理担当責任者を務めるジュリエット・フェローズスミス氏は報道向けの説明で、「今年は石造りのキープが建てられてから900年に当たる。我々の専門家チームによる懸命の取り組みのおかげで、歴史的な構造物が守られた。15世紀に壁に刻まれた興味深い図像は、将来にわたり保護される」と述べた。