西アフリカ・ベナン共和国南部の都市ガンビエは、湖の上に広がる水上都市だ。
密集して立っている住居や公共建物の周りに乱雑に広がる格子状の湿地は人工礁で、魚の養殖場や地元の水産養殖用の囲いとして利用されている。
造園設計家ジュリア・ワトソン氏の著書「Lo_TEK:Design by Radical Indigenism」には、このガンビエの珍しい環境インフラのような「自然を基にした技術」が100件以上紹介されている。
チチカカ湖の自生するアシで作られた住居/Credit: Enrique Castro-Mendivil
この本は、イラクやペルー、フィリピン、タンザニアなど、20カ国の都市、建物、インフラについて書いており、「伝統的生態学的知識(TEK)」と呼ばれる、先住民社会の中で生まれ、発展してきた技法や技術を紹介した世界で最も優れた実例集と言えるのではないだろうか。
地球の気候について、多くの科学者が、思い切った措置を講じなければ世界の気温は後戻りできない限界点を超え、100万種の生き物が絶滅すると警鐘を鳴らす中、TEKは、今日の建築家、計画者、設計者らがこの世界的な気候危機にどう対応すべきかについて、さまざまなアイデアを提供している。
例えば、インド北東部にある生木の根を編んで作った橋は、二酸化炭素を隔離し、地元の森林に貢献しつつ、環境に優しく、洪水にも耐えうるインフラを提供している。
「生ける橋」の下を歩く漁師の男性=インド・メガラヤ州/Credit: Amos Chapple
また、イラク南部マダンにある人工島は、弾力のある建築の土台を提供する一方で、多様な水界生態系の成長を促している。
さらに、キリマンジャロ山の南側のふもとの丘にある人口密度の低い都市では、バナナやコーヒーの木のフォレストガーデン(森の庭)の中で100万人が生活している。
そして、ガンビエの魚の養殖場やキリマンジャロのバナナガーデンのように、これらのシステムは、ほとんどの場合、食物を生み出す。
ワトソン氏は、これらのシステムがもたらす最も大きな影響について、生産性のある土地およびその土地とわれわれの都市との関係についてのわれわれの理解が変わる、つまり、都市設計の方法に(農業生産)を織り込むことにより、われわれの都市の農業を通じた環境への負荷を低減することにつながると指摘する。
この最も興味深い例のひとつが、東コルカタ湿地にある、広さ125平方キロという世界最大級の汚水を利用した水産養殖システムだ。
インドネシア・バリ島の棚田/Credit: David Lazar
人口1400万人の都市コルカタの端に位置するこの湿地には、村や水田の周りに養魚池、潟、水路がパッチワーク状に存在する。
「一見、湿地のように見えるが、これは人工的に作られたシステム」とワトソン氏は言う。
毎日、コルカタの汚水全体の少なくとも3分の1にあたる6億8000万リットルの未処理の汚水が、まず事前処理用の池に流れ込み、その後、地元の人々らが掘った浅い養魚池に入る。
「汚水は、エネルギーや化学物質を使わず、また産業用の汚水処理プラントも使わず、自然のシステムを通じて処理される」
イラク南部マダンでは数千年前からアシなどで作られた家屋で人々が生活している/ Credit: esme allen
「このシステムから出る水は、新鮮な水、あるいは清浄水なので、そのまま川に戻され、下流の生態系を破壊することもない。しかも、このシステムは、都市のための食物を生み出し、野菜を生み出す。そしてこの自然を基礎とした技術と関わりながら成長してきた文化が存在する」(ワトソン氏)
ワトソン氏は、これらのシステムが今日の都市計画立案者たちに刺激を与えることを期待している。
「彼らに考えてもらいたいのは、われわれのアグロエコロジカル・フットプリントを縮小し、二酸化炭素を隔離し、洪水を緩和し、文化を作り、雇用を生み出し、その上に経済的に実行可能なイノベーションや自然に基づく技術の創出だ」
「これは自然のシステムなので、われわれの都市に多くの利点がある上に費用もかからない。そして、このシステムは一種の複雑な生態学的関係によって動かされる」(ワトソン氏)