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英女王も引きつける新鋭デザイナー、リチャード・クインに聞く

Tim Whitby/BFC/Getty Images Europe/Getty Images

28歳のデザイナー、リチャード・クインのキャリアには決定的な節目がいくつもある。

たとえば昨年の春と夏、クインは代名詞の花柄をひっさげてリバティロンドンやディベンハムズとコラボし、ファッションの祭典「メットガラ」では、アマル・クルーニーのドレスを手掛けた。先ごろ行われた英ファッションアワードでは、ナオミ・ワッツが、スワロフスキーのクリスタルをちりばめた2019年春夏コレクションのローウエストドレスを身に付けている。

だが、クインが一躍世界の注目を集めたのは昨年2月だ。ロンドン・ファッションウィークの秋冬ショーに英エリザベス女王が登場し、新設の「クイーン・エリザベス2世ブリティッシュ・デザイン・アワード」を授与した。

ファッションライターでブロガーでもあるスージー・ロウは電話インタビューで、「メディアバリューという意味では、ああいった報道はお金で買えるものではない」と指摘。「彼にとって飛躍の瞬間だった。あの後から業界のあらゆる所で名前が挙がるようになった」と話す。

リチャード・クインのランウェイショーに出席したエリザベス女王。ファッション誌「ヴォーグ」の編集者アナ・ウィンターの隣に座っている/YUI MOK/AFP/AFP/Getty Images
リチャード・クインのランウェイショーに出席したエリザベス女王(左)。ファッション誌「ヴォーグ」の編集者アナ・ウィンターの隣に座っている/YUI MOK/AFP/AFP/Getty Images

セレブの間でもクインの名前は知れ渡っている。タンディ・ニュートンは昨年、2018年秋冬デザインに身を包んでBAFTAテレビ・アワードに登場した。レディー・ガガやモデルのアジョア・アボアーからも支持を得ている。

もちろん、女王にファッションショーに出席してもらうのは現実離れした経験だ。「大きな機会になるとは思っていたが、前例がないので事前に予想できることではない」とクインは振り返る。女王が出席するといっても、学校訪問のように地元紙の見出しを飾るだけではないか、と素朴に考えていたという。

「でも千載一遇の機会になった。前向きな展開が数多く生まれた」。取扱店舗は2倍になり、クインはファッション業界の出世街道に乗った。

女優ナオミ・ワッツはクインについて「彼のデザインはエッジが効いていてモダンだけど、クラシカルな感覚も漂わせている」と話す/Mike Marsland/BFC/Getty Images Europe/Mike Marsland/Getty Images
女優ナオミ・ワッツはクインについて「彼のデザインはエッジが効いていてモダンだけど、クラシカルな感覚も漂わせている」と話す/Mike Marsland/BFC/Getty Images Europe/Mike Marsland/Getty Images

筆者はファッションアワードの前週、ロンドン南部ペッカムの鉄道橋下にあるスタジオでクインに話を聞いた。簡素な室内には時折、頭上を走る列車の揺れが伝わってきた。

机の後ろには目を引く装飾が凝らされていた。これとは対照的に、クイン自身はパーカーに帽子という格好だった。

「彼は最初から自分のやりたいことを非常に具体的に思い描いていた」。スージー・ロウはそう語る。2016年にセントラル・セント・マーチンズ(CSM)で行われた修士コレクションの時からクインのファンだ。その作品については「マキシマルでプリントが中心」「少しゆがんでいてダーク」と表現する。

昨年5月には、アマル・クルーニーがリチャード・クインのデザインをまとってメットガラに登場。クインに世界的な知名度をもたらした/Noam Galai/Getty Images North America/Getty Images for New York Magazi
昨年5月には、アマル・クルーニーがリチャード・クインのデザインをまとってメットガラに登場。クインに世界的な知名度をもたらした/Noam Galai/Getty Images North America/Getty Images for New York Magazi

クイン自身の口癖は「恐れずに」「自分らしく」というものだ。だが、持ち味は花柄のドレスだけではない。私が会ったとき、彼はしっかりと目標を見据えており、野心にあふれ、実用主義的な印象だった。

「私は物の見方が変わっていて、ファッションをビジネスと捉えている。クリエーティブな姿勢を前面に打ち出してもよいが、ちやほやしてもらえる期間は長くないと思う」。そんな理由から、クインは2017年のH&Mデザインアワード受賞を機に、賞金を使って中古のプリント機器を購入。スタジオにプリント施設を設置し、自身の名を冠したレーベルと並行して運営している。

モデルの顔を布で覆うのはクインの代名詞とも言える演出だ/NurPhoto/NurPhoto/NurPhoto via Getty Images
モデルの顔を布で覆うのはクインの代名詞とも言える演出だ/NurPhoto/NurPhoto/NurPhoto via Getty Images

ファッション誌「ヴォーグ」の批評家、サラ・モーアは、クインが最初にこの構想を語った時のことを今でも覚えている。

「彼はアイデアがあるから話をしたい、と言って私の家に来た。CSMではプリントスタジオが非常に混雑していた。生徒は学外のプリントスタジオに行かなければならず、出費がかさんでいたことから、彼は自前の設備を整えようと考えた」

以来、バーバリーやJWアンダーソン、ポーツ1961といった有名ブランドに加え、チャールズ・ジェフリー・ラバーボーイやミミウェイド、ディラーラ・フィンディコグルーといった新進デザイナーも彼のプリントサービスを利用してきた。

昨年12月10日にクインが「ブリティッシュ・エマージング・タレント・ウィメンズウェア賞」を受賞した時の様子/Joe Maher/BFC/Getty Images Europe/Getty Images
昨年12月10日にクインが「ブリティッシュ・エマージング・タレント・ウィメンズウェア賞」を受賞した時の様子/Joe Maher/BFC/Getty Images Europe/Getty Images

こうした非常に現実的な考え方と、利益志向だが考え抜かれたコラボにより、クインはいつの日か、自身のブランドをディオールやバレンシアガに匹敵するものにしたい考えだ。

「私が考える成功者とは、ショーを開き、自分の手掛けた服を着る人を目にするようになって、従業員を雇うような人物だ。私にとっては、それこそが成功だ。『ロンドンの新星』と騒がれながらロンドン東部で貧乏暮らし、という状態は成功ではない」

「成功しようとしまいと、そこにたどり着くために全力を尽くす。今やろうとしているのは次の展開を考えることだ」

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