Arts

K-POPのスターを目指して 「アイドル」への長く過酷な道のり

自分たちには新しいK―POPグループへの加入に必要な資質があるだろうか? 練習生たちはこれから答えを知ることになる

自分たちには新しいK―POPグループへの加入に必要な資質があるだろうか? 練習生たちはこれから答えを知ることになる/CNN

韓国ソウル(CNN) 少女7人が部屋に座り、名前を呼ばれるのを待っている。全員まだ若く細身で、華やかそのものだ。年齢は14~20歳。髪は光沢を放ち、肌にはシミひとつない。空気中に期待感が漂い、彼女たちの顔には緊張がありありと浮かんでいる。

彼女たちにはこれから、韓国の最新K-POPグループに加入できるメンバーが告げられる。数十億ドル規模に上る韓国アイドル産業の人気が世界で高まる中、韓国各地、そして世界中の数え切れない新星たちが同じ夢を抱いている。

だが、この部屋にたどり着くまでには長く、過酷な道のりがあった。少女たちは歌やダンス、ラップ、パフォーマンスの練習に何カ月、何年もの月日を費やし、その間ずっと厳しい練習と食事療法に従ってきた。

正規の教育を諦めたり、家族を遠くに残してきたりした子もいる。若者が一躍スターになり、グループがわずか数年で解散する目まぐるしいK-POPの世界にあって、一部の少女はこれが唯一のチャンスだと感じている。

「アイドルの世界では18歳は相当な年齢。だから今回の機会を逃したら、他の会社で私を受け入れてくれる所はないのではと心配している」。K-POP企業MZMCの最終選考に残った7人のひとり、リ・アインさん(18)はそう語った。

MZMCの創業者兼最高経営責任者(CEO)を務めるのは米国人のポール・トンプソン氏。K-POPソングの作曲やプロデュースを多数手掛けるトンプソン氏の推計では、同社は数千回のオーディションを経て約30人を正式な訓練生に選出した。そのうち現在も残っているのは7人のみだ。

MZMCのポール・トンプソン創業者兼最高経営責任者がレコーディングセッション中、練習生に指示を出す様子/CNN
MZMCのポール・トンプソン創業者兼最高経営責任者がレコーディングセッション中、練習生に指示を出す様子/CNN

残りは脱落するか、訓練生の成長スピードを見極める毎月の試験で振るい落とされた。

こうした振るい落としは巨大なK-POP産業では日常茶飯事だ。K-POPはアーティストの育成・生産プログラムの規模という点で、世界の他の音楽産業とは一線を画している。芸能事務所はスターの訓練やセレクションを行うだけでなく、スケジュールの指示や公式デビューの準備、メディア出演やコンサートの管理、インターネット上でのファンとの交流の促進、アイドルの私生活の監督まで手掛ける。

米国にもかつて、これと似たようなシステムがあった。「モータウン」と呼ばれるレーベルは1960年~70年代を通じて若い才能をスカウトし、パフォーマンスを仕込んだ。だが、「費用がかかりすぎるため」に消滅したと、トンプソン氏は語る。

だが、韓国ではこのシステムが花開いた。MZMCは比較的規模の小さい会社だが、トンプソン氏の見立てでは、大手レーベルなら数百人の練習生と契約を交わした上で、最終選考に向けて絞り込むことも可能だという。

最終評価の際にグループダンスのルーティーンを披露する練習生たち/CNN
最終評価の際にグループダンスのルーティーンを披露する練習生たち/CNN

MZMCにいた少女7人のうちの一人がブリトニー・ジャンさん(20)だ。米国で育った物静かなジャンさんは、K-POPの世界で夢を追うため、生まれ故郷の韓国に戻った。訓練生の中では最年長で、最後の5人残ることに自信を持っているように見えた。おそらく、何が懸かっているかを分かっているからだろう。

