アラブ首長国連邦(UAE)ドバイで毎年開催される大学生や大学卒業者、大学教授を対象とした国際的な展示会「グローバル・グラッド・ショー(GGS)」は常にアイデアであふれている。中にはあきれるようなアイデアもあるが、逆に世界を変えうる優れたアイデアもある。
世界で最も多様な大卒者による設計プロジェクトの展示会と言われるGGSは、社会問題や環境問題の解決策を提供することを目的としている。さまざまなアイデアの相互作用や、教養豊かな人々が一堂に会する点などがこのイベントの魅力だ。
2021年のGGSは、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)の影響で、一部がバーチャル形式で行われたが、中東・北アフリカ地域(MENA)部門はドバイ・デザイン・ウィーク(DDW)の一環として対面形式で行われた。
20年と同様に21年もパンデミックに対応したコンセプトが多く、「ニューノーマル(新たな日常)」向けのアイデアが多く見られた。GGSのディレクター、タデウ・カラビエリ氏によると、今年のGGSには「2~3の傾向」が見られたという。
カラビエリ氏は「人々は健康とメンタルヘルスについて強い懸念を抱いている」とし、さらに「また、自宅をいかにして仕事、教育、医療、食料安全保障のための文明化した場所にするかについても関心を持っている」と付け加えた。
これまでと同様に、環境が重要な課題として取り上げられ、パンデミック関連の懸念と一致することも多かった。ドバイ・インスティテュート・オブ・デザイン・アンド・イノベーション(DIDI)の学生であるダリラ・マンスール氏とカヤ・トゥエニ氏の2人は、ハーブと野菜を同時に栽培できる屋内堆肥(たいひ)化機「ウェストロジー」を開発した。
トゥエニ氏は「我々はUAEの過剰な食品廃棄の問題の解決を目指している」とし、マンスール氏も「今は国内レベルで実施されているこの小さなプロジェクトが、いつか世界により大きな影響を与えることを願っている」と付け加えた。
1台で堆肥製造機と植物栽培機の役割を同時にこなす「ウェストロジー」。屋内用に設計されている/courtesy Global Grad Show
同じくDIDIの学生マジャール・エテハディ氏も、マンスール氏らと同様に故郷に目を向け、砂漠に種をまく太陽光駆動のロボット「アシードボット(A'seedbot)」を開発した。開発の動機は「周りにもっと植物や緑があればいいのに」との思いだという。
アシードボットは全長約20センチで、日中に充電し、夜間に動作するように設計されている。あらかじめ設定された半径5キロの範囲内で自律的に作業を行い、3Dプリンターで作成された脚で砂の上をはいながら、複数ある「目」の1つを使って種まきに適した水分を含む場所を探し出す。衝突回避機能を内蔵しているので、人間はロボットに種を補充するだけでいい。
エテハディ氏は「誰でも簡単に思い付く解決策だったと思うが、誰も思いつかなかった」と言う。現在、エテハディ氏はさまざまな種類の砂の上を移動できるロボットの開発に取り組んでおり、すでに数人の投資家がエテハディ氏のロボットに興味を示しているという。
太陽光で駆動する種まきロボット。日中に充電して夜間に作動する/Global Grad Show
一方、ダリヤ・エルシバン氏は、洗濯に新たな解釈を加えることを決意し、マイクロプラスチックが流れ出すのを食い止める方法を思い付いた。中東工科大学の学生であるエルシバン氏によると、衣類にはマイクロプラスチックファイバーが含まれていることが多く、これが洗濯中に衣類から抜け落ちて、海や川に流れ込む恐れがあるという。エルシバン氏は「(マイクロプラスチックファイバーで)我々の海が汚染される前にこの問題を解決すべく努力している」と言う。
そのエルシバン氏の解決策が「エコフィル(EcoPhil)」だ。この装置を洗濯機の前部に取り付けると、洗濯機から排出される水をろ過し、マイクロプラスチックが排水システムに入るのを防ぐ。フィルターの交換時期は専用のアプリが知らせてくれるという。
GGSのディレクターのカラビエリ氏は、GGSでは今後、環境に配慮したイノベーションがさらに増えると見ている。カラビエリ氏は「今ここで行われている会話が、将来の応募にさらに大きな影響を与えるだろう」と言う。
またカラビエリ氏は、GGSは変化を促す最高のきっかけだと主張する。カラビエリ氏は「GGSにはその力があり、皆さんの中で何かを引き起こす」とし、「まず意欲がわき、その後、思っていたより早く物事が変化するのではと期待する」と続けた。
さらにカラビエリ氏は「大学の革新者たちほど、真の、そして具体的な変化を起こすための設備にめぐまれているグループは他に存在しない」と付け加えた。