優雅なウェディングドレスで知られるウクライナのファッションブランド、ミラ・ノバは現在、同国の兵士や医療従事者が身に着ける衣服を製作している。ロシアが依然としてウクライナに対する激しい攻撃を仕掛ける中での取り組みだ。
米国、英国、フランス、中国など50カ国のブライダルブティックと取り引きのあるミラ・ノバの従業員は、ここ2週間以上働きづめだ。各国からのドレスの注文を満たすと同時に、追加的な衣類の製作にも従事する。「世界中の花嫁を幸せにしつつ、我々は自国を救うことにも注力している」。そう語る同社のウリヤナ・キリチュク最高経営責任者(CEO)は、並々ならぬ覚悟で事業の継続に取り組む。今回の戦争で多くの深刻な問題が浮上しても、その決意は変わらない。
CNNが共有したミラ・ノバの写真には、軍事用のネットを編む女性のほか、フード付きのフリースやアサルトベストを縫う女性裁縫師らが写っている。衣類の色は従来型の迷彩色だ。
サプライヤーのネットワークと連携することで、製作に必要な原材料の迅速な調達が可能になった。キリチュク氏はCNNの取材に答え、すでに1500個の製品を作ったと明かした。
軍事用ネットやアサルトベスト、その他の防護衣を製作する女性裁縫師/Courtesy Milla Nova
ミラ・ノバはすでに1500個の製品を作っている/Courtesy Milla Nova
同氏によると、一連の計画を準備し始めたのはロシアによるウクライナ侵攻の前だった。中心にあるのは自身のスタッフへの支援であり、どんな決断を下すにせよ「従業員を念頭に置く」と、同氏は説明する。
多くの従業員は、本社のあるリビウを経由する長い旅をへて作業場へとたどり着き、通常の職務で最も重要なウクライナ防衛の取り組みを支援するため残業して衣類を製作している。キリチュク氏は、すべての従業員が2月の支払いを受け取っていることを確認した。経営陣は「業務プロセスの編成と従業員への支払いのために24時間態勢で」業務を行っているという。
「CEOとしての主要な目標は従業員を守り、それぞれの明日を保証すること」とキリチュク氏。加えてウクライナ東部で最近難民となった人々から、新たな従業員を採用する用意もあるという。
ミラ・ノバの裁縫師らは、通常業務以外の時間外労働で軍事用衣類を製作している/Courtesy Milla Nova
ミラ・ノバは現在600人の従業員を抱える。西部のリビウを拠点とする従業員は、希望すれば隣国のポーランドに移ることもできる。同国の首都ワルシャワには、侵攻後に一時的な作業所が設置された。これまで同市に避難した従業員は70人。リビウには450人余りがとどまり、それ以外は地方やウクライナ国外に逃れる計画をすでに立てている。従業員の98%は女性で、多くが母親だ。会社による勤務地の移転は、多くの幼い子どもたちに関係するものともなっている。
ワルシャワの施設でウクライナをテーマにしたドレスを作る女性らと子どもたち/Courtesy Milla Nova
特別に製作されたウクライナ・スタイルのドレスの一例/Courtesy Milla Nova
ポーランドで勤務する裁縫師らは、ウクライナをテーマにした特別なドレスを縫製している。黄色と青の2色からなるこのドレス作りには一部の子どもたちも加わり、士気を高める手段の一つとなっている。キリチュク氏は、これらのドレスをNFT(非代替性トークン)として販売し、ウクライナのための慈善基金に活用する計画があると明かした。最終的には、軍需品から破壊された街の再建へと、取り組みの対象を転換できるようにしたいと期待を寄せる。
キリチュク氏は自身のチームを「とても誇りに思う」と強調。メンバーの「すばらしい献身と忠誠」に言及したうえで、戦時の女性には果たさなくてはならない重要な役割があるとも指摘した。それは他者の世話や保護であり、さらには「祈り、信じる」ことだという。