選出されなかった場合、「それはアイドルになれないことを意味する」。CNNの取材に答えたジャンさんは、K-POPのスターを指して使われることが多い「アイドル」という言葉を使った。「これは私の最後のチャンス」

過酷な訓練とプレッシャー

少女たちの1日はジムでの2時間で始まり、その後は終日、ボーカルやダンスなどのレッスンを受ける。キム・リウォンさん(14)のような若いメンバーは正規の学校に半日出席してからトレーニングに直行し、それが真夜中まで続くこともある。

中には家族と一緒に暮らすことすらせず、寮に滞在する少女もいる。その一人が日本から来たコガ・ラナさん(17)。唯一の非韓国人の練習生だ。

プレッシャーは容赦ないもので、スキルだけでなく容姿にも厳しい目が向けられる。その一因は、厳格な美の基準にのっとり、伝統的に白い肌や細身の体型、極度に女性的な特徴が重視されてきた韓国文化にある。韓国では二重まぶた手術などの美容整形はごく一般的で、親から卒業プレゼントとして贈られることも多い。

K-POPのスターに求められる美の基準はさらに高い。

「キーワードはアイドル(偶像)だ」。MZMCの創業者であるトンプソン氏はそう指摘する。「自分に似た誰かを偶像視したいとは誰も思わない。誰かを見上げて、『あの人のようになりたい。なんて清純で完璧なの』と言いたいんだ」

だが、スリムさへの要求が暗い影を帯びることもある。

「体重を理由に(訓練プログラムから)切られた人がいるのは間違いない」。台湾系米国人の元アイドルで、インディーズアーティストに転身したアンバー・リウ氏はそう語る。「とにかく断食するという不健康極まりない習慣に染まっていた。当時は16歳で、どうすればいいのか分からなかった」と振り返る。

K-POPグループ「miss A」の一員だった別のインディペンデント系ミュージシャン、ミンさんはCNNの取材に、約45キロが女性アイドルの標準体重とみなされていると説明した。

こうした期待値はMZMCの訓練生の日常生活に影響を与えており、彼女たちは摂取量や体重を細かくチェックする日々を送っている。

卵と鶏肉の昼食を取る練習生/CNN
卵と鶏肉の昼食を取る練習生/CNN

「食事の量を減らして、栄養価やカロリーを計算しながら食べないといけない。ちょっと難しい」。練習生のリさん(18)は笑いながらそう話し、好きな食べ物としてピザを挙げた。

一方で、「アイドルにとってはそれ(容姿)が最重要だとも言える。見られることが最も大事な仕事だから」とも言い添えた。

CEOのトンプソン氏によると、MZMCは訓練生の体格指数(BMI)を1カ月に2回、測定しているという。「彼女たちにはローストチキンやゆで卵などを提供している。食事の量は十分だ」と述べ、グループの「見た目の美しさ」のために食生活が重要だと擁護した。

また、事務所が練習生に整形手術を強要することはないと強調。何より重視するのは音楽的な才能だと述べた。

K―POPの有望株、ユン・ソヨンさんのレコーディング・ブースでの姿/CNN
K―POPの有望株、ユン・ソヨンさんのレコーディング・ブースでの姿/CNN

16歳の練習生、ユン・ソヨンさんはエネルギーと自信に満ちあふれ、黒い前髪をスタイリッシュに切りそろえている。目の整形手術を受ける案をかねて考えてきた。

「人々から愛される必要があるのが私の仕事。人々がデビュー時にもっとかわいい私の姿を見せてほしい、見せる必要があると思うなら、整形も悪くないと思う」

父親からは以前に反対を受け、一時は説得されそうになった。「ありのままの自分に自信を持つ」ことで、「本物らしさを評価する」ファンを獲得できるかもしれないと考えたからだ。

だが結局、スターを目指すというビジョンを優先する気になっている。

「いまの外見からそこまで変わらない整形手術なら、イエス。成功のためなら、やってもいいと思う」

名声の代償

グループが最終決定してデビューを果たしても、プレッシャーが和らぐことはない。むしろ、一段と増す。

飽和した市場でデビューする全グループのうち、BTSやBLACKPINK(ブラックピンク)のような誰もが知るグループが築いた世界的な名声を手にするのは1%未満だと、MZMCのキャスティングディレクター、ウーンギー・キム氏は指摘する。

そして、人気には制約が伴う。有名グループの熱狂的なファンはしばしば、メンバーの容姿やパフォーマンス、私生活の隅々にまで目を光らせる。喫煙や飲酒など「悪い」行動があったと認識されれば、世間の反発が広がり、スターたちは厳しいルールに縛られた生活を余儀なくされる。

ガールズグループ「aespa(エスパ)」の公演の様子。中央がカリナさん=昨年5月、ソウル/Han Myung-Gu/WireImage/Getty Images
ガールズグループ「aespa(エスパ)」の公演の様子。中央がカリナさん=昨年5月、ソウル/Han Myung-Gu/WireImage/Getty Images

こうした制約は恋愛にまで及ぶ。過去には交際を発表したアーティストに対し、怒ったファンが牙をむいた例もある。ガールズグループ「aespa(エスパ)」に所属するK-POPの歌手カリナさんは昨年、俳優との交際を公表した後、ネット上に手書きの謝罪文を投稿する事態に追い込まれた。ファンは「アルバムの売り上げが減少し、コンサートの席が空になる」と脅迫。そのわずか数週間後、交際は破局を迎えた。

著名人の相次ぐ死によりアイドルにかかる精神的負担が浮き彫りになったことを受け、近年、一部の芸能事務所はルールを緩和している。

ユンさん(16)は3年間にわたって毎月の選考を生き残った後の2023年、パニック発作に襲われた。父親がCNNに明かしたところによると、ユンさんは回復のため4、5カ月ほどトレーニングを休むことができ、復帰後は発作は起きていないという。

仕事に伴うプレッシャーは大きいが、K―POP産業は拡大しており、スターをめざす多くの若者にとっては人生を賭けた夢であり続けている。

グラミー賞授賞式に参加した「BTS(防弾少年団)」。ヒット曲の「バター」を披露した=2022年4月、ラスベガス/Frazer Harrison/Getty Images
グラミー賞授賞式に参加した「BTS(防弾少年団)」。ヒット曲の「バター」を披露した=2022年4月、ラスベガス/Frazer Harrison/Getty Images

室内で待つ7人の少女にとって、世界を股にかける文化産業に参加するチャンスは、ドアのすぐ向こう側にある。そこでトンプソン氏や他のMZMCの経営陣が、少女たちの運命を明かす。

少女たちは1人ずつ呼ばれて部屋に入った。ショック、喜び、そして涙を見せる子も。その日の終わりには、新しいガールズグループが誕生していた。名前は「VVS」。名称の由来はダイヤモンドの希少グレードで、2025年前半に正式デビューする予定だ。

リさん、コガさん、ジャンさん、キムさん、そして最後のメンバーであるジウ・ムンさんは全員合格した。しかし、ユンさんを含む友人2人が脱落したため、雰囲気はほろ苦いものだった。

脱落した2人の練習生は最終的に別の道を見つけ、ユンさんも代わりにソロラッパーのキャリアを目指している。だが、生き馬の目を抜く熾烈(しれつ)なK-POPの世界では、彼女たちがどこまで行けるか誰にも分からない。

トンプソン氏は最終メンバーを発表した直後、CNNの取材に「一定の成功は収めるだろう。適切なファン層、私たちの音楽を楽しんくれる適切な人々が見つかるはずだ」と語った。

そして、こうも続けた。「ブラックピンクになれるということか?」「それはまだ分からない」

原文タイトル:For those seeking K-pop stardom, the path can be long and grueling (抄訳)

注目ニュース

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]